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「実機の整備と変わらぬ緊張感」フライトシミュレーター運用の裏側

航空機のパイロットが訓練で使用する「フルフライトシミュレーター」。ANAでは総合トレーニングセンター「ANA Blue Base(ABB)」で運用を行なっていますが安全・安心のために欠かせない装置のため、その維持には多くの人が携わっています。担当するABBの舩越直人さんに話を聞きました。

フルフライトシミュレーターは航空機のコックピットをそのまま再現した模擬飛行装置で、コンピューターによる制御で高画質の映像や振動などの動きを実機さながらに再現します。

シミュレーター内の映像イメージ

ANAは運航する全7機種のフルフライトシミュレーターを所有していて、一部認定取得中の機種もありますが、航空当局から最も再現度の高い「レベルD」と認定されるように運用しています。この認定を受けるとシミュレーターの訓練でも実機で行ったのと同じ訓練だとみなされますが、レベルDの認定を取得するには空港モデルや実機データをシミュレーターに忠実に再現するなど厳しいルールが求められます。

ANA Blue Base 訓練推進部 訓練機器管理チーム 舩越直人さん

「レベルDと認定されることでシミュレーターが実機とみなされて、多くの訓練を実施することが可能となります。これにより実機を使用することで生じるコストを大幅に下げることができます。さらに厳しい天候や機体のトラブルなど実機では再現できないシチュエーションを再現することができるので、どんな状況でも冷静に対応できるようになります」

一方、シミュレーターはとても高価なものとなります。さらに機体の動きを再現するために油圧などを使っているためメンテナンスが欠かせません。
ABBにはシミュレーターの整備や調整にあたる専門のスタッフが常駐しています。

ANA Blue Base訓練推進部の担当者、ANAベースメンテナンステクニクスのスタッフと舩越さん(左から3番目)

舩越直人さん
「弊社所有のシミュレーターは海外メーカーが生産しています。実際の航空機は会社ごとに仕様が違うのでシミュレーターもANAの仕様に合わせて作ってもらうことが必要になります。このため我々はパイロットや整備するスタッフと一緒に海外の現地に行って細かい交渉や調整を行います。運用がはじまった後に不具合が出ると訓練に支障が出るので契約や事前の交渉をしっかりすることが必要になります。運用が始まった後も、日々変わる空港の滑走路や誘導路などの情報などをソフトウェアに更新する作業も必要になります。パイロットと綿密にコミュニケーションを取りながらどの機能を優先的に更新するのか決めています」

パイロットの資格を維持し、運航計画を守るために訓練計画は綿密に組まれています。不具合などが出て訓練が行えなくなると、パイロットの訓練計画に大きな影響が出かねません。事業を安定的に行うことに加え、安全・安心を確保するためにも気が抜けない仕事だと言います。

舩越直人さん
「もし計画通りに訓練が行えないと、パイロットが操縦できなくなり航空機が運休してしまうかもしれません。実機の整備と同じくらい日々緊張感を持って運用しています。不具合が出る予兆はないか、故障しても予備の部品はあるかなど、多くのスタッフと協力しながら準備しています。シミュレーターは動かすのが当たり前ですが、その当たり前が常に続くよう使命感を感じて仕事を行なっています」