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二股現場におしかけて浜松餃子を食べた話

それはまだ会社に入社したばかりで、仲の良い同期2人が浜松の事業所に異動になってしまった頃のことだ。異動になったあともこっちで仕事があるようで、たまに2人を社内で見かけていた。その日は金曜日で同期が1人来ていたから、先輩と同期と私でカラオケでオールしようということになった。そこでもう1人の同期の話になった。「あいつ今日なんでいないの?今から呼べないの?浜松からならすぐ来れるっしょ」と先輩が言った。同期が答える。「あいつ今日地元から彼女が家に泊まりに来ててムリなんすよ」

は!?それを聞いてびっくりしてしまった。実はその彼と一週間前から付き合いだしていて…彼女は私のはずなのだ。事情を話すと同期もびっくりして、どういうことなのか俺もわからない…わからないから、とりあえず浜松に向かおう!ということになった。でも終電はもうなかったから、夜明けを待って2人で始発の新幹線に乗った。彼の家は同期しか知らなかったから、浜松駅からは同期が道案内してくれた。

早朝、初めて来る彼のアパート、部屋のドアの前。同期はなぜか少しかがんで非常階段からこちらを見守っている。いけ、という合図が来た。よし、やろう…!勇気を出してチャイムを鳴らすと彼が出てきた。彼の肩越しに部屋の奥が見えて、誰か寝ているようだった。彼は私の顔を見た瞬間、事態のヤバさを認識したのか「ヤバイ!ちょっとこっちへ!」と言ってものすごい勢いで私を非常階段の方へ押しやった。あわてて同期が階段のもっと奥の方へ移動する。「部屋に彼女が泊まりにきてるって聞いたんだけど、どういうこと!?」私は彼を部屋の方へ押し戻しながら言う。そうしたら部屋から遠ざけたい彼と、部屋の中を見ようとする私で揉み合いになって2人で非常階段を転げ落ちてしまった。これはヤバイことになったという顔で同期が私たちを見つめていた。

早朝からかなり騒いだせいで、部屋で寝ていた彼女が起きたようだ。「とりあえず後で話そう」と言って、彼はさっと部屋に戻っていった。「大丈夫か!?」あわてて同期が駆け寄ってくる。ハデに階段を転げ落ちたが無傷だった。それからまもなくして救急車がアパートの前に止まった。事情を知った彼女がとりみだして過呼吸になってしまい、彼が救急車を呼んだらしい。彼と彼女は救急車で病院に行ってしまった。

「これから一体どうすれば…」展開が早くてついていけなくて途方に暮れていたら、同期が申し訳なさそうに私に言う。「ごめん…俺、今から課長の家で餃子パーリーがあってどうしても行かないといけない…でもこのまま放っておけないから一緒に行こう!」は?なんだそれ、と思ったけど、他にどうしようもないので、その知らん課長の家の餃子パーリーに行くことにした。

知らん課長、知らん先輩たち、知らん家と知らん奥さん、唯一知っている同期が一人。みんな私を見てお前だれ?となったけど、同じ会社なのか。じゃあまぁいいかという感じで家に招き入れてくれた。「あれ?あいつは来ないのか。今日彼女連れてくるって言ってただろ」と知らん課長が彼のことを聞く。「いやーそれが、なんか彼女過呼吸で病院行ったらしくて。来れないんすよ」と、ついさっき見たままの様子を同期が伝える。そうか、じゃあその分も食べなさい、となって何だかよくわからないままたくさんの餃子をご馳走になった。ここ浜松だし、浜松餃子なんだろうか。正直混乱していたけど、美味しかったなというのを覚えてる。

それからもう新人でもなくなってだいぶ会社に慣れた頃、知らん課長の家で会った知らん人たちとも仕事で関わるようになって、その度にこの日のことをなじられた。数年後には同期も先輩もみんな会社を辞めてしまったから、今ではその知らん課長のことを一番よく知っている。


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