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僕のひいおばあちゃん
夫のおばあちゃんは、御年90歳。
現役のオルガンの先生で、最近までヨーロッパに音楽を聴きに旅行していたような、知性とエネルギーにあふれたおばあちゃんです。
呼び名は、「みいちゃん」。
先日、夫の家族と予定を合わせて、みいちゃんの卒寿のお祝いに行ってきました。
みんなで着物を着て、お参りをして、写真館で撮影をしてもらって、お団子をたくさん買って帰りました。
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夜、息子が寝た後は、大人だけで晩餐会。
お刺身に焼肉にとりどりのお野菜。みいちゃんの手製きんぴらやなますを食べながら、みんなどんどん飲みました。
大晦日のような5月の夜。
布団のない掘り炬燵に足を入れて、日本酒やビールをそれぞれに飲んでいたら、
「さて、私の話をしようかしらね」
そう言って、みいちゃんが自分の歴史をとうとうと語りはじめました。
戦争中、食糧難のなか、父親が畑や養蜂をやっていたから助かったこと(きなこを蜂蜜で練った贅沢なおやつを食べられた)。
ある日、畑に出ていたお父さんがお腹が痛いと言って、小さいみいちゃんがリヤカーを懸命にひっぱって連れて帰った時のこと。
女学校に一台だけピアノがあって、唯一の音楽の先生にどうしてもと言って教えてもらったこと。
あなたは大学に行きなさい、と先生から言われて教員の資格をとったこと。
結婚したら、嫁ぎ先の義母と義姉と折りが合わなかったこと。
ある日、「あなたはうちにそぐわないから出て行ってください」と離婚を義母から告げられたこと。1歳半の子どもを抱えながらその言葉を聞いたこと。
それから元夫には会わずに実家に戻ったこと。
実家では、お父さんを筆頭に、4人の弟妹たちが本当に親身になって子どもをかわいがってくれたこと。妹のひとりは、デートに行くといって、子どもをおぶって出かけてくれた。
この子(夫のお父さん)はいい子だったし、子どものことでは一度も苦労したことがない。
そう言っていました。
その後は、教員として働き、ピアノを教え、音楽をやり、孫の産まれるのを見て…。
「今が、人生最盛期でございます!」
順々に涙を流していた私たちに、みいちゃんはそう言い切って話をしめくくりました。私以外のみんなにとっても、初めて聞く話だったそうです。
お酒をつがれるままに飲み、おさしみもお肉も最後までおいしそうに食べ、23時にやっと出てきたお祝いのケーキの蝋燭を吹き消し、2番目におおきい一切れをたいらげて、本当に会が終わるまでみんなの真ん中に座っていたみいちゃん。
90歳。
これは私と夫の理想の生き方。
すべてに満足して、にこにこと笑い、よく食べよく飲み、「今が最上」と言い切る人生。
この素敵な女性と家族になれて私は本当に嬉しい。こんな話を聞けると思っていなかったので、本当にありがたかった。
息子はそんなことをつゆ知らず、ぐっすり寝ていましたが、翌朝、朝ごはんをみんなと食べました。
みいちゃんの作ってくれた、小さな小さないちょう切りにしたにんじんとじゃがいものお味噌汁を、おいしそうに食べました。
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これが僕のひいおばあちゃん。僕の血。僕の家族。
大切にできるというのは、あたりまえじゃない。会えるのも、話を聞けるのも、あたりまえじゃない。
それは相手が何歳であれ、そう。
だから一緒の時間は本当に楽しみたい。食べて、飲んで、歌って、しゃべって、ほがらかに。
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