7/5~7/11

今週も休暇。

さすがに役所通いも落ち着きやることがなくなってきたので、スポーツジムに行ったり快活クラブにいったりしたが、あまりハツラツとした気分にはならなかった。

生活が荒れていた時はやたらファミレスで甘いものを食べたりしていたが、今や2日連続夕飯がサラダチキンお粥ですが何か?という清貧モードに移行しつつあり、自分の欲しい物ってなんだろう、世の中の欲望が何もかも空虚で無に見えてくる、という症状まで出はじめている。

ここのところ相続手続きばかりやっていたから、自分の人生で扱える財産の桁がどのくらいで推移するのか悟ってしまい、すっかり金にまつわる意欲みたいなものがすり減ってしまったのだ。

というわけで図書館で「ウェルス・マネージャー 富裕層の金庫番」という本を借りてきた。いやむしろ逆効果ではという気もするが、とりあえずこの本はとてもおもしろい。

世の中にはウェルス・マネージャーという職業があり、いわゆる富裕層の財産を信託という形式で預かり、小国のオフショア金融センターに移動させて異国間の法律、財産制度の違いを盾に租税逃れする手伝いをしているわけだが、そもそもなぜ彼らが租税から逃れようとするのか、という点が興味深かった。

我々庶民だって税なんか払いたくないが、親が入院したりすると限度額適用認定証を取得して提示した時に、その控除される金額の大きさにびっくりして税のありがたみを知ったりする。相続税もできれば払いたくないが、ちゃんと世代間で財産を移動する時に税を取っておかないと、裕福な家庭は裕福なままで貧乏な家庭はそのままで、と階級が固定されてしまい、いずれ階級間を移動しようとする経済的欲求が萎んでしまい、それが国の財政にも悪影響を及ぼすことになる。我々の税金が社会的なインフラを支え、やがて我々自身にメリットとして帰ってくる、という了解があって税金の仕組みは成立しているのだ。

ところが富裕層の視点は違う。単純に自分で稼いだ金だから奪われたくないという強欲さももちろんある。が、国が独裁国家だったり情勢不安でいつ没収されるかわからないといった、われわれが理解しやすい理由もある。ウェルス・マネージャーという存在自体中世ヨーロッパ時代にいかに王政の目から逃れ財産を散逸させずに子孫に世襲していくかという試行錯誤から生まれた仕組みなので国家というものへの信頼感が薄く、我々が考える相続の問題意識とは視点が違うのかもしれない。

社会がグローバル化するにつれ世界の様々な宗教、文化をバックグラウンドに持つ国々の富裕層が顧客となり、彼らは財産の保有のみならず、国家からの自由な移動と匿名性を求めている。彼らのニーズに合わせる形でウェルス・マネージャーは世界を舞台に進化を続け、彼らの財産が可能な限りビタ一文奪われないような仕組みを考え続けている。

とはいえ、やはり租税逃れは我々のような庶民にとっては悪である。税を支払わずに社会のインフラにただのりするのみならず、彼らだけが富を独占するような金儲けのループを繰り替えされては、我々の生活が干上がってしまう。しかも富裕層はオフショア金融センターを小国に設置するためその国の政策にまで影響力を行使して、現地の住民にはその富をほとんど還元しない、という事態まで起きている。

というわけで富裕層の租税逃れが問題となっている現在、本書がその主導的な役割を担うウェルス・マネージャーの影響力の大きさをテーマに扱っているわけだ。

本書の結びに、富裕層への課税は困難なのでむしろ彼らを手助けするウェルス・マネージャーを政府に取り込み、その能力を租税逃れからそれを取り締まる方に活用してもらった方がいいという提案がなされる。

ウェルス・マネージャーは、他の金融業従事者が顧客から金を騙し取って利益を上げているのに対して、富裕層の財産を守ることを業務としているためコストに対して得られる利益が少なく、給与も比較的低い職業なのだという。だから政府が彼らの能力に対して相応のメリットを提示できれば、租税逃れを取り締まる国家の側についてくれるだろうという面白い提案だった。


これを読んだからといって財産を海外に移動したりできない私は、本書から知的興奮とやはり富裕層はクソ、無駄な財産を抱え込んでも人間ろくなことを考えない、世襲財産は3代目の自分の代で世間に還流すべきという教訓を得たわけだが、とりあえず自分が扱える庶民的な財産の範囲の中で面白いことを考えてやっていかなくてはいけない。

明日から仕事に復帰なのだが、様々な視点からお金というものを眺めたこの休暇期間を経て、また違った風景が見えてきそうである。

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