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ほんのわずかな山行記録 14(終)

いよいよ南アルプスの主脈へ

出会っといてよかった

八ケ岳では寝袋の件はあったものの、ヒザに問題はなくますます山ン中で過ごすことにハマる私は次の縦走に備えてちょこちょこお山に入ります。

縦走荷物を背負って丹沢やロープウエイを利用しての北アルプス、中央アルプスなど軽めではありますがテクテク歩いておりました。

丹沢
丹沢
穂高連峰と奥に槍ヶ岳
西穂山荘から上の稜線
中央アルプス千畳敷
中央アルプス乗越浄土から
木曽駒ヶ岳頂上山荘夕暮れ時
ひとりきりのテントサイト
小屋も無人…
木曽駒ヶ岳山頂から宝剣岳、その先の南アルプス
静かに鎮座する御嶽山

そうやってだましだまし中毒症状に対処していましたが、やっぱりがっつり歩きたくなるわけで。

山の秋が終わろうとしている10月。
もうすぐ雪が降る時期なのでそのあたりも考慮した結果、南アルプス主脈の北岳から南下する縦走ルートに決定。そう、鳳凰三山で眺めたあの巨大な山塊、北岳、間ノ岳、農鳥岳を指して白峰三山と呼ばれる標高3000mの稜線を歩く。
歩行距離は約25㎞だ。

このルートはこれまでの山行に比べて最もボリュームのある内容になっているため、装備の重量をさらに省くことを検討。水は小屋で調達することとして最小限にし、万が一の装備も本当に万が一の時にちゃんと活用できるものだけを選別した。もちろん寝袋は持っていきましたよ。

調べてみると1泊2日で歩く方も多くいらっしゃるようですが私にそんな自信はないし、のんびり歩きたいので2泊3日を選択。

計画では奈良田に駐車してバスで広河原に移動。広河原から入山して初日に北岳に登頂後、北岳山荘で幕営予定だったが、天気予報を見ると
1日目・6時・霧一時みぞれ、12時・霧のち雪、18時・雪のち霧
2日目・0時・霧一時雪、6時・霧のち晴れ、12時・晴れ時々曇り

となっており、北岳あたりにいるときは雪とか降ってるかもしれない。
北岳のてっぺんにいるときに雪なんて嫌だな~ということで初日は北岳を挟んで北岳山荘の反対側、進行方向から見て北岳の手前直下にある肩の小屋で幕営することに。

2日目は大門沢小屋までの長丁場になるが早めに出発することでカバーできるだろう。

3000mの稜線歩き…
雪、みぞれ、霧…
2泊3日…

ドキドキしながらその日を待った。


2012年10月11日
車を奈良田に駐車しバスで鳳凰三山縦走時のゴールだった広河原へ。今回はここからスタート。

空を見上げると曇っていて北岳の山頂も見えないが、みぞれや雪が降るような気配はない。
このまま回復傾向のようで少し緊張が和らいだ。

雨具をザックにしまって野呂川にかかる吊橋を渡る。
いよいよ白峰三山縦走の始まりだ。

吊橋を渡ると広河原山荘を横目にすぐに森の中へ。急な道が続くが時折日が差し込んできて心地よい。平日にもかかわらず結構な人数の老若男女とすれ違ったり追い越したり追い越されたり。
やっぱ人気があるんですね。

山頂付近はガスっぽいんだけどそれ以外は晴れ間が多くなってきて、白根御池小屋に着くころには最高の登山日和に。ただし空気は冷たい。
冷えに気をつけながら短く1本とったあとは急な九十九折れの道が始まる。息が切れるが体調はいい。
一気に高度を上げふと振り返ると鳳凰三山がドンと目に飛び込んできた。
そもそも天気は良くないという前提だったのでこの好天にテンションが上がる。
気がつくと周囲は紅葉が進んでいて高度が上がってきたことを実感。さらに上を目指す。

鳳凰三山だ~

2500m付近、森林限界を超えたあたりから少し息苦しくなり体の動きが鈍くなってきた。
ゆっくりと進んで小太郎尾根分岐で稜線に出たが動きの鈍さはさらに顕著に。
しかし雄大な景色が元気をくれる。

稜線に上がると仙丈ケ岳が
甲斐駒ケ岳は雲の中

稜線を数百メートルゆけば肩の小屋に着くがこの数百メートルが長かった!
ヨレヨレになりながらなんとか到着。

時折雲が流れていくが上層もすっかり晴れている。ヨレヨレもすぐに治った。

機嫌よく幕営の手続きを済ませ鳳凰三山が目の前に鎮座するロケーションのテント場で一服。
テント場は稜線の東面の少し下がったところにあり、西からの風を遮ってくれるので快適だ。
そもそも風はほとんど吹いてはいないけど。



やがて日没の時が迫ってきたので稜線に出た。

それから真っ暗になるまでベンチに座って西の空を眺めていたのでした…

満天の星空

2012年10月12日
夜明け前、目が覚めた。

テントから空模様をうかがう。
鳳凰三山の上に三日月が浮かび、その周りに星がちりばめられている。

快晴だ…


静かに興奮した状態で飯食って出発の準備をしていると空が焼けてきた。

出発の準備を整えテント場から稜線に上がると、雲一つない青空を背景に「はよ来いや」とばかりに北岳の頂が眼前にそびえ立っている。

息を切らしながら山頂を目指す。

左:仙丈ケ岳、右:甲斐駒ケ岳
贅沢だ…
手前に間ノ岳、中央奥に農鳥

北岳山頂から南アルプス、仙丈ケ岳、甲斐駒ケ岳等々…周囲の山々を一望。
きっと今日のこの瞬間のために登山をやっていたんだ。

北岳山荘を過ぎて3000mの稜線を悠々と歩く。
完全にハイになっている。

北岳と北岳山荘

間ノ岳から先を眺めるとドーンと下ってズバーッと登るしんどそうな景色が。
鞍部には農鳥小屋がちょこんと置いてある。

間ノ岳から農鳥岳
鞍部に農鳥小屋の赤い屋根

農鳥小屋を過ぎて農鳥岳への急な登りをゆっくりと進む。

西農鳥岳にたたずむ先行者
ここからの北岳はメッチャとんがってる
大門沢下降点を見る
右端に先行者

西農鳥岳から農鳥岳へと進んだ後は、大門沢下降点から奈落に落ちるようなザレた急勾配を一気に1000m以上下って大門沢小屋へ。この急降下が疲れた体に追い打ちをかけ大門沢小屋に着いた時にはフラフラな状態だった。
行動時間11時間の長丁場は私の体力を完全奪ってしまいました。

幕営手続き後、速攻でテント張って野菜ジュースとビール(これしか売っていなかった)を一気に飲み干し、何も食べる気になれずそのまま一瞬で眠りに落ちたのでした。


2012年10月13日
5時ごろ目が覚める。10時間は眠っただろうか…

この日は緩やかな森の道を800mほど下るだけの余裕の行程。まずは顔に張り付いてるギトギトの汗をキンキンに冷えた湧き水でさっぱり洗い落とす。痛いほど冷たい!爽快!
そしてこの山旅を振り返って脳内で味わいながらゆっくり食事をとり出発の準備。
前日に引き続きこの日も最高の天気で気持ち良く森の中を下り、11時前に奈良田着。
奈良田から車でちょっと下ったところで温泉に入りはちみつを買って帰路に着いた。

この山行後は丹沢に1回行っただけで2012年を終えた。


最後の登山

2012-2013の年末年始だったか。
はっきりした日にちは定かではないが、友人の山小屋主人・Oくんと久々に会った時に、2015-2016シーズンに冬の八ヶ岳へOくんガイドで行く約束をした。この頃強くあこがれていた雪山登山だ。

これを実現するために2013年は体力アップをテーマに年明けからトレーニングをガンガンやっていく予定だったんだけど、いつの間にか「あれっ?腕立てができない?」ってなっちまってて。

初めはただ鈍ってるだけだと思ってたんだけど、いくらやっても回復しない。

そのうち左足が動きにくくなってこれもひどくなる一方で…


というわけで体が動く限り続けようと思っていた登山は、想定よりも大幅に早くその時が来てしまったために突然中断せざるを得なくなってしまいました。

実質2年、44回ほどの山行経験でしたが、登山を通して得たさまざまな経験と登山の背景にある文化や習慣はこれまでの価値観や考え方に大修正を加えてくれました。

登山を始めるまでの私は、はたから見ればただの社畜だったかもしれません。本人は楽しんで働いていましたが、仕事中心の生活だったことは間違いありません。年間の休日が20日だったこともありましたし、夫婦で行く予定だった、新婚旅行以来十数年ぶりの海外旅行も、私の仕事の都合でキャンセル料15万円を払って取りやめたり。のちにその話を聞いた上の人が会社で何とかできないか交渉してくれて、全額出してくれたのにはかなり驚きましたがw

私はかなり好き勝手やらせてもらえたと思います。それは自分の強みを生かせる役割だったからですが、首都圏に転勤になってそれまでとは異なる新しい役割を与えられたとき「一区切りついたな」と感じました。と同時に、ちょっとやり切った感が出てしまって、その新しい役割に集中しきれない日々を送っていました。
そんな時、ホントにたまたま登山を始めることになったわけです。

リタイヤ後は八ケ岳のふもとに住んで山や自然に関わっていこう…なーんて本気で思い始めていましたが、人生、思い通りにはいかないもんですね。



2013年5月
足を引きずりながら最後に登った編笠山からの眺めです。
この日もいい天気で南アルプスの北部が丸見えでした。結果的にこれが最後の登山となりました。
神様ありがとう。

病む前に山と出会っといてホントよかった。

では、引き続き生きていこう。

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