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父親

あなたも人間だったんですね。
初めてそう感じたのは、熱湯があなたに降りかかった時でした。
熱いという触覚があったんだと驚きました。
傲慢で暴力的なあなたに恐怖心があったのでそう思えたのでしょう。
機嫌が悪くなると、あなたは母や兄に当たってましたね。
小さかった僕は恐くて何もできなかった。
一歩外に出ると全くそう感じさせない優しさがありました。
八方美人、とも言える人当たりの良さ。
他人には優しく、頼り甲斐のある人。
そう思われていたでしょう。
あなたがいない時の家は平和でした。
あなたも気づいていたでしょう。
僕ら兄弟が大きくなるにつれて背中が小さく見えてきました。
あなたは姉や兄ではなく、あまり外に出ない僕をいろんな所へ連れて行ってくれましたね。
心配だったですか?一番下の僕の将来が。
あなたは、お酒をあまり飲めませんでした。
それは幸いだったのか、そうでなかったか、いまだにわかりません。
ストレス発散できる場所が少なかったように思えます。
釣りや無線を趣味として楽しんでましたが、だんだんできなくなっていきましたね。
昔ほど裕福じゃなくなり、体力も減ってあまり行動しなくなった。
怪我をしてからは、さらに痩せていき、弱っていくあなたに何もできず、ただ見ていることしかできなかった。
持病もあり、入退院を繰り返す。
あなたは、病院が嫌でたびたび強制的に家へ帰ってもきましたね。
母は、大変だったと思います。
家でも酸素吸入器が必要になり、手すりがないと自力で立てなくなった。
あなたの楽しみは姉が連れてくる孫たちだったでしょう。
姉も心配で会えない時はビデオ通話をしてくれてましたね。
正月には代わる代わるみんな来てくれましたね。
正月が過ぎた頃、病院嫌いのあなたが自ら病院へ連れっててくれと母に連絡したそうですね。
母の焦った声で緊急なのがすぐ理解できました。
病床のあなたは、僕たちが来たことを覚えてましたか?
頷くだけのあなたに、意外と愕然とはしませんでした。
あなたは、3日後息を引き取りました。
多くの親戚に囲まれて。
機器が大きく鳴って泣き崩れる母と姉。
兄は間に合わなかった。
僕は静かに泣いた。

母は文句を言いながらも本当は今でも寂しいんだと思います。
あなたはロボットなんかではなく、僕たちの大切な父親でした。

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