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産業用ロボットの特異点回避:設計ガイドライン
ロボットシステムの引き合いが急増していく昨今、設計者はロボット独自の知識が求められます。
中でも「特異点」と呼ばれる状態は注意が必要です。
これはロボットが苦手とする=到達できない姿勢で、基本的に避けるべき姿勢です。
もしこれを考慮しないとどうなるか?
ロボット動作に深刻な影響を及ぼし全体工程にリスクをもたらすため、特に深い理解と注意が必要です。
以前Xで以下の投稿をしたところ、もっと知りたいという声があり、今回詳しく解説したいと思います。
【特異点を考慮した設計を】
— あるぱか (@AlpacaRobotics) April 29, 2024
ロボット手首関節が一直線状になる姿勢は「特異点」になります。
これはロボットが苦手とする=到達できない姿勢で、基本的に避けるべき。
機械設計はロボット配置やハンド設計で、特異点に近づけない工夫をしないといけません。
私は下記の流れで検討します。… pic.twitter.com/tu8iXZxzp0
本記事では、産業用ロボットの特異点について詳しく解説し、
設計時に特異点を回避するための実践的な方法を紹介します。
特異点の理解と回避は、ロボット設計の成功に欠かせない要素です。
この記事を通じて、特異点回避のためのベストプラクティスを学び、より効率的で安全なロボット設計を実現しましょう!
特異点とは
特異点の定義
産業用ロボットにおける「特異点」とは、ロボットのアームが特定の位置や姿勢にある際に、そのジョイント(関節)の運動が制約を受ける状態を指します。
そしてその姿勢を「特異姿勢」と言います。
この状態になると、ロボットアームは特定の方向に対して動かせなくなったり、制御が困難になったりします。
特異点の存在は、ロボットの可動性や精度に影響を与え、プログラミングや操作において問題を引き起こす可能性があります。
この特異姿勢、どんな姿勢か端的にいうと、ロボット手首関節が一直線状になる姿勢です。
特異点の原因
特異点は、ロボットのジョイントの配置によって生じます。
特に、ロボットアームが完全に伸びきった状態や、特定の角度でジョイントが一直線上に並ぶような姿勢がその原因となることが多いです。
もっと具体的にいうと、
ロボットは手先位置と関節角度の関係を計算すること(運動学)で姿勢を決定しているのですが、
特異点の姿勢ではその解を持たなくなる状況になり、「どういう姿勢になればいいか解らない」という状況になります。
特異点を回避するには、ロボットSIerがシステムの設計段階でこれらの問題が発生しないように注意深く設計する必要があります。
特異姿勢になる状況とは:事例紹介
では、特異姿勢が発覚するとどんな事態になるのでしょうか。
下図のように、ロボットが棚から部品を取り出す工程があるとします。
ロボットハンドを実際に持っいく過程で手首とアームが一直線上に並び、到達できずに止まってしまいます。これが特異姿勢です。
5軸目のアームに対するなす角を見ても、明らかにゼロ度に近いのがわかります。
![](https://assets.st-note.com/img/1716323948155-w62HgMNyvJ.png)
手動モードでティーチングする場合だと、ゆっくり近づけていくと特異点近傍に差し掛かり「ピー!」とアラームが発生します。
自動モードでも同様に、「動作軌跡」の中で特異姿勢近傍になると、異常アラームが出るのです。
アラームが発生すればロボットは即時停止します。
ここから立ち上げを担当しているティーチングマンは大変な思いをします。なぜならその特異点を回避するための姿勢・経路を試行錯誤しながら決めなくてはならないからです。つまり工数倍増。。現場マンはとってもイライラ。
なぜ気付けないのか:見落としの原因
なぜ見落としてしまうのか?設計段階で特異姿勢を気付ければ良いのですが。よくある原因を3つに分けてまとめてみました。
原因1:そもそも特異点を知らない
特異点というロボットの特徴をそもそも知らない設計者は割と多い印象です。
ロボットの需要が激増したのはここ最近で、そこそこ設計の経験値が高くてもロボットに関わってこなかったのならありうるかもしれませんが。。
例えば、弊社のとある設計者は、ロボット動作範囲内に目的の位置にで到達できるかは当然チェックし、どんな姿勢になるかまで見ていました。
だけど、その姿勢が特異姿勢であっても、そもそも特異点を知らないがために全くそれに気付けていませんでした。
結局、実機立ち上げの際にそれが発覚し苦労していました。
原因2:教示点での姿勢だけ見てる=動作軌跡を見ていない
教示点のみ確認してクリアしていても、各教示点間を走る軌跡の中で特異姿勢になっていてはいけません。
設計者の多くはポイントーポイントの姿勢には目を生きがちですが、モーションには目を向けられません。
なので、シミュレーションをかけて動きを含めてチェックするべきです。
原因3:シミュレーションソフトを信じ切っている
仮にシミュレーションで軌跡含めてクリアしたとしても油断できません。
シミュレーションと実機は違うからです。
シミュレーション上で、なんとなく特異点に近い姿勢でもOKだったのが、実機だとそうはいきません。
私の実感値ですが、シミュレーションは特異点に対して甘く、実機はより厳しいです。
特異点を回避する設計フロー
1. 3DCAD上で姿勢の確認
3D-CADソフト(Solidworks,iCAD等)を使って、まずはロボットの姿勢を作ってください。
重要なのは3D空間で検証することです。2DはNGです。2Dではロボット姿勢が掴めません。
2Dでロボットシステムの設計をするのは、私は無茶だと思っていて、空間的に見れないし姿勢もイメージできないので不具合につながりやすいです。
2. シミュレーション上で動作軌跡の確認
姿勢のイメージが固まると動作軌跡のイメージが形成されるでしょうが、そこで終わらず、できれば、シミュレーションソフトを活用することをお勧めします。そうすれば動作軌跡を含めて確認することができます。
特異点を回避する設計方法
ロボットの特異点を回避するためにロボットプログラミングの工夫で回避することは可能ですが、やはり難易度が高いので、設計段階で通過しにくい工夫が必要だと筆者は考えています。
対策1: ロボットベース配置の見直し
ロボット設置高さを変えるだけで手首角度に余裕が生むことが可能です。
左図は特異姿勢、右図はロボットベースを高さ方向に+200mm上げたレイアウトです。
変更前:手首のなす角度=ゼロ度
変更後:手首のなす角度=10度
初期の状態で計画したロボット経路が特異点の観点で厳しいとわかったなら、ロボット配置を見直すことをまずは考えてみましょう。
(ただし装置据付後だと、そのような大胆な改造は難しいかもしれません)
![](https://assets.st-note.com/img/1716324389569-Knq8IdzFiB.png?width=800)
対策2: ロボットハンドの取付向きの見直し
グリッパを先端軸に対し傾斜させて取付します。
これによって手首軸の軸同士が傾斜させた分ずれて、一直線上になることを防ぐことができます。
どのくらいの角度にすればいいかはシミュレーションを重ねたうえで見えてくるものです。また、ハンドジョイント部の部品形状に工夫は必要なので、難易度は決して低くはないです。
この対策は上述した「対策1」より難しそうですが、立ち上げて~調整段階に入っているタイミングで見ると比較的改造がしやすい方法です。
調整段階で対策1のようにロボットベースごと変更するのは、非現実的です。
![](https://assets.st-note.com/img/1716325408857-a7WxYYE8lS.png?width=800)
補足:
ロボットプログラミングの工夫で回避する方法について触れておきましょう。
特異姿勢はMOVLという直線運動の動作指令の時に頻発する傾向があります。
これを、MOVJというリンク動作の指令へ変更すれば、軽減されることがあります。これはMOVL(直線移動)よりも制御性が低くなるためです。
ただ、注意点としてターゲットに到達するまでの姿勢は制御されていない、つまりどんな姿勢で到達するかはやってみないとわかりません。
何もない空間ならいいですが、ワーク把持近辺のように入り込んだ状況では、干渉のリスクがあるし、ワークの着脱精度に悪影響なので、そのような解決策は推奨しません。
参考リンク
まとめ
本記事では、産業用ロボット設計の重要な課題である「特異点」の回避方法を詳しく解説しました。特異点を適切に理解し対策を講じることは、ロボットの動作の正確性と安全性を保証する上で不可欠です。
設計者は3D-CADやシミュレーションを活用して動作軌跡を検証し、ロボットベースの位置調整やハンド取付向きの見直しなど、具体的な物理的対策を実施することが求められます。また、ロボットプログラミングの工夫も補助的に利用できますが、根本的な解決には設計段階での対策が最も効果的です。
この知識を活用して、より効率的かつ安全なロボットシステム設計を目指しましょう。
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