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読みやすい、面白い!アトウッド入門書として最適!~上田 早夕里 × 豊崎 由美、マーガレット・アトウッド『誓願』を読む~

書評アーカイブサイト・ALL REVIEWSのファンクラブ「ALL REVIEWS 友の会」の2020年10月のフィクション回。ゲストは小説家の上田 早夕里さん、メインパーソナリティーは豊崎 由美さん。読み解く本は、マーガレット・アトウッド『誓願』(鴻巣 友季子訳・早川書房)。10月に出たばかりの新刊書を早速読み解きます。ツイッターでは翻訳者の鴻巣友季子も観覧中とのご連絡。
アトウッドはノーベル文学賞候補の常連。そして『誓願』はドラマでお馴染みの『侍女の物語』の続編。お二人はどう読み解くのでしょうか。
※対談は2020年10月31日に行われました。

『侍女の物語』に先立つディストピア小説の傑作三作

『誓願』の話題に先立ち、上田さんよりディストピア小説とSF小説の流れをご紹介いただきます。

ディストピア小説としてご紹介いただいたのは以下の3作品。

オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(光文社古典新訳文庫)1932年
キャサリン・バーデキン『鉤十字の夜』(水声社) 1937年
ジョージ・オーウェル『一九八四年』(ハヤカワ epi文庫) 1949年

このうち女性作家の手になるのが『鉤十字の夜』。作品が発表されたのは1937年ですが、邦訳が発表されたのは今年(2020年)の1月。出版社の水声社さんはAmazonに卸していないため、手に入りにくいかもしれませんが、もし、書店で見かけたらぜひ手に取ってほしいと上田さんは言います。

『鉤十字の夜』はナチス政府が勝利し、大日本帝国と覇権を争う26xx年の話。ユダヤ人は粛清され、女性は教育の機会を奪われ文字も読めないというディストピア。注目されるのは、この本がナチス・ドイツの行く末がまだわかっていない1937年に書かれていること。豊崎さんも、「早速読みます!」。

すらすら読める『誓願』~アトウッド入門書として最適~

ディストピア小説の歴史を紹介してくださる上田さん。でもディストピア小説は実は苦手で、『侍女の物語』を読んだのは文庫本になってから。単行本で読んでいる豊崎さんに少し遅れています。上田さんはそれでも、生殖の問題を扱う『侍女の物語』を読むことは必須だと思い、読まれたそうです。

そんな上田さんは『誓願』をすらすら読めることにびっくり。『侍女の物語』が読めなかった人、読んでない人でも『誓願』を読んで全く問題ないのではと『誓願』を激推しします。豊崎さんも同調。翻訳者の鴻巣友季子さんもTwitterでこの意見を支持します。

上田さんはこの読みやすさにはドラマの影響があるのではないかと推測します。アトウッドは『侍女の物語』を発表したとき、この作品は戯曲にはなるが映画化はできないといったそうです。それでも、映画になり、そして、ドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は大成功。シーズン4も決まっています。ドラマのスタッフともよい関係を結んだアトウッド、自分の作品に関心をもつ人の広がりを感じ、ドラマのファンに向けて 平易な表現の本書を書いたのではないかというのが上田さんの意見です。そして、アトウッドほどの実力があれば、読みやすくしても、作品の本質の強さは変わらない!

豊崎さんもアトウッドが年齢を重ね、筆が軽くなったことに感心します。そして、2019年に発表された本書の翻訳が早いことにも感激。「鴻巣さんは決して翻訳が早い人ではないが、本書に関しては頑張った」と翻訳者を褒めたたえます。

また、豊崎さんは、表現の軽やかさにも目を見張ります。この作品は、ギレアデ共和国の影の権力者となったリディア小母、ギレアデ共和国の司令官の娘アグネス、カナダ出身でギレアデ共和国に潜入するデイジーの三人の手記が交互に示されるという形となっていますが、特にデイジーの手記は、今までのアトウッド作品に出てこなかった口語表現。鴻巣訳はその軽さをよく生かしていた邦訳となってます。

また、主人公三人の手記が並ぶ順番はまるで音楽のようだと上田さんは絶賛します。良いところしかない小説です。

強いて言えば、エンタメにより過ぎているところが欠点か。豊崎さんは「これでアトウッドのノーベル文学賞はなくなったかなあ。」と言います。

リディア小母=金森さん?

『誓願者』はサスペンスの要素も強く、ちょっと口を滑らせるとネタバレになってしまうため、上田さん、豊崎さんとも慎重に言葉を選んでいます。それでも、ちょっとだけネタバレを。『侍女の物語』では悪役だったリディア小母、本作品では大活躍。上田さんは映像研の金森氏に通じるといいます。これには豊崎さんも大喜び。豊崎さんは映像研が大好きと表明されてましたよね。

また、『誓願』も『侍女の物語』と同様、ギレアデ共和国が崩壊した未来で開催されているシンポジウムで事件が報告されるという形をとっているのですが、シンポジウムの登場人物が『侍女の物語』の時より出世しているところに、『侍女の物語』を読んだ人への心配りがあると、豊崎さん。

筆者も読みましたが、『誓願』はエンタメ小説としてさくさく読めます。ドラマ化も楽しみです。

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