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【Album Review】 NewJeans, 『New Jeans』 (2022)

Artist : NewJeans
Album : New Jeans
Label : ADOR
Released Date : 2022.08.01
Genre : K-Pop

韓国の教育制度内で青少年期を過ごすということは、ほぼ必然的にK-Pop音楽の影響下に置かれるということでもある。私の中高生時代にデビューしたBTS、EXO、TWICE、Red Velvet、BLACKPINKなどのグループは例え知りたくなくても知らざるを得なかったし、それにブラック・ミュージックからエレクトロニック・ポップまで単曲内に巧妙に取り入れてキャッチーなメロディーで歌いながら洗練されたパフォーマンスと凝ったビジュアル・ワークでアピールする、まさに「総合芸術」的な取り組みを毎日のように見せられて、さすがに一度も魅了されないことは難しいことだ。

いや、そうであったはずだ。が、メディア環境が変動し、状況が変わってきた。K-Popが全国区対象の「ポップ」から、だんだんコアファン層向けのジャンルへと徐々に移行してきているのだ。端的に、K-Popシーンの超大型企画社〈SM Ent.〉が近年提唱した、所属アイドルの全世界観をメタバース的空間・“KWANGYA”を中心に統合するという「SM Culture Universe(a.k.a. SMCU)」プロジェクトの始動は、サブカルチャー化していくK-Popの現状を著しく現す。ここは「何言っているんだコイツ…」と思って当たり前だ。

そんな流れもあって、私はK-Popを独自のジャンルとして捉えている。そしてだんだん細工化していくジャンル史において、元〈SM Ent.〉のアート・ディレクターで現〈ADOR〉レーベルの代表を務めるミン・ヒジン(민희진)の名前は欠かせない。彼女はこれまで〈SM Ent.〉発の様々な人気グループ・少女時代、SHINee、f(x)、EXO、Red Velvet、NCTなどのビジュアル・コンセプトを担ってきた。彼女がこなしたいろんな実験的構想の中で、アート・フィルムを導入した『Pink Tape』(f(x), 2013)のプロモーションはK-Popにおいてハイエンド性を獲得し、ビジュアル・アートの重要度を高めた象徴的な出来事として知られている。このようにヒジンはジャンルを大胆に進展させた人物としてK-Popコアファンたちから支持を得ている。

当のヒジンが〈SM Ent.〉から独立して、世界的グループ・BTSを担う〈HYBE〉企業グループの傘下で〈ADOR〉を設立し、自ら総括製作者としてデビューさせたグループが、今回紹介するアルバムの主人公・「NewJeans」である(そう、グループ名からして「新たなヒジン」なのだ)。NewJeansのデビューは大した事前情報もなく、突然、総収録曲四つのMV(ミュージック・ビデオ)をアルバム発売前に一曲ずつYouTubeにプレリリースする形で行われ、力動的に散らばるダンスと共に輝かしく繊細な青春の物語をY2Kレトロ的フィルターを通して披露する。各メンバーごとに異なるMVをリリースした“Hype Boy”は特に要注目で、K-Popの本質としてメンバーのキャラクター化戦略がさらに具体的に可視化していることを現す場面でありながら、Y2K当時のビジュアル・ノベルを思い出させる構図でもある。ヒジンのビジュアル・ワークの強みとそのルーツを確認できるところ。

NewJeansに対して各々の言いたいことが膨らんでしまうのは、彼女らのアンチテーゼ的な歩みが大衆普遍的にアピールしている現象を見て、その認識に矛盾が発生しているからだと思われる。そのようなサブカル性は楽曲制作陣からも見られる。話題作『뽕 PPONG』(2022)の主人公でもある250、そして実験的ヒップホップ・デュオのXXXのDJ/プロデューサー・FRNKのような割とマイナーな音楽家らの参加情報はK-Pop界隈を超えた大衆音楽のコアファン層たちからも関心を引いた。その内実はオルタナティブR&B、ディープハウスなどのビートとボーカルのメロディー、ハーモニーのテクスチャーを繊細に扱う様子を見せる。これは近年のK-Pop新人群—aespa、IVE、NMIXXなど—のパワフルでにぎやかな傾向と区分される選択だ。

「Attention」と「Hype Boy」のボイスサンプルのキッチュな散らばり方以降、各サビのハーモナイズで凝縮したエネルギーが爽やかに満開する瞬間は本作のテクスチャーを代表する。「Cookie」も弾むシンセ・コードとベースでテクスチャーを保ちつつイレギュラーなグルーブと中毒的な語感で勝負する。それぞれいくつもの奇妙な要素をフィーチャーしつつもポップに仕上げ、新人とは思えない半端ない勢いでチャート、ステージ、アワーズを次々と占領していく様子を見せる。

興味深いのは、そうやってコア化していくK-Popがまたポップのヘゲモニーを取り戻しつつあることで、その中心にはある意味最もキッチュな方法でデビューしたNewJeansがあることだ。彼女らが巻き起こしている突風を一言でどう捉えるべきか、私にはまだ判断しづらい。ただ、現在の大衆音楽を考察する際に欠かせにくい、その一方でだんだんサブカルチャー化していく、このK-Popというジャンルの現在地を見られる、今年最も注目すべき(ミニ)アルバムとして紹介したい。いや、別にそこまで拡大しなくても、奇妙に細工された仮想世界に足を留めさせる彼女らの格好良いプロローグとして期待をかけるだけでも十分かもしれない。

Rating : 6/7

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