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【Track Review】 HIMEHINA, 「愛包ダンスホール」 (2023)

VTuber(Virtual YouTuber)は、2016年12月に活動を開始したキズナアイを起点に新たに開拓された芸能ジャンルであり、CGとモーションキャプチャー技術を利用してYouTubeプラットフォームを中心に活動するバーチャル人格を指す。特にVTuberプロダクションで3Dトラッキング技術などを通じて大規模な音楽公演イベントを開催するなど、各種新技術が試みられるエンターテインメント事業として脚光を浴びている。VTuberをVRモデルとこれを「演技」するタレントの声と動作などの連携が統合されたものと見られるとしよう。それなら逆にそれが解体された一部分、だから絵だけとか、声だけとか、さらにはSNSのテキストだけあったとしても、視聴者は既存のデータの総合性と連続性を基にキャラクター全体像を推論できるだろう。

田中ヒメと鈴木ヒナで構成された2人組VTuberユニット・HIMEHINAが発表したシングル「愛包ダンスホール(Heart Pie Dancehall)」は、他のVTuberたちからもショートダンスチャレンジが爆発的に流行して人気を集めている。この流行で特記すべき点は、VTuber以前から存在したソフトウェアであり映像ジャンルであるMMD(MikuMikuDance:キャラクター3Dモデルを操作してコンピュータグラフィックアニメーションを作るフリーソフトウェア)モーションを配布してVTuberたちのダンスチャレンジへの参加を盛り上げて実際に成功したということだ。つまりダンスチャレンジに参加した(全員ではなくても)いろんなVTuberは裏側のタレントの動作(モーション)と因果関係を結ばないという意味になる。だからといって、各チャレンジ映像は該当キャラクターが参加した2次創作コンテンツではないはずもない。特定の対象を人格として認識する上で、様々な要素や特徴の統合性と連続性が重要な要因だとすれば、たとえ裏編で動作を同期するタレントの身体性さえ欠如しても、視聴者側で認識を自動的に補完するからだ。

本当に鋭くて興味深い戦略だ。J-Popと呼ばれるコンテンツ目標の1つが最大限に広めて多くの大衆に消費されて利益を創出することにあるという前提で、ここ数年はショートビデオの主要なBGMとして共有される形が最も影響力があることに同意できるだろう。MMDモーション配布は、アニメ風キャラクターがVTuberの核心要素であることを認識したまま、彼らに躍動感があって「見える」動作を着せて、チャレンジ文化にふさわしいフォーマットで(比較的)簡単に複製及び拡散ができるようにした。ダンスチャレンジの前提である「ダンス」を飛び越えて、その過程である「ダンスを真似る」を簡素化したまま、その結果である「ダンス鑑賞/拡散する」につながる段階を効果的に圧縮したのだ。

もちろん、本曲がその成就を初めて、あるいは唯一成し遂げたと主張しようとしているわけではない。VTuberキャラクターを使ったアニメコンテンツなどは多分モーションキャプチャーやトラッキング技術とは違うだろうし、最近だけでも星街すせい「ビビデバ(BIBBIDIBA)」(2024)がかけたMMDダンスチャレンジが「愛包ダンスホール」の後続でVTuber-系で拡散に成功しているようだ。それでも「愛包ダンスホール」はかなりよく作られたJ-Popトラックとして価値を担保し、このような成就がhololive、にじさんじ、KAMITSUBAKIなどの中〜大型VTuberグループ/プロダクションではなく(たとえBrave Groupを親会社としていても)HIMEHINA専任プロダクションであるStudio LaRaで制作して成し遂げた成果であることも注目に値する。

楽曲はファンキーなベースとドラムビートとトランス風シンセサイザーがよく噛み合ったアップテンポのエレクトロポップ曲だと要約できる。すでに中毒性のあるループにほぼ1〜2小節単位でラップとシンギングを交差してボーカルのダイナミックさを取り、「パイ」(pie, π, 杯, Φ…)という言葉を用いて韻と語呂遊びだけでなく、パイ(π): 円周率で例える「分け切れない」愛の感情とパイ(Φ): 空集合で例える空虚な感情などダンスホールに集まって渦巻く情動までも巧みに表現する。各種の擬声・擬態語と反復句で作るキャッチーさも絶品だ。

チャレンジで主に共有される区間は1節後のサビとポスト-サビだ。パンチラインとダンスの冴える場所で、特に「頭ん中パッパラパッパ」という気の利いたながらも過激な一節で四肢を大きく伸ばして振って気を放ってしまったような大げさなジェスチャー、続いて再び腕を寄せてリズムに乗って「艶やかな脳内の脳裏のJohn Lennonも愛包家 / imagine all the peopleの祭典」という突然の言及が引き起こす衝撃、「おかわりほしいでしょ?」というセクションを仕上げる一句で句読点のように円を描いて点をつける動作などが印象を強烈に刻印する。

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