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ラスカルのケーキ


2日前の日曜日、たぬきケーキを買いに行った。

昭和レトロケーキで検索すると出てくる
たぬきケーキ。
私が子供の頃によく連れて行ってもらったケーキ屋さんには「ラスカル」という名前でショーケースに並んでいた。「あらいぐまラスカル」というより「たぬきラスカル」のケーキだ。
チョココーティングの下はバタークリームというバリバリ昭和50年代のケーキ。


検索して知った。
同じカタチのケーキが「たぬきケーキ」として
各地のケーキ屋さんで売られている。
一番近いお店を探した。
車で1時間以上かかる。
でも買いに行くことにした。


きっかけは『お金本』という文豪たちの貧乏な時代について書かれた本。
その中の平林たい子のエッセイを読んだ後、
自分の記憶の何かとつながるどうしようもない切なさを感じた。
頭の中を探して探して、あ!と思い出した。
前に夫から聞いたあの昔の話。夫が小5の頃の思い出話だ。


夫は小学生の間だけ私の地元に住んでいた。
そのため、昔の共通の話題が色々とある。
実は、私がよく連れて行ってもらったラスカルのケーキ屋さんの息子さんは夫の小学時代の仲良しで、洋菓子喫茶の2階の彼の自宅によく遊びに行っていたそうだ。ケーキ屋さんの彼は優しくて本当にいい子だったらしい。


夫が小5のある日の夜、急に彼のお母さんが家にやって来て、「お店のケーキが余ったからどうぞ」と箱を渡してくれたそうだ。箱を開けてびっくり!中身は豪華なフルーツが山盛りに飾られた大きなサイズのホールケーキ!
夫の5人家族でも半分を食べるのがやっとの大きさで、驚きつつも喜んで皆でいただいたそうだ。

次の日の朝、学校で彼にお礼を言おう!と夫はワクワク登校したが、残念なことに彼はお休みだった。
仲良しグループの他の友達の家にも同じように
ホールケーキが届けられていて、みんなも彼にケーキがどれだけ嬉しかったか!を伝えたかったので残念がっていた。


でも、次の日もその次の日も彼は学校を休んだ。


実はとても悲しいことに、そのケーキを届けてくれた後、彼の家族はいなくなっていた。
大人たちの口から夜逃げという言葉を聞かされ、小5の夫たちは状況を理解していった。


私は、ただでさえ友達と別れるのはとても辛いのに、お別れを言うこともできずに去ることになった彼の気持ちを思って泣きそうになった。
フルーツ盛りだくさんのデコレーションケーキ
を仲良しの友達の分作ってくれた彼のご両親の
気持ちも、大人になるほど胸にこたえる。


この話には続きがある。
その後しばらくして彼から手紙が届き、
黙ってお別れすることになってごめんなさいということと、いま新聞配達をして頑張っていることが書かれていたそうだ。


平林たい子のエッセイ『大晦日の夜逃げ』を読み、つながる切ない記憶を探し当て、センチメンタリズムで心がいっぱいになった日曜日の朝。
休日だ。どこか出かける?何か食べに行く?
気持ちを上向きに変えようとして行きついたのが
「ラスカル!もう一度あのケーキが食べたい!」だった。




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