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鈴木敦子 写真展「lmitation Bijou」【後編】

この記事は鈴木敦子 写真展「lmitation Bijou」のために事前に行われた、鈴木敦子と菊田樹子による対談記事【後編】です。

【作家】鈴木敦子(写真家)
【聞き手】菊田樹子(インディペンデント・キュレーター)

【前編】はこちら→

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菊田:写真集の中には複写の写真も多く含まれていますね。例えばPC上のモニターの写真を撮っていたり、フィルムで撮った写真を複写していたり。何か越しとか、手前の方に何かあるけどその奥にも像が見えていて、どうなっているんだろうというか、構図としてレイヤーが重なり合っている写真が多い。こういったイメージを撮影するのは、何か意識的な部分や理由はありますか?

鈴木:何か越しにあるイメージを撮る事は多いですね。
ガラス越しだったり、カーテンの奥の風景だったり。モニターの複写のイメージに関しては、普段自分の撮影した写真をスキャニングしてPCの画面で見る時間が生活の中で多いので、自然に撮影していたというのはあります。
後は私は簡単に触れられないものや、全てが明らかになっていないものに惹かれるというか、魅力を感じているところがあって。だから撮ってしまうというのもあるのかもしれません。

菊田:他の作品も拝見して思ったのですが、見えている対象を通してどこか違う世界のものを見ている様な印象を受けます。現実味の無い夢の中にいるようなイメージもある。

鈴木:実在するものを通して、どこかその先にあるものを見ているような感覚がずっとあって、自分が現実に見たり、感じているものを通してそれを写真で何か違うものに変換したいという欲望はあります。

菊田:先程の複写の話もそうですが、その中には“すごく近づけたいけれど、すごく遠ざけたい”みたいな、そんな反発し合う要素があるようにも感じられます。女性的なモチーフのものも多く写っていますね。海や長い髪などはまさに女性の象徴と言われるものだし、花や鏡とかも。

写真2

写真3

鈴木:それについては写真を撮り始めた時から結構言われ続けているのですが、自分が女性である事を強く意識して作品を作っているというのはないですね。生まれが福井で日本海側なので、海は小さい頃から身近にあって見ていると心が落ち着くというか、何かある度に行って写真を撮る事が多かったです。花も咲いてから枯れていく迄の過程を眺めているのが昔から好きでした。儚いというか、ロマンティックなものに惹かれます。

菊田:後は鈴木さんの写真には闇のようなものを感じます。
この作品は自分にとっての真実や大切なものは何かと模索しながら撮影をしていた時の写真だとお聞きしました。でもそれは、決してただキラキラと光る美しく思う瞬間を素直に写しているというだけではなく、同時にある闇もその中に感じられる写真だと思いました。作品のステートメントにもある“大切なものや本当の事の価値は自分の見ている世界でしか計ることができない”という鈴木さんが撮影を続けていく中で得た気づきや意志、その事だけを伝えたいわけではないのではという事を感じましたが、その辺りはどうですか?

大切なものを手に入れたくて写真を撮り続けていたら、
私達には本当の名前なんてない事に気が付いた。

あなたは、暗闇の中で鈍い光を放ちながら確かにそこに存在している。
その価値を決めるのは他の誰でもない、自分自身なのだと伝えたい。

私は、宝石を拾い集めて手の中にしまっては、時々愛おしく触っている。「Imitation Bijou」ステートメントより

鈴木:写真を撮り続ける中で、改めて見ている世界を自分の目で計らなければという気づきを得たのは事実だし、それが大切なものであるという想いも自分にとって確かなものなんです。でもその一方で同時に疑いをかけている部分もあって。

菊田:写っているものに疑いをかけるということですか?

鈴木:写っているものというよりは、それを扱う事についてかもしれません。写真というメディアで作品制作に取り組んでいる人だけではなく、今の時代では誰にでも当てはまる事かもしれませんが、写真は目の前にある確かなものを写し出し残す事もできるけれど、同時にそれを扱う時に他者に向けて真実とは違う意味を被せる事もできる。
だからそこに必ずしも本当の事が写っているという確信はなくて、それが当たり前になってきている世界の情報にある“写真”をどこか皮肉っぽく見ている部分もあると思います。その中で自分が何を求めて写真を撮っているのかを改めて見直そうと思ったのが、この作品を作るきっかけになりました。
そこには愛しいけれど憎しみもあるみたいな、アンビバレント(相反する)な要素があって。

菊田:それは、すごく感情が揺れている部分という事ですよね。

鈴木:そうですね。その相反する要素や想いを同時に持たせるというのは、矛盾している事になるのかもしれません。でもごく自然に当たり前に、世界や日常に共存しているものであると思っていて、私が作品で伝えたい事はそういう言葉だけでは全て振り切れない部分があるんです。

菊田:その相反するもの、闇の部分を表現するというのは、物事の綺麗な部分だけではなく、時には“他人が見たくないものを見せる”という事にもなると思います。

鈴木:写真集ができた時に、ステートメントの言葉にもある部分は伝える事ができて、ひとつの形として完成させる事ができたと思いました。でも逆に本では表現しきれない部分もあったと感じたのも確かで、だから改めて展示をして伝えたいと思いました。

菊田:鈴木さんの写真の中にあるそんな揺れの部分だったり矛盾の要素が、今後どう変化していくのでしょうね。

鈴木:今は中判カメラ、ペンタックス67で撮影しています。主に今住んでいる福井と北海道を中心に撮影していましたが、コロナになってしまい移動が簡単にできなくなったので、以前より制限がある事もありますが。

菊田:どうしても今の状況ではできる事が限られてしまうというのはありますよね。その写真がどんな作品になっていくのか、すでにイメージはできているのですか?

鈴木:何となくはありますが、まだはっきり掴めるところまでは撮れていないですね。自分が今まで撮ってきた写真の中で、一番生っぽいというか、そんなものは感じているのですが。時間をかけて撮影を続けていきたいと思っています。

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