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第九話Bパート アイアンボディ・アイアンハート 【柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!】

(これまでのあらすじ:柳生ベイダーは十兵衛に斬られ、百手のマサは十兵衛に立ち向かう決心を固める。十兵衛を追う彼の元に懐かしい声、ウォーモンガーたみ子の声が届いた)


高速移動するウォーモンガーたみ子の視界に十兵衛が映った。

まだ豆粒ほどのサイズだが、彼女の右目に装着された戦術バイザーが、十兵衛までの距離・角度・そして最適な弾道を瞬時に表示する。


「まずは挨拶代わりに…景気良くバァーッとな!!」

ボディの右側面にマウントされた、極長砲身の高出力ビームカノン”ウルトラマグナム444.4”が火を吹く。


間髪入れず両肩(に相当する位置)にマウントされた、それぞれたみ子本体の十数倍の体積はあろうミサイルコンテナが開き、ミサイルが途切れることなく射出され続ける。


周囲の大気をプラズマ化させながら十兵衛に向かう高出力ビームを追うように、ミサイルが尾を引いて飛ぶ。ミサイルの一部は外殻を展開し、内部に収納された多弾頭小型ミサイルが再加速する。


十兵衛はゆっくりとたみ子に振り返り、ビームに向けて刀を垂直に立てる。邪刀・武利裏暗刀に封じられた邪悪なエネルギーと高出力のビームが干渉し、辺り一面が青黒い光に照らされる。病んだ光が、十兵衛の異常な笑みを際立たせる。


十兵衛は両手を上げる。刀身に封じ込められたエネルギーが切っ先にて球状の高熱プラズマ体と化し、それが破裂!全方位に放たれた力はそれぞれが針状のプラズマとなり、彼を狙うミサイル群に向かう。

一瞬の間が開き、そして、爆発。爆炎が空を帯状に覆う。 十兵衛のシルエットが爆炎に照らされる。


ガシューガコン!過放熱したウルトラマグナム444.4の砲身とバッテリー、そしてミサイルラックを本体からスチーム圧でパージさせながらたみ子が毒づく。

「チッ、殺れりゃ儲けもんかと期待したけど、まーそんな甘くねえよな柳生十兵衛!クソが!」


爆炎の余波を物ともせず、十兵衛が上空のたみ子に向けて対空雄呂血薙ぎの体勢を構える。これ以上の小細工は許さず、空中で両断するつもりだ。

ウォーモンガーたみ子はそれに動じず、ニタついた笑みを浮かべた。


次の瞬間、十兵衛が構えを解き、真上に向けた受けの体勢に切り替える。


衝撃、そして轟音!


特大質量の砲弾が高速のモーメントを持ったまま垂直に直撃した。十兵衛は歯を食いしばり、それを武利裏暗刀で受ける。足元のアスファルトが砕ける。


ビームとミサイルによる直接攻撃の遥か前、町田の反対側にある彼女の拠点、ウォーモンガータワー(旧デスマッドタワー)から、主砲・ウォーモンガー砲(旧デスマッド砲)により成層圏を経由した曲射軌道で、十兵衛を狙った精密砲撃が行われていたのだ。

「いい狙いだアキラ!時給上げてやる!」

「ヌゥゥゥゥゥ!」

十兵衛の咆哮が響き渡る。気合と共に砲弾を弾き飛ばす。

「こんなの…オイラには効かねえぞ!!」


「ビームもミサイルも大砲も、初めっから時間稼ぎなんだよバーカ!!!」

たみ子が舌を出して十兵衛を嘲る。

十兵衛の隙は出来た。

十兵衛がウォーモンガー砲の砲弾に対処していた時、たみ子は兵装に続きロケットエンジンをパージしていた。


十兵衛を目標に慣性回転自由落下しながら、たみ子を囲む巨大なメカニカルフレーム機構の残り部分は、複雑に可動しその体積を収縮させながら、たみ子の体に絡みついていく。


巨大なフレームは人型のシルエットとなり、彼女の脚を囲い、腕に纏いつき、彼女の胴体を覆いつくす。地表が迫る。


地面を踏み砕き、片膝立ち姿勢で着地!


たみ子はゆっくりと立ち上がる。

彼女の小柄な体は超高密度パワードスーツに圧縮変形した巨大なメカニカル機構に完全に覆われ、今や成人男性の体格に等しい。


メタルブルーに輝くその姿は、全く無駄なく鍛えこまれた剣士のそれに近く、背こそ高いが、巨躯というよりは細身な印象を与える。


「か、か、かっこいい!!!!」

十兵衛が瞳をキラキラと輝かせて叫ぶ。

「話が分かるじゃねえか…よかったな、コレにぶっ殺してもらうんだぜ、十兵衛!」

たみ子が顔を上げた。ギザギザ歯をむき出しにした彼女の凶暴な笑みが、ガチャリと音を立てて左右から展開したフェイスアーマーに隠される。


アーマースーツの左手からレーザー刀身が形成される。

アーマースーツの右手からロンズデーライト製の超硬ブレードが飛び出る。

たみ子がレーザーソードと超硬実体剣の二刀を構えた。

「行くぜ、柳生十兵衛」


ウォーモンガーたみ子 最終決戦仕様対滅アーマー 
”ヤギューバスター”


ヤギューバスター・スーツの足元の極小ローラー群が高速回転し、十兵衛への距離を即座に詰める。足さばきを読まれることなく自在に間合いを操作する、ネオ・縮地法と呼ばれる高等技術である!


左手のレーザーソードを振り抜く。質量無き刀がアーマースーツによる身体能力補助によって振り抜かれるその速度は想像を絶する!十兵衛すら反撃に転じることなく、辛うじてその刀を反射的に受けるのみだ。


十兵衛の邪刀・武利裏暗刀の忌まわしいエネルギーとレーザーが相互干渉し、病んだ雷が周囲に拡散する。巻き添えとなったマチダアルパカの群れが瞬時に炭と化す!


これが邪刀・武利裏暗刀でなく通常の刀であれば、間違いなく受けた刀身ごと十兵衛の体を両断できていたであろう。

「ズッこいぞ!柳生十兵衛!」


たみ子はそう罵りながら、体を大きく左に捻る。

実体ブレードが帯電する。スーツの背部から射出された硬貨サイズの小型ドローンが二列を為して浮遊し、青白く帯電しながら電磁のレールを形成する。

「あたいの方がズッこいけどな…!テクノ・居合道!」

たみ子の叫びと共に振られたブレードは、電磁レールの間を通り抜けながらリニア電磁力によって加速されていく!

「ワワッ!あぶね!」

十兵衛は、これは受けずに避ける!

邪刀・武利裏暗刀といえど、これを受ければタダでは済まないと瞬時に察したのだ。

「剣の軌道が見えちまうのだけが弱点だけど…見えても対処できなきゃ同じだよなァー!」


再びレーザー刀!それを受ければテクノ・居合道!避ければレーザー刀!テクノ・居合道!レーザー刀!たみ子の攻めが止まらない!

「ソラソラソラソラァッ!」

その太刀筋は柳生ベイダーの洗練とは比べ物もない素人のそれである。

ただ刀の切れ味と、スーツによる速さのみに頼った稚拙で強引な連撃である。


だが、正しき剣理からかけ離れているが故に、十兵衛には効いた!


反撃しようとした十兵衛の脚を、別方向からのレーザーが貫く。

「ズッコさおかわり!ドローンちゃん、全方位から増量でシクヨロ!」

追加射出された小型のレーザー・ドローン群が十兵衛の非致命部位、つまりメタル化されていない部位を小出力レーザーで攻撃する。致命的ではない攻撃だが、蓄積すれば馬鹿にできないダメージとなる。


十兵衛はやむなくたみ子の猛攻の合間、本来であれば迎撃に転じるべき瞬間をドローンの撃墜に費やさざるを得ない!


十数度目のテクノ・居合道を十兵衛が避ける!

たみ子の回転の勢いは…止まらない!さらに数を増したドローンが、彼女の周囲に渦を巻くように電磁レールの軌道を描く!らせん状の軌道を通り続ける実体ブレードはその中で際限なく加速していく。たみ子の右足を軸に、ブレードの加速によって全身が高速回転していく。レーザーソードが再び成形される。ウォーモンガーたみ子は今や、二刀の刀を突きだして超高速回転する絶対死亡半径と化した!


常人であれば回転する当人が異常遠心力で全身を破裂させ即死するところであるが、彼女はバトルサイボーグなので平気なのだ!

「ウォーモンガーたみ子・疾風・怒涛ォッ・連切りィッ!!」


死の竜巻が十兵衛に向かう。十兵衛の得意とする遠距離斬撃・雄呂血薙ぎを放つ時間的余裕は無いはずだ。間合いを十分に詰め切っている!


たみ子は十兵衛が真上に跳ぶのを見た。

「回転の軸狙おうって…発想がチープなんだよ!」

頭部のヒート角を赤熱回転させ、迎撃モードに移す。ここまでは想定内だ。


だが。十兵衛が飛び込んでこない。

妙だ。たみ子は訝しんだ。そして、十兵衛ではなく地面が近づいてくるのを見て気づいた。十兵衛が跳んだのではない。己の胴から上が落ちているのだ。


地面に落ちたたみ子の上半身は、コマのように回り続け、そして止まった。

主を失った下半身も、膝から崩れた。


「ガ・・・ガハッ!馬鹿かテメエ…速すぎンだろコラ…どんな魔法使いやがったボケ…」

桃色の有機オイルを流し、喘ぎながら叫ぶたみ子に、十兵衛が歯を見せて近づく。

「ヘッヘ~~~ン!これがオイラの奥の手1号!手首のスナップだけで斬る、クイック雄呂血薙ぎ!射程はちょっと短いけど、この通り爆速さ!参ったか!」


「じゃあ…アーシも…奥の手と行こうかね…!」

たみ子が笑うと同時に十兵衛の眼が鈍く輝き、瞬時にウォーモンガーたみ子の首を刎ねた。

次の瞬間、彼女のアーマースーツの左手が中指を立て、各関節から致死毒煙幕が噴き出す。


「だから最初に言ったろ…初めっから!時間稼ぎなんだよ!バーカ!!!」

吹き飛ぶ首から罵りの叫びが聞こえてきたが、煙幕に隠れて見えない。


十兵衛は呼吸を止めて武利裏暗刀を高速でプロペラ回転させ、ようやく毒煙幕を吹き払う。そして彼は見た。


ベイダーとの戦いの直前、自分の斬撃を邪魔したのみならず、大好きな英霊頑刀まで奪っていった不愉快極まる剣士がこちらに向かって走ってくるのを。その距離はもう1kmにも満たない。


十兵衛たちが先ほどのペースで走って行けば、彼らが神奈川に出る前にあの男はこちらに追いつくだろう。


十兵衛は頬を膨らませ、石を蹴っていた。

不愉快だった。より正確に言うならば、拗ねていた。

ベイダーの奇襲を見事に返り討ちにして得意満面だったところに、さらにカッコいいスーパーロボまでやってきたところは良かった。楽しかった。


ところがそいつは、倒されたのに時間稼ぎだと負け惜しみを言い、鬱陶しい煙幕をようやく払ったら、もうやっつけたと思った忌々しい相手が近づいてくる。よくよく思い出せば、あいつは自分が町田に入った時、最初の二振りを邪魔した奴でもなかったか。


ここで十兵衛の中の、柳生の血に流れる悪意の虫が暴れた。

十兵衛の中の、”自分の敵(または敵でない万人)を残虐に斬りたい”という生理的欲求に、”とにかく他人の思惑を台無しにしたい”という社会的欲求が勝った。


決めた。あの剣士とは戦ってやらない。


「お前たち」

十兵衛が下を向いたままボソボソと呟いた。

「も、町田…なんかいいや…ウザいし。先、出てくから、あいつ、邪魔しといて」


付近に展開する月風連の男たちは、みな、主君の命を聞き漏らさなかった。


十兵衛は駆け出した。西、神奈川へと向かって。

月風連も駆け出した。東、彼の主君を煩わせるもの。百手のマサへと向かって。

マサは駆けていく。西、柳生十兵衛へと向かって。


(つづく)

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