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7年前

4000g近くある赤ちゃんを産んで、すくすく成長してくれたから、1歳半検診も特に心配はしていなかった。

それなのに、保健師の児島さんが真顔で「発達相談を受けることをおすすめします。」と言った。今思うと、児島さんにとってあの表情は、笑みも哀れみもない、精一杯の無表情だったのかもしれない。
その無表情が、私はとても怖く感じた。続いた説明は「視線が合わないことが気になるから。」という簡潔なもので、それ以上のことは一切言われなかった。
指差しをしない、模倣もしない、ママともマンマとも言わない子だった。
確かに私はママってより、この子の奴隷のようだった。他のママと比較して、育児能力が低いから、赤ちゃんを連れてファミレスでさえ友達とランチも出来ないんだなと感じることもあった。
でも、それは全て、私側の問題で、この子の問題ではなかった。1歳半検診で児島さんに指摘されるその日までは・・・。


けいすけくんは6歳。来年小学1年生にあがる。今日は児童発達支援の利用申請で、初めての発達相談を終えた足で、福祉課に来てくれた。
けいすけくんのママは、私の2つ年下らしい。乳幼児サポート調査をしながら、日々の生活での工夫を伝えると、ママの目が頬が赤くなり、それを押さえるかのように口数が多くなり、赤みが引いていくのを繰り返す。

昔、同じ窓口で、調査を受けたとき、私はどんなママだったろう。
うんちを食べたりしますか?という質問に「まさか、そんなことはしないです。」と答えた記憶はある。あの時は、何も知らなかった。

けいすけくんのママから聞き取ったこと、面談中のけいすけくんの様子をまとめながら調査票を作成する。調査項目で迷ったところを先輩に助言してもらっていると、放課後等デイサービスから着信。
なにか問題がありましたか?と尋ねると、「問題がありました。端的に言うと、晴海ちゃん昼過ぎ頃から急に頭がいたいと言い始めて、その頃から熱が37.4℃あります。」とのこと。
発熱を心配すると同時に、ただの体調不良であったことに胸を撫で下ろす。

お昼にカレー2杯を平らげた34kgの熱い身体を抱える。ふらついてしまう程、大きく、重くなったなぁと、久し振りの抱っこで実感する。

児島さんに発達の遅れを指摘された日の夜、この子がモンスターのように描かれた夢を見た。会話も出来ず、意思の疎通も図れないモンスター。そんな夢を見るなんて、ひどい親だと自分を恥じて、誰にも言えなかった。

でも、ここまで大きくなった。
熱い身体を抱きながら、一歩一歩確実に、階段を降りる。代わろうかと指導員が言ってくれたけど、大丈夫だと思えた。
私はもう、奴隷ではなく、ちゃんと晴海のお母さんになったのだから。

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