プロローグ
僕は卓上に並べられたカードを1枚捲った。
人々は人類の歩みを0から22に分割し、それら一つ一つに寓意絵と名前をつけた。
俗に言う、タロットカード。それを右手に持ってしげしげと眺めてみた。
捲ったカードには愚者と書かれている。王冠を身につけ、杖を持つ旅人。その先には崖があり、あと一歩足を進めれば彼は奈落に落ちていく。それを人は愚かしい者と考えて愚者と呼んだ。
僕はその愚者を卓上に戻して、お母さんの言葉を思い出しながら世界を俯瞰する。
…世界は今日も美しい。人間の醜美はいつ見ても綺麗だ。
人類は時に醜く、悪辣で合理的。なのに非合理的に人を助け、人を愛し、自分が損をしてでも誰かに尽くそうとする。
─────彼は、それを知らなかった。いや、知った上で非としたのかもしれない。
今も彼とは気が合わないと思う。だけれど、同じ視点で物事を捉えていた彼は間違いなく同類だ。趣味嗜好が違うだけで、同じ人でなしであることに変わりはない。
僕はもう1枚、カードを捲った。そこには隠者の寓意絵が描かれていて、意味を理解した僕はクスりと笑ってしまった。
この世界で、これから飛んでもない事が起きようとしている。
誰がその役をするのかは分からないし、誰もそんな役を好んでやろうとは思わないと思う。でも、きっと彼らは楽しそうに、または嬉しそうにその役目を果たすだろう。
僕は、それを誰も見てくれない世界から応援することにした。
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