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『東京組曲2020』深堀り企画 vol.13

【長田真英さんインタビュー】 
= コロナ禍を経て、残された僕らに何が出来るのか。
僕らの責任とは何なのか。
映画を観てくださる皆さんと一緒に考えていきたい。=

三島有紀子監督の企画に賛同し、一緒に本作をつくった出演者の皆様たちのインタビューによる『東京組曲2020』深掘り企画。第13回目は、長田真英さんです。

―― 初めての緊急事態宣言後、コロナについて何もわからない、外出もままならなかった当時を振り返ってみてどのように感じますか?

当時、やはり環境の変化に身体が追いつかないところがありました。
あの頃は、俳優としても色々と動き出しそうな時だったんです。でも緊急事態宣言が発令されて、社会全てが止まってしまった。勝手な憤りと、ただならぬ不安が押し寄せてきたのを覚えています。
コロナ禍で自ら命を絶った方もいらっしゃるので、あの時期は良かったとは決して言えませんが、ただ思い返してみると、あの時間があったからこそ、僕は今、頑張れているように思います。

―― 三島監督がご自身の誕生日を迎えて経験したことから企画された本作ですが、参加したきっかけについて教えてください。

コロナ禍になり、表現者としての居場所が無くなってしまった。そんな時に、お誘いを頂き、参加させて頂きました。

―― 三島監督とはどのような対話を重ねて撮影に臨まれたのでしょうか?

そこまで何かを話したということはなかったと思います。ただ、三島監督から「今、こういう状態になり、“俳優”ではなく“一人の人間”として何を思っているのか、それを見せて欲しい」という想いを受け取ったことは覚えています。

―― 医療従事者のお父様への留守電メッセージ。文化全般が「不要不急」と言われたあの頃でしたので、「映画で救われる人がいるんだ。それを証明したくて。でも何もできない自分が無力で情けない」そう声を絞り出すように伝える姿に、胸を締め付けられる思いがしました。映画をご覧になり、どのように感じられましたか?

正直、自分のシーンについて観ることが出来ていないんです・・・。あの映像は、役者としてではない自分自身なので、凄くセンシティブなんです。自分でも恥ずかしいという気持ちが優ってしまって・・・。
同時に、あの時に起きた出来事や過ごした時間を振り返るのは、自分の中でまだ少しだけ早い気がしています。現在、撮影した頃に居た家から引っ越してアパートに住んでいるのですが、躊躇してしまうぐらい「あの時にあそこに住んでいた思い出」は今でも鮮明なんです。なので、あの頃の思い出は、「住んでいたあの場所を振り返る過去」ではなくて、「帰るべき未来」にしたいと思っています。

―― あの頃の自分に声をかけるとしたら、何と声かけますか?

「少し先の未来は、決して明るいものではないかもしれないけど、数年先の未来になると、音楽を聴きながら一緒に踊ってくれる仲間や素敵な撮影現場との出逢い、そしてこれから出逢う映画が、演劇が、音楽が、漫画が、小説が、絵が自分の人生に新たな光を与えてくれると思うから、無理はしないでいいけど、とりあえず生きてみてくれ」そう声かけたいですね。

―― お父様にこの企画のことを伝えていらっしゃるかと思いますが、何か仰られていましたか?

それは、内緒です。今は、良好ですよ。

―― 三島監督からのシークエンス「明け方(朝4時)に女の泣き声がどこからか聞こえてくる」というシーンの女の泣き声を聞いた時、どのように感じましたか?

そうですね・・・。これは、観てくださった方に託したいと思います。
ここで一つの正解を僕が言ってしまうと、映画の想像力が半減してしまう可能性があるので、観てくださった方が、泣き声を聞いている僕を観て、何を思ったのか、それが全てだと思います。

―― 本作はちょうど5類に移行されたタイミングでの公開スタートとなりました。コロナ期間を経て、自分自身で「変わったな」と思うことはありますか?

この社会を見るようになったかもしれません。これまでは自分の事だけを考えていた気がします。他人の事や日本の事、何より将来の子どもたちのために今の社会をどうすべきか、そんな事を少しづつですが、考えるようになりました。

―― 逆に、コロナとか関係なく、「これはずっと変わらずにいたい」と思うことはありますか?

「誠実性」ですかね。常に、誠実であるかどうか、心に問いかけながら生活をしているつもりです。人に対して、表現に対して、時にはくだらない事に対しても誠実でいたいです。
僕は、だらしない人間なので、尚更、気を付けて生きています。あと、その誠実性は、相手に対しての暴力性を持ち合わせていないかという事も常に考えるようにしています。

―― 今後、チャレンジしてみたいことについて、お伺いできますか?

自分より年下の子たちといろいろと喋ってみたいです。例えば、5歳の子たちが、今どうやって生きているのか気になります。そういう年齢の人たちとコミュニケーションをとる機会を作っていきたいなぁと思っています。・・・そんな事を思うなんて、年を取りました(笑)。
あと、自分とは違う分野でもある小説家さんや画家さんと友達になりたいです。

―― 映画を観てくださる方々に向けて、メッセージをお願いします。

特に僕はそうなのですが、コロナが落ち着いて、早くもコロナ禍で混乱したあの世界をどこか忘れてしまっている気がしました。あの時期に耐えられなくなり自ら命を絶った方たちもいます。
僕らは、あの時期を乗り越えたのか、それとも、少し違った日々をただ過ごしていただけなのか。
コロナ禍を経て、残された僕らに一体何が出来るのか。残された僕らの責任とは一体何なのか。
僕も分からないのです。分からない事ばかりで、考える事ばかりで大変です。
この映画を観て、コロナ禍を経たこの世界を、今、生きているこの世界を一緒に考えられる事が少しでも出来たらなと思います。そして何より、無数にある映画の中で、この映画に出逢って観てくださり、ありがとうございました。

5月25日、イメージフォーラム公開時のトークイベント終了後。左から長田真英さん、田川恵美子さん、八代真央さん。

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