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近代詩の流れを超越した詩人~【特別対談】広瀬 大志 × 豊崎 由美「西脇順三郎」を読む~

書評家の豊崎由美さんがホストを務めるALL REVIEWS友の会フィクション回。2020年11月ののテーマは詩。詩人の広瀬大志さんをゲストに迎え、西脇順三郎を取り上げます。
西脇順三郎といって、具体的な作品が浮かぶ人は意外に少ないのでは。英語で詩を書き、ノーベル賞候補にもなった詩人の詩を読み解くチャンスです。
対談ははちょうどジャパンカップが開催されていた時刻に行われました。アーモンドアイを「とつけむにゃあ(cいだてん)牝馬」と褒めたたえている豊崎社長が、ラストランと同じ時間に、濃密な対談を行ってくださいました。
※対談は2020年11月29日に行われました。

日本の近代詩の流れをおさらい

広瀬さんはまず日本の近代詩の流れを説明します。明治時代が始まり、西洋の詩が日本に入ってきます。新体詩が普及したのは1890年代。それから自由詩が生まれ、島崎藤村北村透谷のような詩人が出てくる。同時に、上田敏の『海潮音』など海外の詩の翻訳が出てきます。ただし、この時までは五七調の、七五調など、日本古来の和歌・俳句の「音」の流れを踏まえています。藤村の『初恋』(「まだあげ初めし前髪の…」)など綺麗な七五調ですね。

その後、川路柳虹が破調の口語体自由詩を発表。いわゆる近代詩の流れを作ります。モダニズムの詩人として、萩原朔太郎山村 暮鳥、「日本の詩の父」というべき詩人も現れます。また、その少し前には北原白秋土井晩翠がいます。日本の近代詩の黎明期を支えるオールスターが出そろった形でしょうか。

その後、戦後にまで続く流れとして、プロレタリア詩(中野重治)、抒情詩(立原道造、三好達治、中原中也)などが出てきます。

近代詩の歴史を超越した詩人、西村順三郎

それでは本日取り上げる西脇順三郎はどこにいるのか。西脇順三郎は1894年生まれ。萩原朔太郎より八つ下、中原中也より七つ上、金子光春より一つ下となります。

ただし、彼らとは背景は全く異なります。西脇順三郎は初詩集の発表が三十九歳と当時としては遅く、また八十八歳まで長生きました。英国に留学し、長年慶應義塾で教鞭をとっています。礼儀正しい英国紳士のような人で生前の写真は背広姿が多い。(対談当日、西脇順三郎にちなみ広瀬さんもジャケットにネクタイでした!)
一般人が抱く詩人のイメージの早熟、早逝、貧乏、ファッション独特とは対象的。「中原中也と対極にある人ですね」と豊崎さんが納得します。

処女詩集『Ambarvalia』はラテン語で古代ローマの豊饒の祭りの意味。英国オックスフォード大学に留学した西脇ならではのタイトルで、所収されている詩も西洋の教養の文脈を踏まえたものが多い。
さらに凄いのは三十一歳のとき『Spectrum』という英文詩集を出版していること。T.Sエリオットジェイムズ・ジョイスとも交流があり、ノーベル文学賞候補でもあった。日本の近代詩の流れを超越した大人物です。

1982年没。著作権が有効。

西脇順三郎は1982年没なので、まだ著作権が有効です。広瀬さん、豊崎さんとも西脇順三郎の詩を朗読してくださるのですが、その詩をそのままご紹介することは難しい。ALL REVIEWS友の会の皆さんはYouTubeで対談をご確認ください。広瀬さんの朗読は「聴きもの」です。

※写真はご自分の蔵書をもってきた広瀬さん。西脇の処女詩集『Ambarvalia』と『旅人かへらず』を持参していただきました。

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豊崎さんは『Ambarvalia』の『手』という詩が広瀬さんのなまめかしい、色気のある詩に通じるといいます。西脇順三郎の詩は、イルカをドルフィンというなどカタカナ語も多く、語彙が豊か。シェークスピアやジョイスなど、西洋の文学をたっぷり吸った詩。正直、筆者は西脇の詩を読むと、西脇の言葉の選び方(スイカズラ、ドルフィン、ヒバリなど)が西洋の詩に基づくものと読んでしまい、出典を探したくなる。そして、作者が「ドーダ」(by東海林さだお&鹿島茂)がありすぎ、ちょっといらつきます。でも、時間のある休日の午後、わからない単語は検索しながらでも読むと、自分の知識も増え、心も豊かになるかもしれません。今度、再挑戦します。

文学の世界は広い。知らない世界を読むのもまた良しです。「ALL REVIEWS 友の会」会員になると過去の特別対談のアーカイブ視聴が可能です。今後の対談も楽しみなものばかり。ぜひ入会をご検討ください。

【記事を書いた人:くるくる】

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