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鈴木敦子 写真展「lmitation Bijou」【前編】

この記事は鈴木敦子 写真展「lmitation Bijou」のために事前に行われた、作家と菊田樹子による対談記事【前編】です。

【作家】鈴木敦子(写真家)
【聞き手】菊田樹子(インディペンデント・キュレーター)

〔プロフィール〕
鈴木敦子 / Atsuko SUSUKI
写真家
1981年福井県生まれ、2008年大阪ビジュアルアーツ専門学校写真学科夜間部卒業。
主な展覧会グループ展に、2010年「夜明けまえ」(明るい部屋/東京)、2012年ヨコハマフォトフェスティバル ヨコハマ赤レンガ、2013年「red letter」(森岡書店/東京)、2015年「北海道東川町アーティストインレジデンス作品展」など。これまでに写真集『夜明けまえ』と『red letter』を私家版で出版し、2019年に『lmitation Bijou』(DOOKS)を刊行。

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菊田樹子 / Mikiko KIKUTA
インディペンデント・キュレーター
ボローニャ大学(イタリア)視覚芸術学科で学んだ後、キュレーターとして活動を始める。2002年より『日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイ』写真プロジェクト、2008年より塩竈フォトフェスティバル(宮城)のアーティスティックディレクター、2016年よりKanzan gallery(東京)、2018年よりさどの島銀河芸術祭(新潟)のキュレーターを務める。

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菊田:今回の写真集を拝見した時に、まずこの手の平に収まるサイズの写真集ってあまり見たことないなと思いました。それから外側のハードカバーを開いてみるとタイトルが先に入らずいきなり作品の写真がスタートして、表紙の見返しを開くと飯沢耕太郎さんのテキストが入っている。いわゆる一般的な写真集の形とは違うというか……。どういう経緯でこのような形になったのですか?

鈴木:写真集の判型を小さいものにしたいなというのは最初からありました。作品のタイトルに“Bijou(宝石)”という言葉を含んでいるのもあり、伝えたい内容的にもあまり大きいものをイメージできなかったのと、いつも作品の写真をセレクトする時や本の編集をする時にイメージをハガキサイズにプリントして、それをひたすら組み替えたりしながら作業をする事が多いのですが、この作品の写真も最初は大体150枚前後くらいのハガキサイズの束を、日々持ち歩いて仕事の合間や時間のある時に編集していたんです。その繰り返す行為と自分の手の中で扱っている写真との親密性も写真集の形にできたらと思って、デザイナーの相島さんに相談しました。

写真集1

写真集2

菊田:外側はハードカバーで結構しっかりとした装丁なのに中のページを綴じている部分は繊細ですよね。見る人が何度も繰り返し頁を捲り続けていくとその固まりの部分から1枚写真が剥がれ落ちてきそうな儚さや、手垢がついて時間が経つと味がでてくるような写真集だなと思いました。今回の作品を拝見した時に、鈴木さんの写真はただ美しいと思うものを箱の中にしまっておいて大切に眺めているだけというよりは、それを取り出して触ったり、時には乱暴に扱ったり、そういった複雑というか矛盾した何かを感じました。それも含めて装丁にいかされているのですね。

鈴木:実は中は結構繊細な作りになっていて。結果的に製本自体が特殊なものになったというのもあるのですが。

菊田:見開きで写真を組まなかったり、イメージの大きさがすべて同じになっているのは、どのような意図からですか?

鈴木:いつもの作品や本の編集の時はシークエンスを意識して写真の組み方を考える事が多いのですが、今回の作品に関してはそれはあまり意識せずに、写真をフラットに同じリズムで見ていくのがいいかなと思いました。編集作業は何度も繰り返しやっていましたが、自分がページを捲って行く時に見ていて気持ちいいなと思う順というか、感覚的に決めている部分もあります。

菊田:確かに大きなリズムの変化はないですよね。鈴木さんは撮影する時も、対象を少し遠目にじっと見つめる中で自分の心が静かに動いた瞬間や、微細な変化を写真に切り取っているように思えます。そもそも写真を始めたきっかけは何だったんですか?

鈴木:高校の時のクラスメイトが一眼レフカメラを持っていて、写真を撮るのって楽しそうだなと思ったことが最初のきっかけです。彼女に感化されてアルバイトで貯めたお金で勢いでフィルムカメラを買いました。でも高校を卒業してから最初は写真ではなくデザイン系の学校に入学したんです。

菊田:グラフィックデザインの学校ですか?

鈴木:いえ、ファッションデザインの学校でした。小さい頃は絵を描くのが好きで中学校や高校の時は漫画を描いてたので、デザイン画を描くのとか楽しそうだなと思って。後は私は何もないところから考えて形を作り上げていく過程が好きだったので、その時はそっちの方に進みました。在学中に課題の為の資料を探すのに本屋や図書館に通うようになって、たまたま花代さんの写真集に出会ったんです。その写真集がとても魅力的で、写真が美術の表現としての可能性があるという事を知って強く興味が湧いて、卒業して数年してから大阪ビジュアルアーツ専門学校の夜間に入学しました。

菊田:その当時はどんな作品をつくっていたのですか?

鈴木:入ってすぐは、モノクロでスナップ写真です。授業の方針として、とりあえず数を撮れと言われてたこともあり、ひたすら撮っていました。次第に目で見ている物だけではなんか足りないってなって、自分の内側にあるイメージと、外側で見ている風景を撮影してブックで見せたりしていました。中と外の世界が交差するその境界線みたいなものを表現したくて。

菊田:その“内側にあるイメージ”というのは、具体的にはどんなものを撮っていたんですか?やはり室内で撮ることが多かったのでしょうか?

鈴木:主に室内でしたね、自分の部屋だったり。後は同世代の女性を撮る事が多かったです。何か気になるなって感じたら、お願いしてその子の部屋で撮らせてもらったり。自分の中にある何かを彼女達に投影している部分もあったかもしれません。後は初期の「夜明けまえ」という作品の中にもあるのですが、かなり抽象的なイメージを撮影したりしていました。

写真1

菊田:自分の心の内側にあるものを表現したいという気持ちが、写真制作を始めるきっかけになったのですね。それをお聞きしたら今の制作スタイルと大きく変わっていないように思います。

鈴木:そうですね、ただ作品を作り始めた当時は、世界の外側を見て感じた喪失感や自分の心に足りないものが、何か分からないまま冷静に見れていないところもあって、手探りでそれを形にして外に出す事に必死だったような気がします。

【後編へ】

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