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手ざわりのある仕事とない仕事

あるノルウェーの大工の日記(2017年)
Ole Thorstensen

育児休業も1ヶ月が過ぎ、残り2ヶ月。
育休前と比べたら娘と過ごす時間は当然ながら格段に増えて、毎日・毎週、成長を目のあたりにすることができている。
これまでは、「今日◯◯ができたよ!」みたいなやつは奥さんからのLINEで知るばかりだったけれど、今は逆に自分が教えられる。
控え目に言っても、育休ってほんと最高です・・・!

ただ、せっかく合法的に仕事から距離を置けるタイミングなので、仕事面においてもなにかしら振り返りというか、点検をしたいなっていう思いもあって。
これって、ほとんどの育休中ビジネスパーソンが同じ思いじゃないだろうか?
育児に専念すべき期間なんだけど、だからこそ、復職後も育児に全力投球するために、仕事への向き合い方のアップデートもしておきたい。
最近「仕事論」や「技術論」に妙に心が惹かれるのはそういう背景があって、気づくと小沢健二の「薫る(労働と学業)」を口ずさんでいる。や、関係ないかこれは。

そんな中で出会ったのがこの本。
まだ全体の4分の1くらいページが残っているけれど、かなりのお気に入りになることがもう確定した感があるので、まとめておきたい。

一言で言うと「ノルウェーの大工が、屋根裏のリフォームの仕事を受注し、納品するまでの経過をめちゃくちゃ細かく、かつ淡々と綴った本」である。
まず、この「細かく、淡々と」というところがこの本の本質であり、いちばんの魅力だ。
建築の棚以外に並ぶ本で、ここまで細かくリフォームの作業や段取りを記述した本はかつてなかっただろう。めちゃ細かいし、正直よくわからんところも多い(図版が少ないのもあるけれど!)。
だけど、それがすごくいい。筆者のトシュテンセンさんの、仕事への誠実さや丁寧さがヒシヒシと伝わってくる。
自分はまったく違う業界で違う仕事をしているけれど、レベルの高い仕事ってのはこういうことなんだ、という具体例をまざまざと見せつけられたみたい。
それが心地よい。静かに熱い。

そう、タイトルの通り「大工の日記」なんだけど、それがそのまま熟練の仕事の擬似体験になっているのだ。
ああ、こういうところまで気を配るのか。目に見えないけれどこんな作業があるのか。こういう狙いでこんな言葉を使うのか。
そういうレベルの高い仕事の進め方=スキルが、日記っていう形式をとることで、あたかも自分が体験しているかのように感じられてくる。
これって、実はすごい発明じゃないだろうか?
仕事論って、体験を教訓的にまとめた勢いがよい言葉に頼りがちで、テンションだけ上がるけど抽象的すぎて結局なんなの?っていう感想を持つことが多い。
この本は真逆で、いわばディテールしかない。でも、その積み重ねが、確固たる仕事像に見えてくる。

まだ、肝心の屋根裏の完成と引き渡しまで読み進められていないのだけど、すごく良質なビジネス書だと感じる。こういうレベル、こういう視点で、自分の仕事を点検してみたいと思う。
そういう意味で、マジで気に入らないのはこの本の帯コメントだ。

リフォームを考えている人が、国は違えど職人の心持ちを知るにも絶好の一冊。

・・・いや、それはそうなんだけどね。
これじゃ、それこそリフォームとか家づくりとかの文脈でしか届けられないじゃん。
うわっつら過ぎる。そこじゃねえ。
とはいえ、自分だったら、なんて書くかな・・・。

あらゆる仕事の教科書に。
こんなふうに、仕事がしてみたい。
細かくて、まわりくどくて、平坦で面白味のない、最高の仕事論。

とか?

ちなみに、タイトルと装丁も、ストイックで、温かみがあって好き。


あるノルウェーの大工の日記 https://www.amazon.co.jp/dp/4767823919/ref=cm_sw_r_cp_tai_G7vrEb109EWD5


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