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オンナ度〜パリ・ニース〜

まだ大人とはいえない年の頃、森瑤子さんの小説を読み、ある場面にドキッとした。
夫の不倫相手の女性宅を、妻である主人公が訪ねる場面。
玄関先に出てきた女性の、赤いペディキュアがきちんと塗られた足の爪を見て「負けた」と思う場面。
脳内に映像が流れ、「ああ、オンナ度ってこういうことだ」と妙に納得したのを覚えている。

女子力とは少し違う「オンナ度」。
私が今までオンナ度で「ああ、かなわない」
と思ったダントツ一位はFさんだ。

Fさんは実は男性である。
私が20代のころに画廊に勤めていた時期に出会った人。取引先のパリの美術品のお店の主人だ。
電話ではいつもオネエ系の話し方だったので、私の中に女性寄りの外見のFさん像が勝手に出来上がっていた。

勤務2年目の初夏の頃、そのFさんに直接お会いする機会ができた。
パリでの買い付けと、ポルトガルの作家さんの展覧会準備のヨーロッパへの仕事の旅に同行させてもらうことになったのだ。


まずはパリへ。
サンジェルマンで初めてお会いしたFさんは想像とは違い、立派な紳士だった。
髪型やシャツやジャケットの着こなしが上品な粋さに満ち溢れていて、所作もとてもカッコいい。ヒトへの気遣いも素晴らしく、女性にモテる男性の要素が揃っていた。
でも、話すとオネエ言葉というギャップがまた素敵だった。
色々な手続きで気難しそうなフランス人男性が相手のとき、流暢なフランス語の合間にコソッと「ちょっと、おっさん!早よしてちょうだい。」などと急に挟むなど、絶妙な笑いを与えてくれる人だった。Fさんがいると、笑うことが格段に増えた。
一度パリ滞在中の夕食時に、Fさんがフランス人のパートナーの男性を連れて来てくれたのだが、その彼もとても素敵な方だった。
只者ならぬ雰囲気の人だった。
私たちはその彼のおかげで、ルーブル美術館の長蛇の列を並ばずに展示を見ることができるなど
色んな場面で優遇対応を受けることができた。
ありがたや。

パリからポルトガルへ移動する前、ニースで数日過ごした。Fさんも同行された。

マティス美術館とアンティーブのピカソ美術館にも訪れた。
ピカソ美術館の近くにある大聖堂では結婚式が行われていて、ちょうど新郎新婦が皆に祝福されている映画のような場面に遭遇できた。


マティス美術館    家庭画報記事より


アンティーブ ピカソ美術館  美術館HPより



チケットが安い寒い時期のバックパッカー旅行でしかフランスを訪れたことがなかった私にとって、ベストシーズンのニースやカンヌは、もっと年を取って優雅な旅ができるようになれば行ってみたい遠い位置付けの場所だった。
だから思っていたよりも早く訪れることができて、夢のような気持ちだった。



ニースは想像通りの青い海と青い空だった。


他の人たちが水着に着替えて海へ入っていく中、
Fさんと通訳のかっこいいN女史と私の「泳がない3人組」は、彼らを遠目に眺めながらゆっくりおしゃべりを楽しんだ。
Vogue編集長のアナ・ウインターのようなカッコいいN女史は、若い頃に手荷物ひとつでシベリア鉄道でフランスに渡り、そのままパリで生きていくのを決めたという女性。彼女にも素敵なフランス人のパートナーがいた。

海風を感じ海を見つめながら話をしていると、
N女史に「お付き合いしてる人はいるの?」と
尋ねられた。
私は「はい」と答え、彼について少し話した。
すると、N女史はふふっと微笑みながら、
「あなた!その彼ときっと結婚するわね。」と言われた。
Fさんもうんうんとうなずいていた。
私がなぜと尋ねると、
「今のあなたを見ていたら分かるのよ。とてもいい恋愛をしているのが分かる。」と。
エスプリ感が漂うカッコいい日本女性は、サラリと出る言葉も素敵だ。
不思議な気持ちで海を眺め、日本のことをぼんやり考えた。

そして、、、N女史に言われた通りその時の彼と
結婚している。笑


CREA「世界極楽ビーチ百景」より



空も海も青い。すごく青い。

Fさんもフランス人の彼について話しはじめた。楽しいエピソードや、彼がどんなに大切な人かを。
やはりパリ生活が長い人は、口から出る言葉が
違う。知らず知らずのうちに、エスプリ感が
染み込んでいくのかもしれない。

そして、最後にまぶしそうに海を見つめながら、

「D(Fさんの彼の名前)はね.....風船のようにふわふわしていた私をしっかりつかまえてくれた人なの。」

まるで海の向こうに彼がいるかのような
うっとりした眼差しで教えてくれた。
完全にオンナだった。
変な言い方かもしれないけど、本当の女の人よりもずっとオンナっぽいと思った。

ニースへ移動する前、パリのFさんのお店の奥の仕事場を見せてもらった。
「ここでいつも電話をしてるのよ!」と指をさされた机の上のペン立てが目に入った。
一番手前に入れてあったのはペンではなく、
何と、、、まつ毛のビューラーだった!

私は「負けた」と思った。
Fさんは恋敵でもないし、オンナ度争いを
してもいないけど。
私は....まつ毛のカールよりも目の乾燥が気になる
から、一番手前は目薬だ。
負けだ。負け。




アンティーブのピカソ美術館で、
当時の彼(夫)に買ったお土産のトートバッグ。
結局は私が思いきり使い込み、
ヨレヨレとなり、
クローゼット内に眠っている。笑





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