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【Track Review】 YOASOBI, 「アイドル」 (2023)

Artist : YOASOBI
Track : アイドル
Label : The Orchard
Released : 2023.04.12
Genre : J-Pop

原本記事

音楽クリエイターグループのYOSOBIが発表した「アイドル」は、芸能界を舞台に扱った漫画原作アニメシリーズ《推しの子》(2023)オープニングテーマ曲で制作された。編曲面で興味深いのは、導入部と連結部にK-Popで流行っていたEDM/ヒップホップ・トラップ・サウンドと、サビ部にJ-Pop特有の4拍で走っていくポップロックメロディーが共存するという点だ。K-PopとJ-Popがそれぞれ音楽の内部的特性では定義しにくいものの、とにかくその現象的なイメージを適切に借用して転換をなす姿は「アイドル」という単語からのステレオタイプにおいて、日韓両国のエンタメ産業形態が相互に影響を及ぼしていることを示す例の一つになるだろう。このような演出は、日本の音楽界において、アイドル非当事者アーティストが一種のそのステレオタイプを再現しようと試みているようだ。

ただ、いくらアイドルポップがダイナミックな特性をよく見せると言っても、本曲は巨大な2つの現象を盛り込むことに満足していない。トラップビートからDnBビートでリズムを2倍に細かく分割する導入と、節の間には厳重なクワイアが雰囲気をとり、節とサビの間には哀愁のこもったピアノ演奏を緩衝剤にして転調が行われる。2番目のセクション以降は、長短調の変化を含めて転調が3回以上登場する中でテンポの変化も行われるなど、変化の様相がさらに激しい。しかし、まさにそのセクションからラップ脚韻の配置が緩くなることで没入感を失い、その状態でさらに変奏に拍車をかけることは、スリルを与えるよりめまぐるしい感想を増すだけだ。

めまぐるしいのは編曲だけじゃない。歌詞においても、作中キャラクターのストーリーによる感情の変化を踏まえてアイドルという特殊な存在の属性を現し、そしてその主人公を見つめる部外者の視線まで一筋の歌詞に全て編入させようとする欲を張る。「抜けてるとこさえ彼女のエリア」「愛してるって嘘で積むキャリア」という歌詞のように、話者は大衆に完璧な理想を演じて相手を自分の魅力に陥れて関心と愛を勝ち取る「完璧で究極のアイドル」だ。アイドルとファンという資本とマスメディアが媒介する特殊な関係と、それによってやりとりする「愛」(*断然恋愛感情だけに該当しない)が膠着する状態が見られるし、これはアイドルに対するそれなりの考察を遂行する。しかし、考察のために設定した「嘘」と「愛」というキーワードそれぞれを描写する解像度が低い点により、ある種のステレオタイプを再現するのにも、再解釈するのにも曖昧な結果が導き出された。(ストーリー上、主人公が「愛」を悟る過程は、一次的に彼女のアイドル活動とは無関係だ。)

それでも本曲は強い魅力ポイントを持つ。インパクトのある導入部のラップセクションとリズミカルな1節、劇的な落差を繰り返して中毒性のあるメロディーを作り出したサビ部は全てかなりの代物だ。そして、これらの部分がテーマソングとして実質的に繰り返し放映される1分30秒に合わせて込められた点も「与えられたフレームで完璧に輝く」属性とも関連して、さらに興味を醸し出す。また前でいろいろ展開がめまぐるしいと記したが、原作キャラクターとストーリーを音楽に合わせてアニメに再構成したミュージックビデオは、物語とそれに伴う変奏を追うのを手伝う役割をする。テーマソングで制作・落点された大衆音楽のシングルは、果たしてどのレベルまで原作に依存できて、また楽曲として独立しなければならないのか? 文学作品からレファレンスを取るYOASOBI特有の楽曲制作方式は、このような問いを思い出させる。それだけ面白い曲でもある。

Rating : Normal


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