床屋
私は子供の頃から床屋は嫌いだった。
そしていいオッサンになった現在も変わらない。
それは長時間(そんな長時間でもないが)動かずにじっとしているのが苦手だからだ。
されど、髪の毛は伸びる。
いっそツルッパゲになってしまえば、床屋などに行かなくてよいのだが、それもまた悩ましい。
そして、伸びてボサボサになった髪の毛を見て重たい腰をあげ床屋に向かうのだ。
髪を切るということだけ、考えれば床屋だけではなく美容室という選択肢もあるのだが、美容室はさらに苦手である。
床屋の理容師とは違い主に美容師は女性である。
向こうは特に気にもしていないであろうが、こちらには変な緊張感がある。
それに美容室では顔を剃ってはくれない。
流石に自分では顔全体の無駄毛をそることはできない。
まして、あんな切れ味の良い一枚刃を操ることはできない。
そこに理容師の師なる呼称の理由が分かる。
しかし、毎度床屋に来て疑問に思うことがある。
「もみあげはどうしますか?」とか「もみあげは自然でいいですか?」と聞かれる。
そもそも自然以外のもみあげってあるのだろうか?
あるとしたら1980年代に流行した、もみあげを鋭角に剃り整えるテクノカットぐらいしか思い当たらない。
そして顔を剃る前に顔に熱いタオルを載せられるのだが「熱くないですか?」と聞くのは載せられてからだから断りようがない。
また「眉の下、剃りますか?」とも聞かれるのだが断る人はいるのだろうか?
自分には理解できないが、もし断る人がいるなら、その心理は連泊のホテルで特に理由もないのに部屋の清掃を断る人と同じではないのだろうか?
などとくだらない考えを巡らせながら、早く終わらないかと待っているといよいよ佳境の洗髪。
でもここでもまた「痒いところはないですか?」とこれも決まり文句で聞かれる。
大概の人は「ありません」と答える。
だから一度「背中」とか「尻」とか言ってみたいのだが、この状況では間違いなくスベると思うとそれも言い出せない。
人生のなかで床屋には数えきれないほど来ているのに、このように毎度同じようなことを思いながら時間が過ぎていく。
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