ほんのわずかな山行記録 6
谷川連峰主脈縦走ラスト
目が覚めると5時くらいだったか。
眠ったのは20時ごろだったと思うので9時間ほど眠ったことになる。
どんだけ眠るのよ。
元クライマーの方はすでに大方の荷物をまとめ終えて食事の準備をしているところだった。あいさつもそこそこに天気が気になったのでとりあえず外へ。風はずいぶんおさまっていたが空は曇っていた。
え~、晴れじゃないのか…と少しがっかり。
とりあえず腹が減ったのでは荷物をまとめるのは後にして先に食事をすることにした。
私が食べ終わる頃、元クライマーの方がそろそろ出発するとのこと。
私はゆっくりなんですぐ追いつかれると思うけど、お互い気を付けて行きましょう、ではお先に、と最後まで穏やかだった。結果的には追いつくことはなかったんだけど、また話を聞きたいなと思った。
食事を終えて水場で水を補給し、さぁ、いよいよ念願の稜線歩きだ!と威勢よく行きたいところだが、昨晩に比べればマシだが風は強めで、おまけに曇っているとくればテンションは下がっちゃいます。吹きっさらしの稜線上に自分一人という状況は心地よい孤独感を超えて恐怖すら感じる。
それでも、写真で見た稜線に思いをはせていると徐々にテンションも上昇。そうやって歩いているうちに晴れ間がのぞくようになり、大障子の頭に着くころにはずいぶん晴れてきた。ますますテンションが上がったのは言うまでもありません。はやる気持ちを抑えつつ稜線を進みます。
自分が写真で見た場所はエビス大黒の頭付近とのことなので、とりあえず早くそこまで行きたかったんだけど思った以上にアップダウンがきつく、なかなか自分のペースに持っていけない。焦るな、ゆっくり行け、と言い聞かせながらやっとの思いでまずは万太郎山のピークに立つ。
稜線は雲に覆われているところが多いが上層の雲はかなり少なくなり晴れと言って差し支えない空模様に。特に新潟側は快晴だ。時間の経過とともに気温も上昇し、10月後半とは思えない暖かさで最高の登山日和になってきた。しかし、この時点では計画から少し遅れ気味だったので休憩もそこそこに先へ進む。
万太郎山から下降を開始すると同時に苦行が始まった。
目の前にエビス大黒の頭とその頂きへ続く稜線、そしてその奥には谷川連峰最高峰となる仙ノ倉山がどっしりと待ち構えている。荒々しく岩が露出した絶壁と緑に覆われて草原のような緩斜面とで構成された、存在感のある山容だ。
これからあそこへ歩いていくことを考えると高揚感より焦燥感が勝ってくる。これは思っていたより大変そうだ、バスの時間に間に合うのか?
そんな事を考えながらまずは400m程を一気に下降。すぐに300mを登り返すんだけど、これがまた結構堪える。
そうしてエビス大黒の頭に到着。多少焦りもあってペースが速かったかもしれないんだけど、この段階でかなり消耗してしまった。
しかし、その疲労も吹っ飛ぶような絶景が目の前に広がっていた。
稜線にいたガスはすっかり消えてなくなり遠くの山並みまで見渡すことができる。
高層には多少雲があるものの薄い綿花のような雲で天候に影響を及ぼすような雲は見当たらない。
ここにきて前日に引き続き最高の天候となった。ヤマケイで見たあの景色が今は目の前に広がっている。
絶景を味わいながら、何度も周囲を見渡す。ずーっとここにいたいという衝動に駆られる。
そうやって心地よく眺めていたのもつかの間、目の前に巨大な全容を現した仙ノ倉山を前にすると時間のプレッシャーを強く感じるようになった。
いかん、急がねば。
エビス大黒の頭から100mほど下るとすぐに250mほどの登り返しになるんだけど、これがかなりの急勾配で完全にやられてしまいました。
しかも振り返ると稜線は徐々にガスに覆われ始め、気がつけばすぐ足もとまで迫ってきている。
待ってくれ、仙ノ倉のピークに立つまではこの素晴らしい眺望を残しておいてくれ、頼む~!と思いながら上を目指すが、ダメだ、体が動かねぇ。
ピークに近づくとさらに勾配はきつくなり足が止まる時間が多くなってくる。
そんな調子で湧き上がるガスと競争していたんだけど、私の存在を無視するかのようにガスはピーク手前であっさりと私を抜き去り、そのまま仙ノ倉山を覆い隠してしまった。
ガスに遅れること約20分、ヨレヨレになって仙ノ倉山のピークに立つが辺りはまっ白けでなーんも見えないプラス冷たい風という状況。事前の情報によると、晴れていれば最高の眺めが堪能できるとのことだったので落胆は大きい。
ま、自然相手に思い通りにはいきません。
エビス大黒の頭で遭遇した絶景は気持ちの切り替えの速さを後押ししていた。あれが見られただけでも良しとせねば。そんな気持ちだったと思う。
切り替えた後は失われた体力を少しでも回復させるために食事の準備。
体を冷やさないようにダウンを着込み、極力風にさらされないように姿勢を低くして笹に寄り添うようにラーメンを食らう。
仙ノ倉山頂で45分ほど休んでいよいよ最終盤の平標山へ。
疲れは残ったままだけど少し下ってから緩やかに登ると平標山頂。あとはほぼ下降するのみだ。
平標山までの稜線上ではガスが群馬側から新潟側へと流れてゆき、時折視界が遮られる。ガスの中を進むように稜線を行くと平標(たいらっぴょう)というの名の通り、とても緩やかな傾斜の山容がぼんやり現われた。大きな岩達で構成された緩やかな斜面を登るとほどなくして山頂についた。
振り返るとやはりガスが覆っているが進む方向は視界が開けていい眺め。
しかし、バスの時間が迫っているので早々に下山開始。
標高が下がるにつれ、ガスは薄くなりそのうち消えてなくなっていった。
ヒザはまだ持ちこたえている。何とかこのまま持ちこたえてほしい。
下山を始めてしばらくは緩やかな下りだったが、今回の行程で最後のピークである松手山を眼下にとらえたところでついに急勾配が現れた。ゆっくりと慎重に、かつ、なるべく急いでつま先から下りていく。
しかし、やっぱりきましたヒザ痛。
痛くなり始めはまだいいが松手山に着くころにはかなりの痛みに。下りの核心はここからだというのになんてこった。
結局ここから大ブレーキで、松手山を過ぎたあたりで予定していたバスを飛ばすことが確定。それでも何とかヨレヨレになりながらも平標登山口にたどり着くことができた。
フーーーッ!疲れたっ!!もームリッ!!!
ヒザをかばいながらの長い降下は、肉体的にも精神的にも私をメチャクチャに痛めつけました。
しかし、達成感はハンパなかった!
計画で想像していたより遥かに大変だったけど、おおむね天候もよかったし、見たかった景色も見れたし、最後のヒザ痛による大ブレーキを除けばほぼ計画通りだったし、山ン中で過ごすことの良さも感じることができたし、あらゆる面で大満足の山行でした!
西黒尾根を登りきった後に目の前に現れた主脈の稜線
縦走路を振り返ると長い影が稜線に伸びている
氷河が削り出した険しい山肌
どこまでも続くいくつもの尾根のひだ
一人ポツンと立つ吹きっさらしの稜線、頂
どれもこれも素晴らしい思い出になったな~。
思い立ってから計画していろいろな準備をし、実行する。このプロセスもかなり楽しかった。予定通りのこともそうでなかったこともいろいろあったけど、すべてを次に生かしていきたいと思いました。
そして、この経験によって私はますます山にのめり込む…いや、ドロ沼にはまっていくことになるのでした。
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