初めてサンタさんになった話

Do they know it's Christmas?という曲をご存知だろうか。

飢餓に苦しむエチオピアを支援する為に1984年に結成されたBAND AIDのチャリティソングで、メンバーを入れ替えながらこれまで何度もリリースされている。
エボラ支援を目的に再結成された2014年にはワンダイレクションをはじめXファクター出身の人気ミュージシャンが参加したことでも話題になった。

わたしがいちばん好きなクリスマスソングだ。

"Feed the world
世界に食糧を
Let them know it's Christmas time again
またクリスマスがやってきたと彼らに伝えよう"


わたしはキリスト教が身近な環境で育った。
この曲の精神に則って礼拝に行き、今年1年を終えられたことへの感謝として少しだけど献金をして、支援を必要とする人々が穏やかに過ごせますようにと祈るのが近年のクリスマスの恒例イベント。

自分以外全員が顔見知りなんじゃないかと思うような毎週の礼拝に行く勇気はない。
クリスマスやらイースターやら、普段は教会から離れてる人も広く集まる時にならコソッと潜り込めるので気負わなくていい。


でもコロナ禍はクリスマス礼拝も呑み込んだ。

去年も今年も配信のみ、チャペルでパイプオルガンの音色を浴びることも聖歌を歌うこともできない。
もちろん献金もできない。
献金先は毎回違うから途上国の支援とは限らないけど、少しでも自分が誰かの為になることをできるというのはわたしにとっては大事なことだった。

それならそれで他のところに募金でもすればいいのかもしれないが、全く関わったことのない団体にお金を預けるのは謎の抵抗がある。
とはいえ2年連続でなにもできないのはなんとなく落ち着かないと思っていた時にちょうど知ったのがこのブックサンタという企画だった。



さて、さっき引用した歌詞。

そもそも「世界に食糧を」に本を贈る企画は関係ないのでは?と思った方もあるだろう。
でもわたしは身体を育てるのが食糧なら、心を育てるのは本をはじめとした娯楽だと信じている。

明日のご飯を心配しなくていい人間の綺麗事だとわかってはいるけど、食糧と同じくらいの重みで娯楽も提供されるべきだ。

いまや食糧を支援する団体はたくさんある。
フードバンクやこども食堂、事情のある人に無料で食事を提供してあげる飲食店さえあると聞く。

でも娯楽の支援はあまり聞かない。
まあどんな娯楽が好きかというのも千差万別だから単純に支援するのは難しいのかもしれないけど。


だからブックサンタの企画を知った時はこれだ!と思った。

子どもたちに本を贈れるチャリティ。
本を読むという行為が娯楽だと気付いてない子には新しい楽しみをあげられるかもしれない、本を読むのが好きな子には新しい本との出会いをあげられるかもしれない。




わたしは金銭的な不自由はなかったけど、自殺願望を持って小学校から病院に送り込まれる程度にはいろんなものを抱えた子どもだった。
それが三十路になるまで生きてこられたのは、本を開けばいつでも違う世界に行けることを知っていたからだ。

当時の記憶は曖昧なので、残念ながらなにを読んだのかはほとんど忘れてしまった。
いまも大好きなハリーポッター、十二国記、守り人シリーズはじめ上橋菜穂子先生の作品との出会いはその頃だったかな。
だけど忘れてしまったたくさんの本もその時、その瞬間に自分を助けてくれて、後々の想像力を養う糧になってくれた。



元「困難があった子ども」として、同じ境遇の子にこそ本を読む楽しさを知ってほしい。
たくさんの言葉を知り、たくさんの人を知り、想像力を身につけてほしい。

現実を見ない夢想家になれと言いたい訳じゃない。

自分が岐路に立たされた時にどの選択をしたらどうなるのか、いま対面して話している相手にはどんな背景があってなにを思っているのか。

答えがわからないことも「想像」できると世界は少しだけ生きやすくなる。
言葉をたくさん知っていれば自分の気持ちを言語化して伝えられる。
自分の常識からは外れたびっくりするような人に出会っても、「世の中いろんな人がいるからな」と思える。

いまが苦しくても、想像力があればいつかそこから抜け出すスイッチを見つけられる。
なんなら見つけるのを待つだけじゃなく作ることだってできるかもしれない。

でもきっとそれに気付くのは大人になってからだから、まずはいま楽しく読めたり持ってて嬉しくなる本がいいよね。



とかなんとか思いながらなにを贈るか考えて、押し付けや呪いになったら嫌だなと悩んで。
恋人に「やらぬ善よりやる偽善!」と一喝されて。
親友たちにも「読んでほしいもの、好きなものを選べばいいんだよ」と背中を押されて。

それでもレジに出す直前まで唸って悩んで、わたしは初めてサンタさんになった。

この本を受け取るどこかのあなたへ。
メリークリスマス!
いつかこの本があなたの心の栄養になりますように。

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