見出し画像

40年ぶりに読んだ『族長の秋』は読みやすい!~柴崎 友香 × 豊崎 由美、ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』(鼓 直訳、集英社)を読む~

2021年5月の月刊ALLREVIEWSフィクション部門のゲストは柴崎友香さん。課題本はガルシャ=マルケス『族長の秋』。書かれたのは1975年、日本語訳が出たのは1983年。豊崎さんは初訳が出たときに読んでいるので、今回、ほぼ40年ぶりに読み返したそう。そして、思ったよりも読みやすいことに驚きます。21世紀の私たちは、ラテンアメリカ文学や他の世界文学に慣れ、ガルシア=マルケスが読みやすくなっている!
奇しくも、前の日には、鹿島さんがドゥルーズを40年ぶりに読み返し、腹落ちしたところ。
それなりに長く生きている方、若いころにわからない、難しいと思った著作を読み返すチャンスです。
※対談は2021年5月30日に行われました。アーカイブ視聴が可能です。

読点はある!読みにくくはない!

ガルシア=マルケス『族長の秋』は作者の故郷であるコロンビアをモデルとする国の232歳とも言われる独裁者の物語。複数の人物の視点で多声的に描かれる物語は、句読点が少なく読みにくいという印象を豊崎さんは持っていました。

ところが40年ぶりに読み返すと、句点は少ないかもしれないけど、読点はある。何より読みにくくはない。一見荒唐無稽な物語ですが、実際の独裁政権ではありそうな出来事が書かれていると、豊崎さんは改めて感心。

句読点の少なさは原文ではどうなのかしらと柴崎さん。そんな疑問は柳原さんに聞こうと豊崎さん。お二人の対談を視聴していた柳原さんからツイッターでお返事が。YouTube対談の醍醐味です。

マジックリアリズムは「リアル」の反映

『族長の秋』を選書した柴崎さんも読み返したのは20年ぶり。権力が空洞で、でも皆が権力者に忖度する構図は現代の日本に通じるのではと感じています。今回改めて読んだのは、2011年発行の文庫本。表紙が牛の装丁(最後まで読んでいないと思いつかない装丁!)、中島京子さんの解説も素晴らしい。付箋だらけの文庫本から、中島さんの解説を取り出して朗読。

…たとえば、〈大統領〉命令どおり、二千人の少年を虐殺した士官が報告に来ると、彼は、士官たちを二階級特進させ、勲功章を与えたうえで、階級章を剝奪し、〈出すのはいいが、実行してはならん命令もある〉といって銃殺してしまうのだ。〈出すのはいいが〉って、いいはずないだろう。



ガルシア=マルケスは『百年の孤独』(1967年)に発表したあと、『族長の秋』のために8年間、独裁政権について取材します。荒唐無稽な話も、実際の独裁政権にあったことに基づいていると豊崎さん。この作品の根底にあるのはラテンアメリカのリアル。豊崎さんはラテンアメリカに独裁者が多いことに触れ、ラテンアメリカ文学の「独裁者文学」の代表作を紹介。

なお、筆者が感じたこの作品のリアルは、大統領の母親の以下の描写。

あらゆる伝染病から身を護るためだと言って、樟脳入りの小さな袋を首からぶら下げる

平時だったら頭のおかしい母親でしょうが、コロナ禍の今は、日本ですら空気清浄剤をぶら下げる人もいる。ガルシア=マルケス、正気と狂気の間の描写が絶妙です。

リアルかクローンが識別できない世界

『族長の秋』には大統領の影武者が出てきます。柴崎さんは、影武者好き。子どもののころ好きだったのは、楳図かずおの『鬼姫』。これは、村の娘が姫の影武者となるが、そのうち影武者が姫のようにふるまう話。

もう一つ、柴崎さんが好きだったのは、ルパン三世の『ルパンVS複製人間』という作品。リアルかクローンが識別できない世界が好きだったといいます。この混沌とした世界観は『族長の秋』にも通じるものがあるといいます。


柴崎さんの作品も相当怖い!

ぞくっとする『族長の秋』ですが、怖さでいったら、柴崎さんの『かわうそ堀怪談見習い』も相当の怖さと豊崎さんは太鼓判を押します。怖い本が好きな方はぜひ。

もう一作、柴崎さんの作品。『百年と一日』はみんなのつぶやき文学賞第一位となりました。

柴崎さんの作品もぜひお読みください。

お二人の対談はアーカイブ視聴が可能です。


【記事を書いた人】くるくる

【「ALL REVIEWS 友の会」とは】
書評アーカイブサイトALL REVIEWSのファンクラブ。「進みながら強くなる」を合言葉に、右肩下がりの出版業界を「書評を切り口にしてどう盛り上げていけるか」を考えて行動したり(しなかったり)する、ゆるい集まりです。
入会すると、日本を代表する書評家、鹿島茂さんと豊崎由美さんのお二人がパーソナリティーをつとめる、書評YouTube番組を視聴できます。
友の会会員同士の交流は、FacebookグループやSlackで、また、Twitter/noteで、会員有志が読書好きにうれしい情報を日々発信しています。
友の会会員の立案企画として「書評家と行く書店ツアー」、フランスのコミック<バンド・デシネ>をテーマとしたレアなトークイベントや、関西エリアでの出張イベント等が、続々と実現しています。2020年以降はオンライン配信イベントにより力をいれています。
さらに、Twitter文学賞の志を継承した「みんなのつぶやき文学賞」では、友の会会員有志が運営にボランティアとして協力。若手書評家と一緒に賞を作り上げていく過程を楽しみました。
2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
ALL REVIEWS友のTwitter:https://twitter.com/a_r_tomonokai



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?