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週刊ALL REVIEWS 巻頭言総集編(2021/06-2021/12)

週刊ALL REVIEWSは毎週火曜日夜に発行され、新規書評記事の紹介や新しいイベントなどを紹介していますが、ALL REVIEWS友の会の有志が交代で巻頭言を書いています。半年に一度その巻頭言をまとめた総集編を作ってお届けしています。
今回の総集編の各記事の見出しには、巻頭言の筆者が毎回工夫をこらして考えたキャッチフレーズも掲載しました。

本を読むのが好きでかつ書くことも好きな仲間の巻頭言をお楽しみください。そしてこれを読んでいる皆様にもこの仲間に加わることをおすすめしたいと思います。

今後も週刊ALL REVIEWSをご愛読ください。(巻頭言編集担当 @hiro)


週刊ALL REVIEWS Vol.107 (2021/6/21から2021/6/27) 病と美術、ファッション今昔

私は歴史や政治史を読むのが好きでして、先が見えない時こそ過去を振り返ることで、人類は数々の難局をどう乗り越えてきたかに興味があります。
そうすると、たとえば自然災害や戦争の時代に、時の指導者たちがどういった判断を下したのか、といった本を読むことが多くなります。
ただそれだとそれら偉大なリーダーたちの、常人の域を超えた判断力や行動力にばかり意識が行ってしまい、そもそも当時どんなバックグラウンドがあったのか、など社会背景を理解するのが疎かになるときがあります。
ある時気づいたのは、それら有事が当時の社会や文化にどういった影響を及ぼしたのかがわかると、歴史背景がより立体的に伝わってくる、ということでした。
中でも人々に美の象徴として受け入れられた芸術作品やそれらが制作された背景を知ると、当時の社会ではどのような価値観が共有され、称賛されていたかを垣間見ることができます。
政治指導者の判断や行動だけを追っていては見えてこない、その時代その時代の社会心理といったものが見えてくるわけです。
そこから美術史が特に好きになりました。
そして、今のこのコロナ禍です。
今日ご紹介する一冊はこちら。
『ヴィクトリア朝 病が変えた美と歴史:肺結核がもたらした美、文学、ファッション』([訳者あとがき]桐谷知未さん)
この本によると、感染症とファッションが結びつくことは珍しくないそうです。
19世紀英国で肺結核が流行した際、人々は肺病患者の真似をしようと、有害な白粉を使い躍起になって青白い肌を再現し、危険な点眼薬で瞳孔を大きくし、おぼつかない足取りで歩いたといいます。
今の私たちからするともちろんかなり奇妙な美の価値観、ということになるでしょう。
しかし一方でこのコロナ禍においてもファッション誌などでは、マスクと洋服のコーディネートを取り上げた「おしゃれマスクコーデ」といった特集記事もあったりします。
あらためて、疫病が文化に与える影響度合いについて考えさせられます。
そしてそれは過去の歴史と今の時代がつながった瞬間でもありました。
ぜひ詳しく読んでみたい一冊です。
では今週も週刊ALLREVIEWSをお楽しみください!

Fabio


週刊ALL REVIEWS Vol.108 (2021/6/28から2021/7/4) 腹から声、出してる?~音読ノススメ

オンラインの英会話レッスンを受講し始めて3年近くになる。この年で始めたせいか、あるいはもともと才能がないのか、発音は悲しいほどに改善されないジャパングリッシュのまま。長い付き合いの先生とは映画や音楽の趣味が合うこともあって、「みなまで言わずとも通じてしまう」のが一因ではある。相手の理解力に甘えたコミュニケーションのあり方をなんとかせねばと思い、週2回のおしゃべりのうち1回を音読の日にした。選んだ本は二人とも大好きなスティーヴン・キングの『ザ・スタンド』。上達している手ごたえは皆無なのだけれど、褒め上手な彼のおかげで気分良く読めており、英文のリズムのようなものがなんとなく分かってきた。文字を目で追っているだけでは得られなかった実感だ。もう一つ、思いがけない効果があった。もともとの出不精が、コロナ禍が始まってさらに引きこもり、人としゃべりたおす機会ががくんと減った。そのあいだに口も舌も退化してしまっていたようで、初回は1ページも読むと舌がもつれ、息切れもし、誰が読んでいるのかと気が遠のくような離人感すらおぼえてしまった。これはいけない。いざコロナ禍が明けても社会復帰の前にそもそも文明復帰、いや人間復帰できないのではないか。だから、日本語でも音読してみることにした。皆さんもぜひ試してみてほしい。意外なくらい読めなくてがく然とするのではないかと思う。
とはいえ、一人で続けるのは難しい。Twitterを検索すると「#音読」というハッシュタグでつぶやいている同好の士がいた。誰に向かうでもなく毎日読んで記録代わりにつぶやこう。さらに最近追加されたfleetという、テキスト・画像・動画の形式で共有できるショートムービー機能を使って“音読”をアップロードすることにした。24時間で消えてしまうので気軽だ。
問題は、何を読むかである。長い読み物は区切りに困る。そこでふっと、詩はどうだろうかと思い至った。しかし詩にはまったく縁がない。少し前にALLREVIEWSの収録番組で、詩人の広瀬大志さんがゲストでいらしていたことを思い出した。広瀬さんはホラー詩と称される特殊な作風の詩を書かれるらしいと知って、ホラー映画好きは一も二もなく飛びついた。『ショートキル』という作品集である。

現代詩といわれる分野の本を読むのは初めてだ。音読してみてわかったのは、漢字ならでは、二とおりの読み方で読めてしまうときにどちらをとるのか、難読の地名や人名など、頭も使う。そして、詩というものは口ずさんで初めて見えてくる情景があるのだと知った。例えば、この一篇。

雪の歌謡(S ver.)
アウロラならば
火を咲かせたあとは
唇の見えない馬車に乗って街を離れるだろう
雪の歌謡を集める旅で癒される仮の城壁の傷
とても無力なままで手を離した二つの人骨が
同じ冬に沿って立つ
そこからレイキャビクへ
ほど近い薔薇へ
そこで時は止まり
血は
母親の話を最後まで聞かずに寝息をたてるだろう
(広瀬大志『ショートキル』より)

これから夏に向かう季節にはそぐわないかもしれないが、暗い色調の風景に、炎の橙、凍てつく大地の白、薔薇の深紅がありありと浮かぶ、静かに情熱的な詩だと思った。後半にかけて盛り上がるので試しに読んでみてほしい。マスク越しに会話する世界からはまだしばらく抜けられそうにないけれど、だからこそ声帯と腹筋は鍛えておこう。姿勢もよくなり、心肺機能も向上するような気がしている。
ちなみに、広瀬大志さんゲスト回で取り上げられていたのは、西脇順三郎さんの詩集。

ノーベル文学賞の候補にもなったという方だったそうで、なかでも詩史に残る名詩集という『旅人かへらず』を入手してみた。講談社文庫版には『Ambarvalia』も採録されており、ラテン語で書かれた詩もある。昭和8年、なんともハイカラな御仁である。先に挙げた豊崎由美さんとの対談の模様は、ALLREVIEWSサポートスタッフのくるくるさんが簡潔で的確な読み物にしてくださっている。こちらはどなたでもお読みいただける。日本近代詩の流れもわかり、詩への興味が俄然わいてくるので、お薦め。

もうひとつ。今まさにお読みくださっているメルマガの「巻頭言」はメンバーが週替わりで担当している。先ごろ半年分を編集長のhiroさんがまとめてくださった。メンバーが推した本の数々を一気にお読みいただけてお得、100号を記念した鹿島茂先生の特別寄稿もある。こちらもお薦め。(朋)


週刊ALL REVIEWS Vol.109 (2021/7/5から2021/7/11) 演劇の「コトバ」がすごすぎて戯曲を読み始めました

前回巻頭言を担当したときは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』愛を熱(苦し)く語らせていただきましたが…先日、久しぶりに歌のないお芝居、ストレートプレイを観に行ってきました。 野田秀樹さん作・演出、高橋一生さん主演のNODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』です(東京公演は先日千秋楽を迎え、大阪公演は今週15日から公演の予定です)。

『フェイクスピア』とは、偽物、でたらめなといった意味の「フェイク(Fake)」と「シェイクスピア」から生まれた造語。シェイクスピアを題材にした場面もあるものの、舞台は恐山。あの“霊を自らの身体に招き入れ、憑依させ、死者に代わってその意思を語る秘術“口寄せ“の使い手であるイタコ“(『フェイクスピア』公演サイトより)がいる恐山です。そのかけ離れた舞台設定にさっそくワクワクしましたが、最後はある「コトバの一群」に集約されていく…。
とにかく「コトバ」の意味、力をとにかく突きつけられ唖然とし、心震え緊張のあまり身を固くし、劇場を出るときには呆然として同行の友人とコトバなく別れたほどの衝撃的な時間でした。未だに、観ていない方にネタバレしては決してならない、と思ってしまうほどの衝撃です。
舞台ですからもちろん目の前に役者がいて、舞台装置があるわけですが、例えそれが全部取り払われて「コトバ」だけを聞いたとしても、同じ事が起こったと確信できます。それほど「コトバ」の力が強かった。
とはいえ、豊崎由美さんが『20世紀最後の戯曲集』(新潮社)の書評で言われているとおり、
“でも、考えてみると不思議でもある。同じ文字で書かれたものなのに、活字中毒を自認する人たちですら、ほとんど戯曲を読まないなんて。”
演劇の「コトバ」だけを楽しむ人はあまりいないようです。
実際に、私もあまり戯曲を読みません。読むのは、ストレートプレイを観てもう一度セリフを噛みしめたいときです。復習のために読みます(ちなみに、ミュージカルは何度か観ることでほぼ歌詞とセリフはおぼえてしまうので、戯曲を読みません)。
とはいえ、今回、「コトバ」の力を見せつけられて、戯曲を読んでから芝居を観る、もしくは惜しくも見逃してしまった芝居を戯曲で読んで当時の出演者のリストに沿って配役して、妄想しながら読む(そして、運良く上演されたら観に行く)と、より芝居の「コトバ」を味わえるんじゃないかなんて思ったのです。
豊崎さんの
“生身の役者が喋って動いてっていう前提で書かれているから、小説を読む時よりも想像力が必要とされるけれど、でも大丈夫。優れた戯曲の台詞は、地の文に頼れない分、小説のそれよりもイメージを喚起させる力に溢れているから。”
というメッセージにも後押しされて、さっそく野田秀樹さんの戯曲集『20世紀最後の戯曲集』のうち、『パンドラの鐘』を読み始めました。
1999年上演版では、堤真一さん、天海祐希さん、富田靖子さん、古田新太さんはじめ、魅力的な役者さんが多く出演されたとのこと。この方々が「コトバ」を発するところを想像しつつ読んでいますが、楽しくて仕方ありません。
東京はまた緊急事態宣言下に置かれました。演劇は上演され続けていますが、人数制限もありチケットは入手困難な公演もあります。都を超えての追っかけもままならず。こんなときだからこそ、「コトバ」を戯曲で楽しむ、を満喫したいと思います。(やすだともこ)

『20世紀最後の戯曲集』(新潮社)


週刊ALL REVIEWS Vol.110 (2021/7/12から2021/7/18) 書評を「打つ」ことで充実した読書生活を送りたい

三中信宏さんの『読む・打つ・書く: 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』(東京大学出版会)を読んだ。

理系研究者でありながら著書も多くその上書評もたくさん書いておられる三中信宏さんによる本とのつきあい方のレクチャーであると、帯に書いてある。研究者の著書なので内容が難しいのではないかと危惧したが、さにあらず。読み終えてみると自分のような一般読者にも参考になるアイデアが満載されており、読んでよかったと大満足だ。
そこで今回はこの本のことを書くことにした。いつもはなかなか筆が進まないが、この本の勧めに従ってどんどん書き(キーボードを打ち)始める。「打つ」のニュアンスはこの場合ぴったりだ。どうしても筆が進まなくなる、いわゆるライターズ・ブロックを打ち破るのには、この本の教えの通りにともかくどんどん打つのが良いと思うようになった。この本を読んだ効用はまずこれだった。 「第2楽章」の「打つ」を読んで、自分の書評に関する見方が、非常に狭いものだったと気づかせられた。私は短め(800字から1500字くらい)の書評ばかりを考えていたが、長い書評でないと意を尽くせないことがある。そして、書評を書く側の意見や知見を強く押し出すべきでないとも私は思っていた。しかし科学書などの書評をしっかりやるとすれば、かなりの長さを使って書評する側の意見と知見を論理的に説明する必要もある。読者の専門分野における知識レベルが高くないと仮定すれば、基礎的な知識にも触れる必要がある。書評対象本の論理構成まで批評するには、本の長さと同じとは言わずとも、相当な長さを要求される。
文芸書の場合でも実は同じようなことが言える。新聞などの短い書評で本の拡販に全面協力するか、あえて炎上を恐れずに書評家の忌憚のない意見を言ってしまうかだ。一方、植草甚一さんの長めのエッセイ的書評の書き方、例えば『ぼくは散歩と雑学がすき』(晶文社)に見られるように、本の内容の長い引用と見せかけて、自分(つまり植草さん)の意見を述べてしまうという高等テクニックを使うという第3の道もありそうだ。
文章をとにかく精力的に書くという最初の勧めがいいなと思っていたが、もっとよく考えると「三位一体」という話が素晴らしいのだと思うようになってきた。それは以下の部分で、今後の参考のため、以下に引用させていただく。
「「書く私」と「読む私」と「評する私」はいつも一心同体だが、たがいに別人格をもっている。どのようにプロットを構成していくかを考えるとき、傍らの「私=読者・評者」に相談をしながら、「私=著者」が実際に原稿を書いていく――私が本を書く仕事場はある種の“工房“のようなものかもしれない。(236ページ)」
読み書きとよく言うが、その真の意味はこんなところにあるのだろうと納得してしまった。このような自分の中のコミュニケーションは執筆だけではなく読書のためにも効果的な方法なのだろう。
本の著者にはなりたくてもなれそうもないが、この本の勧めの通りに自分なりの書評を書くことは本を読むたびに実行し続けたい。それを読書記録ブログの形で長期間続けていきたい。三中信宏さんはブログでお手本を紹介してくださっている。

今後の読書生活をもっと充実させてくれそうな良い目標ができた。(hiro)


週刊ALL REVIEWS Vol.111 (2021/7/19から2021/7/25) ユーミンの世界にみる、日本のプチ・ガールズ歴史

先週は『ALLREVIEWS』でピックアップされていた酒井順子著『ユーミンの罪』(講談社)に飛びつきました。

“ユーミン“という明るくポップなワードに惹きつけられたのでしょう。心配のタネがなかなか消えない今、ポップな一冊を読みたかったのです。
本書は松任谷由実がデビューからバブル期までに発表したアルバム20枚を一枚ずつピックアップし、読み解いたものです。『負け犬の遠吠え』の酒井さんのフィルターを通して、車やファッション、雑誌・テレビなど、当時の文化や社会状況を織り込みつつ、作家性とその変遷が綴られています。
私はドンピシャ世代ではありませんが、曲はたくさん歌えますし、後追いながら繰り返し聴いたアルバムも何枚かあります。しかしユーミンと聞いて思い出すのは、ユーミンに付随するものについて語る、大学や会社の先輩方の様子です。夏になったら海へ行き、冬になったらゲレンデへ足を向ける。つきあう彼は会社名や車種といったスペックをまず気にする、といった景色を思い出します。彼女たちのなんと楽しげだったことか。
酒井さんは本書で、女性を軸としながらアルバム一枚ごとにユーミンが女性たちに贈った世界を細やかに拾っていきます。自分でハンドルを握るのではなく、“助手席に乗る“ほうを選ぶ時代があり、“どこかに連れていってもらいたい“と思っているときもありました。アルバム一枚が、一時代になっているのです。
女性たちはユーミンが届ける刹那的でドライな世界に憧れました。さらに自分も享受できると思い、一度手にすれば永遠に続くと思ってしまった。恋愛を主として人生の傷をユーミンは“救ってくれすぎた“。それを「罪」と捉えたところがこの本の読みどころです。
  やや強引ですが、ユーミンという枠組みを通してみる、プチ・ガールズ歴史といってもよいでしょう。最初のアルバムが1973年、本書は2013年発行なので、隔世の感は否めません。しかし歌詞をつぶさに読み解く酒井さんの言葉によって、普遍的な魅力も感じました。
時が経ったお陰で、サブスクなどで気軽に音楽を聴ける時代にもなりました。アルバムを聴きながら、本書を捲ってみる夏はいかがでしょうか。ユーミンが届けたかった永遠に少し、触れられるかも知れません。(山本陽子)

週刊ALL REVIEWS Vol.112 (2021/7/26から2021/8/1) テレビ越しから見る東京の今昔

先日、所属している社会人勉強会のプログラムで、開幕前のオリンピック競技会場の建築を見学する機会がありました。
見学した日は開幕前ということもあり、会場周辺は競技・警備関係者がいるだけで、比較的静かな雰囲気でした。
新設された各会場は、大きさやデザイン性、建築方法までそれぞれとても立派で、ここでプレイする世界中の選手たちはこれら競技場を見るだけでも、なるほどこれが「TOKYO」かと興奮したことと思います。
一方でオリンピックという世界でも最も大きな大会を開催しながら、緊急事態宣言下にある異例づくめの都市、これも「東京」です。

そこで、本日ご紹介する一冊はこちら。『テレビ越しの東京史 ―戦後首都の遠視法―』(評者は武田 砂鉄さん)

東京を本書ではこのように表現します。
「東京は語りにくく、掴みどころのない、茫漠とした都市である」

二度のオリンピックをそれぞれ全く異なるシチュエーションで開催することになった東京を、テレビというメディアから紐解いていくのが本書です。
1953年に始まったテレビは、戦後の社会形成においてどのような役割を果たし、東京という都市を形作るのにどんな影響を及ぼしてきたのでしょうか。
物心ついたころから当たり前のように居間の真ん中に鎮座してきたテレビですが、最近では「テレビ離れ」といった言葉も耳にします。
折しもオリンピックゲームもテレビで観戦するのが当たり前となった今、もう一度このテレビが私たちの社会で果たしてきた役割について考えてみるのも、おもしろいかもしれません。

最後にひとつお知らせです。友の会公式noteに「ALLREVIEWSメルマガ巻頭言特別編」と題し、巻頭言執筆者へのインタビュー記事が掲載されています。
今回は、私、Fabioを取り上げていただきました。(ALLREVIEWSへのアツい思いを語っております!)
よろしければあわせてお読みください!

では今週も週刊ALLREVIEWSをお楽しみください!

Fabio

週刊ALL REVIEWS Vol.113 (2021/8/2から2021/8/8) みえないものをみつめれば、みせたくないものがみえてくる

終戦記念日を迎える今週に紹介したい一冊は、映画と戦争についての本。任侠映画を見終えた観客が、肩で風を切って出てくる。派手なカーアクションが登場する映画の上映によく「手入れ」のされた車で駆けつける若者たち。映画のもつ力とは、なにも感情を激しくゆさぶるだけでなく、鑑賞者の態度にも影響をおよぼす。暗い空間に浮かぶ映像を二時間なり一心に見つめて没頭する行為は、ある種の催眠状態へ入っていく体験に近いのではないかと思う。そこへもって集団心理もはたらく。暗闇に浮かぶ人影(ほかの観客たち)が、いま自分のなかに生じている喜怒哀楽に同調する仲間のように感じられ、だからこそ、映画館で観る映画というのは強烈な印象を残すのだと思う。スクリーンは危険なデバイスだ。
『天皇と接吻』、一瞬どきりとしてしまうタイトルの本書では、戦前と戦後を通じて時の為政者、支配者たちが映画の力を巧みに利用し、民衆をコントロールしてきた歴史が具体的な作品や場面とともに語られる。「天皇」は軍国主義一色の戦前の象徴、「接吻」はGHQの占領下における民主化が押し進められた戦後の象徴だ。
八月十五日の敗戦を境に一八〇度といっていいほど変わってしまったポリシーを映画人たちがどのような思いで受けとめていたのかといったところまで正面切って掘り下げてはいないが、断片的にスケッチされる映画人たちの抵抗からその内面をうかがうことはできる。例えば、マキノ正博(のち「雅弘」。「正博」は当時名乗っていた名前)のミュージカル映画『ハナ子さん』で、出征する夫を「喜んで」見送るお面をつけた妻の頬に光る涙は、マキノが反戦的感情を盛り込もうとした例として取り上げられている。結局、検閲官の目にとまり削除を命ぜられるのだが、その理由は「反戦思想」というより「不真面目」と受けとめられたため。取り締まる側も、なにが反戦的で、なにが敵国思想(英米的)なのか判然とせず、検閲官がみずからの権力を誇示するために使っていた便利な口実の面も強いという。その一例として、同じ涙の別れを描いていても、木下恵介の『陸軍』は検閲を免れたというくだりの記述は面白い。この作品は、当時の国民感情を木下が写しとったものとしてみるか、あくまで反戦思想を貫いた姿勢のあらわれとみるかで評価は変わってくるという指摘は重要だと思う。制作の意図は作り手にしかわからないが、あらためてその人となりを評伝などから読み解かなければみえてこない部分もあるだろうし、作り手から離れた瞬間、映画がひとり歩きをし、世相をまとって作り手の思惑とは違う輝き方をする場合もあるだろう。
「こんな表現までもが」と驚くほど微に入り細に入り涙ぐましいほどの検閲をほどこす両陣営の姿は、いちおうは平和な現代からすれば滑稽にもみえるのだが、人間の想像力、侮りがたし!という権力の畏怖は今も変わらず。わたしたちはいつどんなときでも感受性と想像力を捨ててはならないのだと思わずにはいられない。
本書を読んだあとには、映画でなにをみせられ、なにがみせられていないか、語られている言葉の裏側で沈黙している(させられている)ものはなにかが気になって仕方がなくなるだろう。からくりに一旦気がついてしまうと、もう二度と額面どおりに映画を観られなくなってしまうのである。その意味でとても厄介ではあるが、知的好奇心を引きずりだし、新たな映画の見方を指南してくれる刺激的な一冊だ。(朋)


週刊ALL REVIEWS Vol.114 (2021/8/9から2021/8/15) 「迷惑だから」って考えで幸せになれるのかな

自治体の予約を急にキャンセルされたり、サイトに繋がらずに予約の戦いに敗れたり、紆余曲折ありましたが、ようやく今日、新型コロナウイルスのワクチン第一回目の接種ができました。
自衛隊の大規模接種センターで受けましたが、整然としたロジスティクスに感動し、経過観察待機場所にいた隊員の方々の姿勢の良さに感動し、あっという間の30分でした。
帰り道、今読んでいるブレイディみかこさんの『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)のなかの話をふと思い出しました。
“ネットで日本語のコロナ関連報道を読んでいると、ある言葉が繰り返し使われていることに気づかずにはいられない。
…(中略)…
「迷惑をかける」という言葉がやたらと目につくのだ。ふと思う。日本語の「迷惑をかける」という気持ちは「guilt」のようなものだろうか。”
ワクチンを必死で予約して受けようとし、今日受けたのは、なぜだろう。
もちろん、自分をウイルスから守りたい。不安なく家族と過ごし、不安なく仕事で外出もしたい。それもある。
でもかなりの部分で
「感染した自分がだれかに感染を広めて、迷惑をかけるのは避けたい」
「だって人に迷惑をかけるのは悪いことだから」
「自分がやりたいことをやって(私の場合は友人と呑むとか、舞台を観に行くとか)、感染したら、自分勝手すぎて迷惑がかかるから」
と、頭に浮かぶのは「迷惑がかかるから」ばかり。
私たち日本人は、「人様に迷惑をかけてはいけない」ということを叩き込まれてきています。迷惑をかけてはいけないし、迷惑をかけられたら腹が立つようにインプットされ続けてきています。
しかし、自分を抑えて、自分らしく生きず、本当に幸せなんだろうかと、最近思うのです。
仕事で休暇をとるときにも「ご迷惑をおかけします」と挨拶するのは正しいんだろうか。
同じ章の後半にはこう書いてあります。
“欲望に忠実になることは、わがままに利己的になることであり、「自分がハッピーになりたい」と思うことだ。薄暗い罪悪感にさいなまれずに生きることがハッピーになる条件だとすれば、人は利他的にならないと幸福にも楽にもなれない”
今週の22日(日)は、「月刊ALLREVIEWS」(「ALLREVIEWS友の会」の特典対談番組)でブレイディみかこさんと鹿島 茂さんの対談が予定されています。友の会会員以外の方も、有料にはなりますが、視聴可能です。
私の疑問にどう収拾をつければよいのか。そんな事を考えつつ、本書を日曜日までに読み終えたいなと思います。
もうそろそろ、ワクチンを打った左手が重くなってきたので、本日はこのあたりで…。
(やすだともこ)


週刊ALL REVIEWS Vol.115 (2021/8/16から2021/8/22) 丸谷才一さんの書評集で書評の勉強をしよう

丸谷才一さんの書評集『いろんな色のインクで』(マガジンハウス)についての鹿島茂さんによる書評をALLREVIEWSで読んだ。
呼び捨てにするのは憚られるほどの書評の親玉的存在、丸谷才一さんの書いたものは現代日本の書評の模範的存在と以前から思っていた。書評を基礎から勉強しようとしている私にとって、この本を読むことは必須条件であると思い、購入した。実は古本でしかも非常に安価。ある意味でありがたいのだが、この本の価値からすると安すぎる。なお、同じ著者の書評集は他にも何冊かあり購入事情は似たようなものだ。
鹿島茂さんの書評の表現を借りると、ラーメンのスープの部分すなわち本全体の価値を決めるインタビュー記事が最初に収録されている。この「藝のない書評は書評ぢゃない」という記事は、書評というものを考える上で非常に大切な示唆を含んでいる。つまり、書評で大切なことは「本の選び方」、「筋の要約と批評」、「藝と趣向の必要」、この三つという。 「本の選び方」。これはもちろん書評家がまず書評の対象本をどう選ぶかという根本的な話で、結局は書評の読者にその本を推薦する事になる以上は最も重要な課題だ。書評家の総合的な実力が試される。
「筋の要約と批評」。書評の読者はこれによって対象の本を買うか買わぬかを判断する。さらには実際に本を買って読まなくてもその本の内容を認識し評価できることで、知的な社会でのコミュニケーションを促す。書評家の腕の見せどころはもちろんここだ。
「藝と趣向の必要」。最も高度な段階で書評家の実力の差が出る。書評家は本を選び筋を要約して批評するという、それぞれの段階で藝と趣向をこらすべきである。そこでは「語り口」という要素も欠かせない。たとえば書評の最初の数行は最も大切である。
この文章が発表された1995年には丸谷才一さんは70歳となっており、ベテラン書評家としての書評への愛情溢れんばかりの「書評藝」への考察は素晴らしい。
書評を勉強しようと志している私にとってバイブルになりそうなこの本には、100冊以上の書評と、本に関する記事が満載されている。これらは鹿島茂さんによるとラーメンの麺や具にあたるのだが、そのすべてに丸谷才一さんの「藝」が潜んでいる。数多くの本を入手したくなるのはもちろんである。なお、読書好きにとっては装丁や造本にも細やかに気が配られているのも嬉しい。ここにも著者の言う「藝」が発揮されているのだろう。ラーメンの器にも気が配られている。
『いろんな色のインクで』を読み終えたいま、ぜひ熟練した「書評読み」になり、拙いながらも自分でも書評を書き、それらによって書評が導いてくれるであろう「書籍の華麗な世界」を楽しめるようになりたいと思った。さらに、「この本いいね」と同様に「この書評いいね」もお互いに言い合えるALLREVIEWS友の会などの仲間をこれからも大切にしていきたい。(hiro)


週刊ALL REVIEWS Vol.116 (2021/8/23から2021/8/29) ちょこっと変わりたい時にオススメ『習慣の力』

先日、産直市場でにんにく農家さん直筆のポップを見かけました。「大変な夏でしたが『負けるもんか』とがんばりました」。私も真似してつぶやいてみたら少し元気が出た気がしました。
その話を知人にしていたら、自動車免許教習所に通うことにしたといいます。密を避けた移動ができるとして自家用車での移動が見直され、免許を取得する若い世代が増えているとか。また人によっては、この状況下で生まれた余裕ある時間を活用しようという動きもあるようです。そう聞くと新しいことをはじめる人たちが眩しく見えて、私も何か小さなことでいいから変えようと思いました。この1年半かそれ以上を空白にしたくない、負けるもんかの気持ちもあるのかも知れません。そうしてALLREVIEWSで何かヒントをと探して見つけたのが、チャールズ・デュヒッグ著『習慣の力〔新版〕』(早川書房)でした。翻訳は渡会圭子さんです。

本書にはおもに悪習慣をなくしたい人のための手引きが書いてあります。誰にだって大なり小なり手を切りたい習慣があるものです。悪いとわかっていながらどうして辞められないのか、ついまた手を伸ばしてしまうのか。作者はそのメカニズムには3ステップあるといいます。きっかけがあり、行動があって、そこに報酬が結びついているというもの。私の場合、仕事が終わって夕食を作る前に飲むビールを控えたいのですが、なかなかできません(本当は晩酌まで待ちたいところ)。この場合、きっかけは缶ビールを見てしまうことでしょうから、まずは缶ビールが目に入らないようにすることがポイントのようです。もっと大事なのはビールを飲みたい欲求の裏にある本当の理由を探すことなのだそうです。これは自分をかなり掘り下げなくてはなりませんが、おそらく私は仕事後の気持ちを切り替えたいから飲みたいと思っている。では気持ちを切り替えるのならビールでなくても良いのでは?と考えはじめることが鍵となるようです。
このきっかけ、行動、報酬の3ステップを活用すれば、何か新たなことも挑戦できそうです。リストアップしたところ、新しく習慣にしたいことの一つに書棚の整理が浮かびました。書棚が整理ができたあかつきには報酬として、本を新たに一冊加えていい、というのは?と思いつきました。果たしてこれはうまく行くでしょうか。それともループ…。(山本陽子)。

週刊ALL REVIEWS Vol.117 (2021/8/30から2021/9/5) 今の時期だからこそ、書評で旅する中東

コロナ禍が収まる見通しも見えない中、世界各国では政情が刻々と変化しています。
今週はアフガニスタン情勢が気になり、ニュースをずっと見続けました。
米軍の撤退に伴い、政権奪取に成功した今度のタリバン政権は、女性や少数派の権利を認めるとしていますが、本当に尊重するかどうかが注目されています。
アラブの格言に、「約束は雲、実行は雨」という言葉があります。雲は作れても雨を降らせるのは困難である、約束は果たされてこそ意味があるが、実現は難しいという意味だそうです。 必死に国外脱出を図ろうとする人々の映像を見て、とても心配な気持ちになりました。今後、アフガニスタンの新政権が約束を雲で終わらせないかを、私たち個人個人が注視していく必要があると思います。
外国勢力が侵攻するもしばしば失敗するという過去の歴史から、アフガニスタンは「帝国の墓場」とも呼ばれます。大国の支配下、あるいは原理主義国家の支配下にあり、人々はその「墓場」で何を感じながら暮らしてきたのでしょうか。
こればかりはニュースを見ているだけではなかなか伝わってきません。でも人々が語る物語には、その力があるのだと思います。
ALLREVIEWSでは過去に、夏休み企画〈書評でGo on a Trip!〉と題し、書評を読むことで世界中を旅できる特設コーナーを作成しました。
「中東編」にはアフガニスタンはもちろん、トルコ、シリア、イラン、イラクなど周辺地域を含む様々な国々の物語を書評とともに紹介しています。
この時期、ぜひ本を通じて中東地域を旅してみてください。
それでは、今週も週刊ALLREVIEWSをお楽しみください!
Fabio


週刊ALL REVIEWS Vol.118 (2021/9/6から2021/9/12) 歴史の裏に酒あり

「血中のアルコール濃度を一定に保っておくと仕事の効率がよくなる」という、酒飲みが聞きつけたらしたり顔でふんぞり返るに違いない仮説を打ち立てたノルウェーの哲学者がいるらしい。この仮説の検証に、いわゆる“中年の危機”を迎えた男たちが身体を張って挑むデンマークのヒューマンドラマ映画『アナザーラウンド』が劇場で公開中だ。日本でも人気のある俳優マッツ・ミケルセン演じる“生徒からの信頼ゼロで冴えない歴史教師”が酒の力を借りてイケてる教師に変身。家庭で、職場で、しょぼくれていた彼の友人たちも活気を取り戻していく。これで人生も順風満帆に……とはいかないのが酒の力の怖い面である。
『酔っぱらいが変えた世界史:アレクサンドロス大王からエリツィンまで』(ブノワ・フランクバルム著/神田順子・村上尚子・田辺希久子翻訳)は、人類が酒を嗜むようになった奇跡のようなきっかけに始まり、人間は酒を好むようにプログラムされているのだという前提に基づいて、歴史上のエポックメイキングな出来事の裏にひそむ酒事情を紐解いていく。正直なところ、ややこじつけがすぎるのではないかと感じる部分もある。しかし酒を嗜む人ならば酒宴の席の肴に、下戸ならば酒飲みを弄り倒すのにうってつけの蘊蓄だと思えば楽しく読める一冊である。「あんなに深酒しなければ、終電を逃してタクシーで帰ることもなかったのに…」などという一般人レベルの粗相とは比べるべくもない、まさに世界を変えることとなったやらかしの数々は、規模が途方もなくて笑うしかない。
映画『アナザーラウンド』でも文字どおり“度を超して”酒びたりになる男たちが取り返しのつかない事態に陥っていくさまが描かれるが、問題は全員が全員、家族はじめ親しい人から隠れて飲んでいる点だ。学説を検証するという立派な大義名分があるのだから堂々飲めばよいものを、社会規範から外れることの恐怖に加え、飲酒への潜在的な罪悪感があるのだろう。それこそ本書で述べられているような遺伝子に刻み込まれた“失敗”の記憶が作用しているのかもしれない。みな一様に後ろ暗く飲み、止まらなくなっていく。コロナ禍が始まって一時期隆盛になったオンライン飲み会は、店とは違って閉店など気にせず際限なく飲めてしまうのがアルコール依存症の要因になり得るといわれたこともあった。実際のところはわからないが、たしかにとりわけ独り暮らしで巣ごもりが長くなると、画面に人の顔がワッと並ぶ賑やかさは酒を進ませるだろうし、「終了」ボタンひとつでいきなり世界に一人ぼっちのような気持ちにさせられるギャップもまた、酒に手を伸ばしてしまう原因になり得るのかもしれない。昔から「酒は飲むとも飲まるるな」といわれるが、「日陰でコソコソ飲むな」というのもひとつ、心に留めておくとよいのではないだろうか。
ここまでつらつら書き連ねてきて、酒を飲まない人にはどうでもよい話であったなと反省しているが、要は「誰かとリアルに【居酒屋やパブで楽しく酒を酌み交わして】話したい」のだ。【  】の部分を除けば、おおむねご賛同いただけるのではないかと思う。2021年残りの三分の一にそんな楽しさが戻ってくることを願って、日々ほどほどに嗜むことにしよう。乾杯!(朋)

週刊ALL REVIEWS Vol.119 (2021/9/13から2021/9/19) ネタバレを心配せずに“ザリガニ“を楽しめる日がやってくる

ようやく、東京の1日の新型コロナウイルス感染症発生者数が3桁にまで減ってきました(9月20日現在)。症状に苦しむ皆様が回復されることを祈りつつ、秋の紅葉の頃にはもう少し自由に人と会い、話す生活が戻ってくるといいな、と、満月に近い月を見ながら思います。
さて、以前、どうしても観ていない人とはストーリーを話せない、つまり、ネタバレしたら台無しになるという野田秀樹さんの新作演劇『フェイクスピア』のことを書きました。
でも、ネタバレしたらダメ!は本を愛する方々、特にミステリが好きな方々には当たり前な常識かもしれません。
しかし、ミステリとは言い切れない作品ながら、「これは読んではいない人とは話しちゃだめな本だ!」と、読み終わったあとに衝撃を受けて、呆然とした本があります。
“アメリカ探偵作家クラブ賞にノミネートされた作品であり、ラスト100ページあまりが裁判シーンである長篇なのにミステリ小説としての側面を紹介しないのは、ミステリとして読むとけっして新鮮というわけではなく、どこかに既視感がともなう作品であるからだ。”
北上次郎さんも書評でこう書かれています。
ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)です。
ノースカロライナ州の湿地である男の死体が見つかり、「湿地の少女」と呼ばれたカイアに疑いの目が向けられます。カイアは6歳で家族に見捨てられ、たったひとりで湿地で、村の人々に蔑まれながら1人で生きてきました。
死体が見つかった1969年と、カイアが1人捨てられた1950年代前半からとが交互に語られつつ、物語は進みます。
そう、ミステリとしては、なのですが、彼女が日々葛藤しつつ生きる姿に次はどうなる? 次はどうする? と目が話せません。また、日本にだけ生きてきた私には、当時のノースカロライナ州の“湿地“での暮らし、そこで彼女がひとりで食べるトウモロコシを使った食べ物にも興味津々。
2019年、2020年アメリカでいちばん売れた本であり、2021年本屋大賞翻訳小説部門では第1位という本書。しかし、なかなかこの本を読んだ!
カイアはあそこでなぜ??などと語り合える方とは、出会えません(ふだんなら、呑みながらそんな話題を!となりますが、今はなかなか…)
そこで、ALLREVIEWS友の会では、ミステリ書評家の若林踏さんが本書を読み解き、疑問にも答えてくださるオンラインイベントを企画しました。
完全ネタバレ前提の会です。思う存分、自分の疑問質問を表明できます。
ようやくこのときが来た!と楽しみでなりません。秋の夜長、もう一度カイアの人生をもう一度読み返したいと思います。そして、料理については、こちらのnoteで予習を。

読書の秋、そして食欲の秋!
(やすだともこ)


週刊ALL REVIEWS Vol.120 (2021/9/20から2021/9/26) 複数の書評を並行して読むのも楽しい

9月23日の「月刊ALLREVIEWS」第33回の対談(ゲストは『『失われた時を求めて』への招待』(岩波書店)の著者、フランス文学者/京都大学名誉教授の吉川一義さん、ホストはもちろん鹿島茂さん)を視聴した。実は私は吉川さん訳の岩波文庫版『失われた時を求めて』全14巻は、まだ読んでいない。今回の岩波新書の『『失われた時を求めて』への招待』を途中まで読んだだけの視聴だった。岩波新書は翌朝に読み終えた。吉川さんの誠実な「プルースト研究」が伝わってくる本で、対談の内容もそのとおり素晴らしいものだった。
(対談のアーカイブ視聴はこちらから可能だ。https://allreviews.jp/news/5623
『失われた時を求めて』は難解な作品と言い古されているのだが、この本と対談を通じて難解な作品を理解する方法を教えていただいた。作品に安直な「答え」を期待するのではなく、作品に込められた著者の「問いかけ」を見つけて、現在の状況の中でその「問い」を、自分ならどう「問いかけるか」を考えるというもの。この方法は古典を(理科系の古典も含めて)読む際に応用できる、普遍的な素晴らしいものだと思った。
吉川さんの岩波新書にはプルーストの人間の差別に対する「問いかけ」が書かれている。私も『失われた時を求めて』に込められた「問いかけ」を自分で発見しようとしたがすぐには思いつかない。とりあえず、ALLREVIEWSサイトに数多い『失われた時を求めて』関連の書評記事を参考にしてみることにする。トップページで「失われた時を求めて」で検索をかけると、書評以外も含めて33個もの記事がヒットする。主なものは次の通り。いくつか再読してみた。
鹿島茂さんは「冒頭の語り手の「私」の複雑な構造は苦痛を介する文学創造という大逆転のために不可欠な技法ということになるし、また、最難関の『失われた時を求めて』の完訳に挑もうとする訳者自身もまた同じ心理に捉えられていたことになる。」と『『失われた時を求めて』への招待』の書評で述べておられる。

一方、鹿島さんはプルースト専門家ではないフランス文学専門家として、読者に『失われた時を求めて』の完読を「アシスト」する意味での本も書かれている。つぎは鹿島さんご自身によるこの本(『「失われた時を求めて」の完読を求めて 「スワン家の方へ」精読』)の紹介。

私は光文社古典新訳文庫版の『失われた時を求めて』を途中までしか読んでいないが、上記の本で充分に「アシスト」されている気がする。
そして、プルースト専門家で今正に完訳を目指しておられる高遠弘美さんは、『収容所のプルースト』という、美しい本の書評を書かれている。これをきっかけに『失われた時を求めて』の読書会が盛んになったのかもしれない。

高遠弘美さんは『プルーストと過ごす夏』という本の書評も書かれている。読者が個人としてゆったりとプルーストを読むことを賛美するもので、そもそもこれをきっかけにプルーストを手にとったという人も多いだろう。

これらの書評や書評対象本を読んだといっても、やはり私自身が自分なりの「問いかけ」をしなければならないことにかわりはないが、より多くの視点を手に入れると自分の考えが深まる気がする。これからも『失われた時を求めて』を、ゆっくりと、考えながら読み続けるのだろう。
ALLREVIEWSには数千の素晴らしい書評がデジタル化されて収録されている。同一の書籍やテーマに関しての書評が複数あることも多い。これらを比較しながら読むことによって、ある書籍やあるテーマに関する考え方が飛躍的に深まることになる。そして、秋の夜長にこうして読書と思索の世界に遊ぶことは、無常の快楽であることは言うまでもない。(hiro)

週刊ALL REVIEWS Vol.121 (2021/9/27から2021/10/3) 秋が十倍楽しめる!?澄む秋に読みたい2冊

“○○を十倍楽しむ法“というフレーズがあります。そこでいくと今の私は、“秋を十倍楽しむ法“を全方位で探っているところ。今回はALLREVIEWSで秋を満喫する本を求めてみました。 一冊目は梨木香歩著『ヤービの深い秋』(福音館書店)です。

森にひっそりと住む小さな生き物・ヤービと仲間たちを描いたお話の2作目にあたります。彼らと大きい人(人間のことです)は、あるキノコを求めて冒険の旅に出るというストーリーです。子どもたちの成長譚あり、ファンタジー色ありと読みどころ満載な上、麗しい秋が作者のやさしい目線でたくさん拾われている一冊。クルクルと舞う葉っぱの音や風の色まで伝わって、まるで季節が両手を広げて待っているかのように感じました。ところどころで現れる食べ物は“食欲の秋“を刺激して、お得度さらに倍増です。
二冊目は北村薫著『秋の花』(東京創元社)です。

もう何度読んだかわからないぐらい大好きな作品なのですが、秋に注目して再読してみました。するとそこかしこに散りばめられた豊かな秋を見つけられました。ちょっとしたご褒美をもらった気分です。
季節にあった本に手をのばして、現実の世界と重ねて味わう。これも読書の醍醐味ですね。みなさんも本とともに素敵な秋をお過ごしください。そしておすすめの秋の本がありましたらお知らせください。(山本陽子)

週刊ALL REVIEWS Vol.122 (2021/10/4から2021/10/10) 価値観の見直しに、今週の書評チェック

コロナ禍では多くのことが変わりました。
生き方を見直したり、価値観を再確認したりする人が増えています。知人にも転職や地方移住を検討している人がいます。
経済が右肩上がりだった時代は、複雑なことは考えないで目の前にもっと集中できていたかもしれません。
しかし今、価値観は多様化しています。先週末に観た『007』シリーズ最新作でも従来の型を崩すダイバーシティが進んでいました。
自らの人生をどう生きたいのかを考えるべき時なのかもしれません。
新着書評をご紹介します。
『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』(評者は旦 敬介さん)。

大企業に雇用されず小規模なビジネスを展開することは安定とは正反対に思えるが、それゆえに急速な成長が可能で危機対応もできるのだと。それこそ強さと安定性につながるのだという指摘には、深く考えさせられました。
今週は他にも『正解がない時代の親たちへ 名門校の先生たちからのアドバイス』など、今こそ読みたい書籍も紹介されています。
ぜひお楽しみください!

Fabio

週刊ALL REVIEWS Vol.123 (2021/10/11から2021/10/17) 非完読のススメ

いつか小説の翻訳を手がけてみたくて、フィクションを教材とする講座に夏から「通って」いる。コロナ禍ゆえリアルではなく画面越しの授業。先生である西崎憲さんに小説家としての顔があるのを最近知り、豊崎由美さん書評のSF『世界の果ての庭』を読んだ。これがまあ不思議な物語で、1頁ものから6頁ほどの長さまで、異なる新聞連載小説の各話をつまんでいる感覚が、ある瞬間カチッと行き交う。その一瞬のスパークが心地よい。予想外というより予期していた何かがやっと来た喜びの充実。これは日常にも敷衍したい邂逅だと思った。そのためにあるのが文化であり教養なのだ。誰のためではなく日々喜びとめぐり会うためのフック。取っ掛かりは幾らでもある中で、メルマガの性質上、ここでは本を薦めるが、思いきって、完読は不要。気になる部分をつまみ読みする気軽さが可能性と世界を広げてくれるはず。本日のお品書きは以下に、いずれも食指を動かされる逸品!(朋)


週刊ALL REVIEWS Vol.124 (2021/10/18から2021/10/24) 日々の怒りは「ジャム」にして食べてしまえばいい!

昨日東京都も飲食店への時短営業要請解除。生活が戻りつつあることに喜びを感じます。
一方子どもが通う小学校で戻らない活動があります。読み聞かせボランティア。授業開始前20分間、各クラスで読み聞かせをします。私も参加していますが昨年度から中止のままです。
活動は本選びから始まります。担当学年の子たちを飽きさせない本を数冊。なぜ再開しないかなと考えていると、気になる絵本を発見しました。『プンスカジャム』です。
一言で言うと、ある少年の怒りをジャムにして瓶に詰めると怒りがおさまっちゃうお話し。我が家の7歳に早速読み聞かせました。「ぷりぷり怒るところが私と同じ!」と本人も認めつつ、山崎ナオコーラさんの言うとおり「怒り」ではなく「プンスカと表現」してジャムにして笑顔食べちゃえばいいんだと親子で納得。
怒りばかりの一年半。ストレスフルな小学生にこの本を読み聞かせできる日よ戻れと願います。この長さは4、5年生かな?(やすだともこ)

週刊ALL REVIEWS Vol.125 (2021/10/25から2021/10/31) 小松左京の苦悩をよそに何度も日本は「沈没」させられる

話題のTBSテレビドラマ『日本沈没』、非常によく出来ている。でも私は2回目(2006年)の映画化で凛とした危機管理担当大臣を演じた大地真央の姿が忘れられない。今回、映画『日本沈没』新旧2本を観て、『日本沈没 決定版』を読み直し、『日本沈没 第二部』を初めて読むことにした。
『第二部』を敬遠していたのにはわけがある。阪神淡路大震災、東日本大震災を経た小松左京の苦悩の原因は何で、その解決はどうつけられたのかを、自分で良く考えるまでは、読みたくなかったのだ。
ALLREVIEWSで知った本、『小松左京さんと日本沈没 秘書物語』には秘書、乙部順子さんから見た心優しいボスの姿が生き生きと描かれている。日本社会の動向はその小松左京にとって許されないし、このままでは日本は何らかの形で「沈没」してしまうだろう。その後、地球も……。
『第二部』を読むと、そんな私の推測を大きく越えるものがあった。(hiro)
『小松左京さんと日本沈没 秘書物語』の書評はこちら。

週刊ALL REVIEWS Vol.126 (2021/11/1から2021/11/7) 秋の古本市で本のコスパを思い知る!

持ち運びがラクでアクセスは簡単、しかも無限にリピートできる。本ってやはりコスパ抜群ですよね。改めてそう感じたのは先日、わが街福岡で開かれた『のきなし古本市in福岡城』に出かけたからでした。毎秋の定番ともなった本の催し『ブックオカ』の目玉イベントです。出会いに期待しつつ、並んだ本に一冊ずつ目をやりながら一軒、一軒をくまなく回りました。ときにはこの店主さんとなら一緒にお酒が呑めそう、なんて思いながら。お行儀が悪いと知りつつも、他の方が買っていく本はどうしても気になります。背表紙をチラ見し、会話のやりとりに耳をダンボにして「ほほう面白そう」とタイトルを覚えてみたり。そんな中、ある店で黄ばんだ表紙の分厚い本が3冊売れたばかりのところに遭遇しました。「店を開いた時、初めて仕入れた本なんです。お渡しする前に本の写真を撮ってもいいですか?」と店主さん。ジーンときちゃいました。幾人かの手を渡り、いろんな人の人生を塗り替えていくこともできる本。あの日秋空の下に集められた本は、今ごろ新しい場所での暮らしをむかえているんだろうな。
さて先週のALLREVIEWS のダイジェスト版をお届けします。私が気になったのは先日、紫綬褒章で話題になった小川洋子さんの『琥珀のまたたき』。蜂飼耳さんの書評を読んで、あの世界がすぐさま立ち上がり、また読み返したくなりました。(山本陽子)


週刊ALL REVIEWS Vol.127 (2021/11/8から2021/11/14) 久しぶりの小旅行で取り戻す、体で感じる旅感覚!

週末を利用して久しぶりに一泊二日の小旅行をしてきました。
行先は強羅温泉です。
「温泉らしい匂いが特徴の、硫黄泉が楽しめる宿です」
宿泊先を予約する時に見たホームページにはこのように紹介されていました。
実際に現地に行ってみますと、匂いに止まらず、町全体が醸し出す硫黄泉の独特な雰囲気がそこには広がっていました。
紹介文を読んだだけでは感じ取れない、体で覚える感覚みたいなものが、なんだか久しぶりでとてもうれしかったです。
コロナ禍もあり、旅をしづらくなってしまいましたが、現地でしか感じ得ないものを味わうことこそ、旅行の一番の楽しみだったなぁ、とあらためて思いだしました。
澄んだ空気も美味しい料理も、もちろん温泉もすばらしかったです。
ただこの全身で味わう旅感覚みたいなものを思い出せたことが、今回の旅行の一番の収穫だったかもしれません。
戻ってきてから、ふとALLREVIEWSで「温泉」をキーワードに本探しをしてみました。
すぐに素晴らしい一冊が見つかります。
『世界温泉文化史』(評者は岸本 葉子さん)
自由に海外にも行けるようになったら、次はこの本を読んで、行き先を考えたいと思います。
それでは今週も素晴らしい書評の数々をお楽しみください!

Fabio


週刊ALL REVIEWS Vol.128 (2021/11/15から2021/11/21) 「全部、魔女のせい」にしちゃえば楽なのだけれど

70年代のオカルトブームを経て、80年代にスプラッターの時代を迎え、90年代からはサイコものが台頭してきたアメリカ(に限らないが)のホラー映画。その変化のなかにあって不動のモチーフが「悪魔」あるいは「魔女」である。今年日本でも公開されたジェームズ・ワン監督が手がける人気シリーズ映画『死霊館』の新作も邦題には「悪魔のせいなら、無罪。」と一見ふざけたサブタイトルが添えられていたが、原題は『The Conjuring: The Devil Made Me Do It』であるから、あながち面白さ狙いだけではない。
人が善を忘れ罪深き行為に手を染めるのは、悪魔、あるいは魔女に取り憑かれたり呪われたりするせいなのである。善を救うために悪は駆逐しなければならない。キリスト教の根幹に刻み込まれた善悪二元論が中世のヨーロッパを中心に「魔女狩り」など非人道的なおこないにつながった歴史を、誰しも一度は教科書などで目にしたことがあるはずだ。
『善悪の彼岸』でニーチェに痛烈な批判を浴びせられながら、しかし善悪二元論はいまだ世界のそこかしこに巣くっている。多様性が叫ばれる昨今では指標は「善か悪か」でなく「自分たちか自分たち以外か」に姿を変え、排除の理論を導く。魔女狩りが横行していた時代とたいして変わらない。ハリウッド映画は長らく「悪の組織vs正義のヒーロー」の構図を提供して多数派を占める人々の心に安寧をもたらしてきたが、とりわけ近年のマーベルやDCをはじめとするヒーロー映画では正義の側にも矛盾があり、悪の側にも一理あり、引けない線をめぐって悩む主人公たちが登場して共感を呼んでいる。世の中は確実に変わりつつあるのに、それでも差別や偏見に基づくヘイトクライムが後を絶たない現状をみるにつけ、善悪(あるいは正誤)二元論の根深さを感じずにはいられない。
今週届いた書評のなかで目を引くタイトルがあった。『魔女とキリスト教』(講談社、上山安敏著)。本来はキリスト教とちがう流れにあった魔女の概念がどのようにしてキリスト教と迎合し、善悪二元論と結びついてヨーロッパに暗黒の歴史をもたらしたかを紐解き、山折哲雄氏の書評によれば、「近年のフェミニズムが「旧約聖書」の読みかえを通して[中略]迫害されてきた魔女を新しい形で蘇(よみがえ)らせようとしている動向も紹介されている」という。ホラー映画ファンのみならず、迫害されてきた女性の問題に関心がある人たちにも薦めたい一冊だ。(朋)


週刊ALL REVIEWS Vol.129 (2021/11/22から2021/11/28) 韓国ドラマ『賢い医師生活』にハマった次は、何を読む?

世間の流行に乗って、Netflixの韓国ドラマにはまっています。昨年大人気だった『梨泰院クラス』『愛の不時着』を一気に観てから、このままでは生活が破綻してしまう!と控えていましたが、先月『イカゲーム』全9話約9時間を3日で見切ってから、波が復活。今は『賢い医師生活』を少しずつ観ています。
これまで観た作品よりも、穏やかに進む5人の医師たちの物語。年末に向けての繁忙期、ずっと観ていたくなるけど、またここから先は次にしようと自制できる作品を選んでよかった、などと思う今日このごろです。
近いけれども、文化も言葉も食べ物も違う韓国。
それゆえにドラマを観るとまずやってみたくなるのが、ドラマに出てくる食の体験です。『愛の不時着』では、北朝鮮から韓国にやってきた若い兵士たちが美味しそうに食べるフライドチキンに釘付け。日本にもフライドチキンはありますが、ボリュームも味も違うようで、ものすごく美味しそうなのです。先日ついに韓国フライドチキンの宅配を手配。K-POPにはまる子どもと堪能しました。
『賢い医師生活』だと、手軽に食べられる食事として、また、お鍋のシメに出てくるインスタントラーメンがやたらと美味しそう。もちろん翌日、リモートワークの昼食は韓国のインスタントラーメンです。
一方で医療系ドラマにはまると、医療方面のフィクションに違う形でもつかりたい気分になるという副効用もあります。特に『賢い医師生活』は患者さんやその家族、医師とのやりとりもいろいろなシチュエーションで描かれていて、そのやりとりの世界からも離れがたくなっています。明るい話ばかりではないのに、です。
そんなことを思いつつ、ALLREVIEWSを観ていると、ちょうどとてもよさそうな本のご紹介がありました。コニー・ウィリス『航路』(早川書房)です。豊崎由美さんの書評にある
“自分の命も顧みず他人の命を救うために尽力した勇気ある人々のエピソードがもたらす感動、死にまつわるたくさんのメタファーを駆使した深い洞察、巧妙な伏線が張り巡らされたスリリングなストーリー展開、時折挿入される温かな笑いを生むユーモラスなシーンや会話…”
というのは、私がまさに求めていたものです。
さらに、2分冊と長いのに“愉しみどころ満載、一気通読のロードコースター・ノヴェルなので、この長さがまるで気にならないはず“とのこと。
ドラマのシーズン1を観終わったら次は『航路』を読もうかな。
韓国ドラマは1話が1時間半ほどあるものもあり、日本のドラマに慣れているとかなり長いのです。ドラマが食、読書にまで影響してくる生活は、まだまだ続きそうです。今年の忘年会は韓国料理かな。(やすだともこ)


週刊ALL REVIEWS Vol.130 (2021/11/29から2021/12/5) 書評を読むことは書評家との二人読書会だ

星新一の著作『祖父・小金井良精の記』の書評(書評家は尾崎秀樹さん)を先週ARでみかけた。

良い機会なので勝手に「二人読書会」を開催した。
以下は私が一年前に書いた書評(とは言い過ぎで読書感想文)だ。
***
『祖父・小金井良精の記』とは、変な題名なのだが、最初の方で星新一が説明している。小金井良精は星新一の母方の祖父(で妻は森鷗外の妹喜美子)。若き日のドイツ医学留学の日々から晩年にいたるまで欠かさず日記をつけていた。それを探し出して、テーマごとに読みながらこの本の材料としている。この本は星新一が書いたものか小金井良精が書いたものか、判然としないということを題名の曖昧さで表している。
星新一らしく、短いストーリーの連続であり、非常に読みやすい。小金井良精と周囲の綺羅星のような人々(含む鷗外)が、この本の中で生き生きと動き回る。
長岡藩の幕末の悲劇のなかで子供時代を過ごした小金井良精は、東大医学部(の前身)を首席で出て、ドイツに留学、腎臓病をかかえながらも、ベルリン大学で助手として教鞭を取るまでになる。そのころドイツにやってきた森林太郎にも会っている。帰国して東大医学部の教授になる。賀古鶴所の紹介で鷗外の妹と結婚。賀古鶴所からドイツの鷗外に2人の結婚の承諾を求めると、即座に電報で認める旨の返事が戻ってきたという。
鷗外とは違い、小金井良精は医学関連の仕事一筋。解剖学を教え、人骨の研究も行う。三度目のドイツ訪問で購入してきた計算尺で研究の計算を夜中まで行って倦むことがない。定年退官したあとも、好きな研究(人類学)のために、発掘した人骨を自ら洗う生活を続ける。夜は遅くまで論文を読み、自分も論文を書く。根っからの研究好き。土日もあまり休まない。ただし、夜ふかしだけはしない。貧乏で、地味な研究者なのだが、名声は高い。
女婿、星一に長男ができ(大正15年)、可愛がる。同居していたこともあり、猫可愛がりしたようだ。これが星新一だ。
70歳で、御前講義を行う。「本邦先住民族の研究」からの話を、若き天皇は興味深く聴いていたという。南方熊楠を連想させる。決して体が丈夫ではなかったが、小金井良精は節制しながら研究を続け、昭和19年、87歳で他界するまで研究を続けた。
***
今回『祖父・小金井良精の記』をななめ読みで再読したのだが、私の上記の「書評」は特に変更しなくても良いと感じた。その後、恐れ多いが尾崎秀樹さんの書評と比べてみた。本の印象については大差ないと思えるが、それは当たり前だろう。私の「書評」は星新一の文章のテクニック面での分析が弱すぎる。まだまだ勉強が必要だ。
ともかく、このような「二人読書会」は楽しくてためになる。これからも続けていきたい、(hiro)


週刊ALL REVIEWS Vol.131 (2021/12/6から2021/12/12) 2021年の本の総決算に『ALL REVIEWS』がお役に立ちます!

みなさん、こんばんは。先週日曜の『月刊ALLREVIEWS』はご覧になりましたでしょうか。『月刊ALLREVIEWS』とは月2回「今月必読の本」をご紹介しているオリジナルのYouTube番組です。先日は毎年恒例の『フィクション部門第36回 杉江松恋×倉本さおり×豊崎由美「あのとき紹介したかった本、2021」』でした。面白かったですね。まさかそういった類の本が紹介されるなんて…と個人的驚きも一部あったのですが(笑)、そこはさすがのお三人で、作品の良さをきっちりと引き出してくださり、こちらはその本を手にとらざるを得なくなるという…。何といっても醍醐味はお三人のセッションです。書評の第一線でご活躍するお三人のユーモアや皮肉を交えた話に熱中させられ、タイトルのメモを取るのも忘れ、気づけば2時間越えでした。新スタジオは豪華で年末感があってよかったですね。

紹介された本はこちら↓

当日の熱いトークを体感したい方はぜひ友の会のご参加をご検討ください。過去アーカイブも視聴可!詳細は↓
https://allreviews.jp/news/2936

さて皆さまの今年のイチ推し本は何でしょうか。再び個人的なことを申し上げると私的ランキングでは、アンドラス・キビラーク著『蛇の言葉を話した男』が長らく独走しておりました。しかし、ここにきて11月の『月刊ALLREVIEWS』で齋藤真理子さんが最後にチラリと紹介されていたフリオ・リャマサーレス著『黄色い雨』にかなりハマっております。(もちろん『赤い魚の夫婦』もよかったです!)。皆さんの2021年の推し本もしよかったらお聞かせくださいね。

それでは今週の週刊ALLREVIEWSをお楽しみください。(山本陽子)

週刊ALL REVIEWS Vol.132 (2021/12/13から2021/12/19) 徒然なるままにもう年末

本を読むのが好きで、文章を書くのも好きなメンバーたちが毎週代わる代わるこの巻頭言を執筆しています。
私なども日常的にあちらこちらにつたない文章を書き綴っているわけですが、こんな文章を世に出してしまってよいものだろうか、と苦悩の連続です。
あぁ、つれづれなるままに書いて、それがそのまま後世に残る文学になったらさぞ気分がいいだろうな、と日々夢想しています。
先週号の新着書評に『謹訳 徒然草』(著者は林 望さん)が紹介されていました。
『徒然草』を最初に読んだのは学生の頃でしたが、今でもことあるごとに思いだすのが「能をつかんとする人」について戒める部分です。
曰く、
芸事を身につけようとする時、「上手くなるまで人に知られないようにしておこう。内々に練習して、上手くなってから見てもらうのがいいだろう」という人は多いが、そういう人は結局、一芸も身につけることはない。
兼好法師のこの教えは不安な時にいつも勇気づけてくれます。
そろそろ来年の目標を考える頃ですが、あらためて年末年始に読みたい一冊です。
林望先生の訳で読むことができるのも大きな楽しみです。
それでは、今週も素晴らしい書評の数々をお楽しみください!
冬休みの一冊が必ず見つかります。

Fabio 

***

いかがでしたか。お楽しみいただけたと思います。
毎週火曜日夜に送付される週刊ALL REVIEWSの購読申込はこちらから。もちろん無料です。↓

今後も週刊ALL REVIEWSメルマガをどうぞご愛読ください。(hiro)

【「ALL REVIEWS 友の会」とは】
書評アーカイブサイトALL REVIEWSのファンクラブ。「進みながら強くなる」を合言葉に、右肩下がりの出版業界を「書評を切り口にしてどう盛り上げていけるか」を考えて行動したり(しなかったり)する、ゆるい集まりです。
入会すると、日本を代表する書評家、鹿島茂さんと豊崎由美さんのお二人がパーソナリティーをつとめる、書評YouTube番組を視聴できます。
友の会会員同士の交流は、FacebookグループやSlackで、また、Twitter / noteで、会員有志が読書好きにうれしい情報を日々発信しています。
友の会会員の立案企画として「書評家と行く書店ツアー」、フランスのコミック<バンド・デシネ>をテーマとしたレアなトークイベントや、関西エリアでの出張イベント等が、続々と実現しています。2020年以降はオンライン配信イベントにより力をいれています。
さらに、Twitter文学賞の志を継承した「みんなのつぶやき文学賞」では、友の会会員有志が運営にボランティアとして協力。若手書評家と一緒に賞を作り上げていく過程を楽しみました。
2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
ALL REVIEWS友の会Twitter:https://twitter.com/a_r_tomonokai


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