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姫野顕司 個展「PERSEUS」インタビュー

この記事は姫野顕司 個展「PERSEUS」の展覧会最終日に採録された、姫野顕司と篠田優によるインタビュー記事です。

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【作家】姫野顕司
【聞き手】篠田優(写真家・Alt_Medium)

〔作家プロフィール〕
姫野顕司 / HIMENO Kenji
写真家
1992年 岡山県生まれ 現在東京都在住

〔instagram〕
https://www.instagram.com/kenjihimeno1992/

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篠田(以下S):今回は初個展お疲れ様でした。いきなりですが初めて展覧会開催してみてどうでしたか?

姫野(以下H):楽しかったです。また、実際に形にしてみることでいろいろなことが勉強になりました。金銭的なこともそうですし、準備にどのくらいかかるのか、とか、どのくらい労力が必要なのか、など。あと、ギャラリーという空間の中に実際にいざ作品を搬入し配置してみると、いつも見ていた感じとは違ってこんなふうに見えるのかと実感があり、今後作品を作っていく上でも大変良い勉強になりました。

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S:そうですよね。展覧会を一度開くと今までなんとなく考えていたことが実際の期限として迫ってくるし、サイズ感や素材感など普段作品を自室などで眺めている時とは少し変わって見えるというのは僕にも経験があります。さて、今回は初めての個展がちょうど終わった最終日にその出展していた作品について姫野さんにインタビューをしていきたいと思います。まず今回の展覧会では、コラージュ作品、ストレートフォトグラフィー、裁断された額装作品、この3点で会場を構成したのはどうしてでしょうか?

H:一見するとこれらの作品はそれぞれ別のものとして見えるかもしれませんが、自分としては同一線上にある作品として見ています。もともとはストレート写真を中心に撮影していましたが、それらを見返してセレクトした時に、コラージュ的な要素や、前後のものの部分を撮影していたことへの気づきからからこのような構成になりました。

S:そうなんですね。それでは、それぞれの作品の話を伺いながらその特徴や考えをお聞きしていきたいと思います。まず、ギャラリーを入って右手にあった2つのコラージュ作品について教えてください。

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H:はい。このコラージュは横位置のものと縦位置のものがあるのですが、横位置で作られた作品は全く同じイメージの写真を複数枚、ビシッと切り揃えて制作されました。これは同一のものを使って別の形態見せることへの意識からです。一方縦位置で作られた作品は、遠くから見た時にはなんらかのカラフルなものに見えるのですが、近づいてよく見てみると、それぞれのものが別々のイメージから作られているとわかるよう、情報の密度が多いものにしたくて、およそ150枚ほどの異なる自動販売機の写真をランダムに重ね合わせて作りました。
当初コラージュ作品のモチーフとして車のタイヤなども考えていましたが、タイヤそのものの差異はパッと見てわかるものではありません。また写真のコラージュ作品は自分が見てきたものだと、暗いトーンに仕上がっているものが多い印象が強かったので、できるだけ明るいものにしたいという気持ちがありました。それらの点を考慮した時に自動販売機が持つ多分な情報量、例えば、それぞれのボトルのラベルデザインや、ボタン、POPの差異が重要だと考え、今回は自動販売機をモチーフとすることにしました。

S:この作品では一見すると同じものが反復しているように見えるけれども、実はそうではないという差異を見てほしかったんですね。

H:写真の大きな特徴の一つとして集合すると差異がわかるということがあります。なので、このコラージュ作品も写真リアルの一つかなと思っています。

S:次に、入って左側にある大きくプリントされたストレート写真群についてお聞きします。この作品は会場内において大きな割合を占めた配置になっているかと思いますが、どの写真も正方形フォーマットで撮影していますね。使用機材はデジタルカメラということなので、かなり意図的に正方形という形を選択していると思いました。

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H:はい。あえてスクエアフォーマットを選択しています。私が撮っている写真はもともと“フォルム”や“物体”を意識したものなので、それらをより強調したいと考えました。最初は3:2や4:3で撮影していたこともありましたが、横長だと極めて自然に見えがちだと思えたんです。その点スクエアフォーマットだと写っているものが密集した印象になり、よりフォルムが強調されると考えました。

S:画面内のものが密集し途中で断ち切られたように見えるフレーミングも特徴的ですね。

H:写真は情報量が過剰なメディウムだと思います。なのでその情報量が過剰なメディウムの中でさらに隙間を作らないことで、より画面内の情報量が過密になるよう意識しています。また、途中でものが断ち切れたようなフレーミングは、鑑賞者の目線の方向が定まらないよう錯乱させるためと、何が写っているのかわかりにくくすることで瞬間的に理解されづらくし、もっとよく見てみようとなることを狙ってこのような撮り方をしています。

S:姫野さんのこの作品からは写真の平面性への意識も感じられます。これは多くの写真が順光で撮影されていることも関係していると思うのですが、撮影時の決まりは設けているのでしょうか?

H:そうですね、順光で撮るという決まりはあります。結局、光が存在しないと写真には写らないじゃないですか。真っ暗闇で撮影しても何も写らない。なので順光で撮影することで、太陽光の反射光、事物に当たった反射光をできるだけ多く捉え、密度を上げることを目的としています。

S:次に会場奥に配置された額装された作品について教えてください。

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H:この作品は作品の下に配置したフォトブックを全ページ裁断し、粘着シート上で無造作に落として作られたコラージュ作品です。前述したストレートフォト作品、コラージュ作品には自分として意図したものがあったんです。ただその過程では同時に、これらの作品は自分自身が行っていることへの主観にまみれている気もしたんです。だからそれを乗り越えたかった。自分が意図して作ったフォトブックを、あえてぶち壊してシャッフルする。その結果何が出てくるかわからない。端材を何回も粘着シート上に落としましたが、その際このような動きで、とか、ここにこの色を配置したいなどという考えはありませんでした。

S:そうした主観や、主体を乗り越えたいと考えたのはどうしてでしょうか?

H:結局私も含め鑑賞者は写っているものの面白さだったり、写真化した時の驚きを求めているわけです。たった一人のちっぽけな作家の主観にまみれた作品なんて予定調和でつまらないし、普遍的な表現にはなり得ない。
壁面のストレートフォトは大枠は決めて撮っていますが、じゃあ小さく写ったドトールの看板や、ボウリングの文字まで見えていたかというと、撮影した時には全く見えていないわけです。写真はそうしたプンクトゥム*をどんどん呼び込んでいくところが魅力の一つだと思います。だからどちらかというと、主観的なことよりも外部のものをどんどん取り入れることで、自分自身の凝り固まった表現を壊していきたいと思ったんです。

S:制作の中で偶然という配分を増やしていくということですね。
次の展覧会ではどのような作品を見ることができるのか楽しみです。本日はありがとうございました。

*一般的な概念の体系を揺さぶり、それを破壊しにやってくるものでコード化不可能な細部を発見してしまうような経験(出典:artscape アートワード ストゥディウム/プンクトゥム

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