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『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン1話「あばたろう」評価:★★+

 筆者が大人になってからスーパー戦隊シリーズに再びハマり出したのは、2012年8月22日に放送された『マツコ&有吉の怒り新党』で『新・3大「鳥人戦隊ジェットマン」のトレンディーすぎる愛憎劇』が紹介されたのを見て、興味を持ったことが切っ掛けである。
 動画配信が盛んな昨今とは違い、当時は『ジェットマン』を視聴するのが難しく、新宿や渋谷などの基幹店のTSUTAYAにしか置いていないレンタルDVDを探して視聴したものである。『ジェットマン』は人気作品だったのでレンタル中であることが多く、なかなか視聴出来なかったのだ。

 同時期にやっていたのは『特命戦隊ゴーバスターズ』で、初めて視聴した話はmission36「ゴーバスターライオー ガギーン!」だった。
 これは、はっきり言って奇跡的な出来事だった。
 この話が凄く面白かったので、筆者はスーパー戦隊シリーズを見るようになったのだが、DVDで後追いして、『ゴーバスターズ』を第1話から今までの話を全て視聴すると、番組としてあまり評価出来なくなってしまう。
 mission36「ゴーバスターライオー ガギーン!」だけが面白かった。他の話は正直あまり面白いと思えなかった。
 つまり、1話でも初めて視聴する話が前後していたら、スーパー戦隊シリーズを改めて見直していくような心境にならなかったので、奇跡的に面白い話が巡ってきたタイミングで視聴出来たのである。
 この出来事が無かったら、筆者はスーパー戦隊シリーズを真面目に見ていないし、ほとんどの作品に触れることは無かっただろう。

 そんな思い出も早10年前、元号は令和に変わり、2020年代にも突入すると、スーパー戦隊シリーズも変化を遂げた。
 2022年3月6日、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の第1話が放送された。

評価は、基本的に以下の10段階です。
・★★★★★…最高。大傑作。愛する。面白い超えて芸術の域(5点)。
・★★★★…大満足。傑作。大好き。凄く面白い(4点)
・★★★+…満足。名作。好き。かなり面白い(3.5点)
・★★★…平均より上。秀作。好感。中々面白い(3点)
・★★+…及第点。佳作。どちらかと云えば好き。まぁ面白い(2.5点)
・★★…普通。凡作。特に可もなく不可もなく(2点)
・★+微妙。凡作未満。カス。どちらかと云えば嫌い。つまらない(1.5点)
・★…難あり。駄作。カス以下。嫌悪感。かなりつまらない(1点)
・+…最低。大駄作。クズ。嫌い。マジでつまらない(0点)
・×…最悪。超駄作。ゴミ。大嫌い。つまらない以前の問題(-1点)

<放送データ及び評価>

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』
ドン1話「あばたろう」
放送日:2022年3月6日
脚本:井上敏樹
監督:田﨑竜太
アクション監督:福沢博文
特撮監督:佛田 洋(特撮研究所)
評価:★★+(2.5点)

 筆者が気になる存在は、脚本家の井上敏樹先生である。
 井上先生と言えば、筆者が学生時代、『仮面ライダーアギト』『555』などを手掛けて、『平成ライダー』ブランドを確立した大功労者である。
 幼い頃に『超光戦士シャンゼリオン』をリアルタイムで視聴していたが、これも井上先生がメインライターを担当していた。
 何よりスーパー戦隊シリーズに興味を持った切っ掛けであった『鳥人戦隊ジェットマン』でメインライターを担当している。
『鳥人戦隊ジェットマン』は筆者が幼い頃、最終回の結婚式のシーンだけはリアルタイムで視聴した記憶が残っている。
 井上敏樹先生は、筆者が幼少の頃から学生だった青春時代、さらに筆者が30過ぎたオッサンになった現在でも、現役で脚本を書き続けているまさにレジェンドであり、筆者の生きた時代を代表する脚本家と言える。
 そんな井上先生の脚本の特撮番組を視て育った筆者は、疑いようの無い『井上敏樹チルドレン』である。

『桃太郎』で重要な子宝に恵まれなかった老夫婦

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は21年前、桃井陣(和田聰宏)が、どこからか川辺に漂着した桃型カプセルの中に赤ん坊が居るのを見つけ、彼を保護したところから始まる。
 一般の視聴者は気にならないシーンだろうが、筆者のように井上敏樹先生のような脚本家に憧れて、作家や脚本家志望になってしまうと、当然プロになるためにこのような日本昔話も一般の方より研究している。
 そうなると、個人的にかなり違和感を覚えるシーンになってしまった。
『桃太郎』で大事なのは、おじいさんとおばあさんが赤ちゃんを拾うことにある。
 これは竹を割ってかぐや姫が出てくる『竹取物語』も同じである。
 何故、おじいさんとおばあさんでなければいけないのか?
 答えは簡単で、「おじいさんとおばあさんでは子供が作れないから」だ。
 子宝に恵まれず、年老いてしまった老夫婦の下に桃太郎やかぐや姫が現れるからこそ物語にカタルシスがあるのであって、現在44歳の和田聰宏氏が赤ちゃんを得たとしても、44歳男性は結婚して子供を創れる年齢なので、赤ちゃんを得たところでカタルシスは生まれにくい。
 むしろ、44歳女性で年齢的に出産が厳しくなった中年女性が赤ちゃんを得られる話にした方が、あばたろうに出会うシーンをより劇的に演出出来たに違いない。その意味で和田聰宏氏の起用はミスキャストと云うより、ミスキャラクターに感じられる。女性にすべきキャラを男性にしたり、男性にした方が有効なのに女性に設定したりと云った違いは、視聴者に違和感を覚えさせ、製作陣への信頼が揺らぎ、退屈させて視聴離れを引き起こす。企画の段階で問題があったと批判されがちなのがキャラクター設定の難しさだ。
 東映さんが日本昔話のエッセンスを完璧に理解しているとは言い難いのは昔からで、例えば2006年に放送された『轟轟戦隊ボウケンジャー』のTask36『鬼の金棒』では、ボウケンレッドとボウケンシルバーが疑似夫婦となり、川から流れてきた桃太郎をお世話すると云う話があったが、男同士にしてしまった弊害で話の焦点が分かりにくくなった。男同士でも別に構わないが、ならば男性のどちらかが「女性になって子供を産んでみたかった」の台詞が無いと、子供を得られない夫婦と云う「桃太郎」の要点を完全に外してしまっていることになる。また、脚本を担当した小林靖子先生の作風がやおいやBLと批判される原因になってしまっているのも痛い。

 しかし、この程度のことが分からないほど、テレビ朝日や東映の社員達が無能とも筆者にはどうしても思えない。
 例えば『ドンブラザーズ』でもプロデューサーを務める白倉伸一郎氏は、『仮面ライダー電王』で桃太郎を主人公のモチーフに使用している。電王に変身させるモモタロスは、桃太郎と云うよりは桃太郎に退治される鬼の方に近いような気もしなくもないが、ともあれスーパー戦隊としては史上初でも「東映特撮」として括れば、桃太郎をモチーフに使用したのは今回が初めてではない。
 スポンサーの要望やスケジュール、製作費の都合などで、中年以上の女優さんをキャスティング出来なかったなどの製作上の問題が現場で起きていたのかもしれない。こればかりは現場のスタッフしか事情を知りようが無い。

不妊治療⇒代理母出産⇒ドンブラザーズ

『桃太郎』は最初、川から流れてきた桃を食べたおばあさんとおじいさんが若返ったことから、桃太郎が生まれたことになっていた。
 しかし明治に入って国定教科書に載せる際、若返った老夫婦が交わったと云う事実を子供に教えるのは不適切と考えられて、川から流れてきた巨大な桃を割ったら、桃太郎が出て来たと云う現在の話に変更された。

 この変更は当時の日本人が全く意図せず、医療の発達を予言してしまった要素である。

 子宝に恵まれず、不妊に悩んでいたのは古今東西同じだが、不妊の状況を是正したいと云った働きは医療の発達で先進的になっていく。
 食べ物や栄養状態の良し悪しを是正しようとしたが、やがてより本格的な「不妊治療」が行われるようになる。
 しかし、それでも子供を授かれないとなると、今度は自分ではなく、他の女性に自分の子供を産んでもらう「代理母出産」が可能になった。
 つまり、「不妊治療」のアイテムであった桃は、国定教科書による変更を経て、桃から子供が産まれる「代理母出産」に変わったのである。そして、現在はそれが普通に行われていると云うのも稀有な話である。

 子供を得ようとする人間の執念には驚かされるが、『ドンブラザーズ』の桃井陣(和田聰宏)も、まだミスキャラクターと確定したわけではない
 これから「桃太郎」の要素を回収しようと思えば、桃井陣は「本当は結婚して子供を授かりたかったが、昨今の不況から不安定な収入の仕事しか得ることが出来ず、女性から相手にされないまま中年を過ぎて、(俺にも子供が出来たらなぁ……)と嘆いていたところに、桃井タロウ(樋口幸平)が現れた」などと明かされれば、桃井陣のキャラは桃太郎の要素を回収して立派に成立しており、和田聰宏氏がキャスティングされた意義も出てくる。

 今後『ドンブラザーズ』のクオリティに関わる要素があるとすれば、桃井陣が元々どういう動機の持ち主だったのか明かされる展開が有るか無いかが注目される。特に掘り下げられなければ、退屈な作品に終わるだけだ。
 まぁ、井上先生や白倉プロデューサーなら大丈夫だと思っている。

OP映像が第1話から出来ているのはOKだが…

 勿論、そんな『桃太郎』の要素にケチなツッコミを入れるのは筆者ぐらいであり、大多数の一般視聴者はそんな細かいことを気にしないだろう。
 また、批判しておいて矛盾するようだが、細か過ぎる筆者の指摘など気にしないで作り手の皆さんには頑張って欲しいと云った願いもある。
 ここでは具体的に話を追って行こう。

 まず、第1話からOP映像が出来上がっていたのが、単純に嬉しかった。

 例えば『侍戦隊シンケンジャー』や『仮面ライダーウィザード』などではOPテーマをバックにしながら戦闘シーンを行う出だしであった。近年だと『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』も、第1話は確かOP映像が出来上がっておらず、OPテーマを流しながら戦闘シーンを見せていたと記憶している。間違っていたら申し訳ない。
 勿論、演出として有効であればOP映像が出来上がっていなくても良いのだが、最初の方に戦闘シーンを持ってこられても意外と盛り上がらないのが実情である。何故なら、視聴者が作品のことを何も分かっていない冒頭から戦闘シーンを見せられても、感情移入出来るキャラクターが一人もおらず、何の感慨も無くぼうっと視聴するだけになってしまうからだ。
 また、筆者のような目も肥えていて、特撮分野をわりと調べている事情通のファンだったりすると、「バンダイからの圧力で戦闘シーンを増やせと言われたのかなぁ?」とか「スケジュール的にOP映像を第1話まで用意することが出来なかったのかな?」などと邪推してしまう。
 だとすると、OP映像無しに戦闘シーンから始めるストーリーや演出は、本来スポンサー企業であるバンダイさんのイメージを悪くしてしまいかねない愚策であり、これはテレビ局や広告代理店などが東映やスポンサーに説明責任が生じてしまう。確かに玩具販促は大事だが、企業イメージの悪化を招きかねない悪手に成り得ることはプロには分かって欲しい。

 よって、第1話からちゃんとOP映像が出来上がっていることを、筆者は高く評価しているのだが、音楽のレベルが高過ぎる気がした。
 歌詞が聴き取れないほどテンポが速く、メロディが耳に残らないのだ。
 これは『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』でも思ったのが、『主題歌、難し過ぎて聴き取れない問題』である。

 ニチアサ枠は平成ライダーで一流アーティストがOPを担当することが多くなり、楽曲のクオリティが格段に上がった。
 昔の番組タイトルが歌詞に入ったアニメソングや特撮ソングは、ゴールデンタイムに流れるJ-POPのアーティストと比べるとトンデモなくダサく感じたものだが、80年代後半以降、アニメのタイアップにアーティスト達が多く起用されたことにより、アニソンのレベルは格段に上がっていった。
 これは同時に、それまで子供の物とされて差別されてきたアニメや漫画が市民権を獲得していってメジャージャンルに上がった歴史と重なっている。
 しかし、楽曲のレベルが上がり過ぎた弊害は、初めて楽曲を聴く視聴者が歌詞を聴き取れない問題を多発させてしまったと考えている。
 2000年代以降、ヒット曲が減っていった原因は、音楽の好みの多様化だけでなく、「一聴さんお断り」とでも言える、過剰な音楽技術の高度化のせいもあるのではないかと思う。
 筆者には4歳の姪っ娘が居るが、3歳の時点で『鬼滅の刃』の『紅蓮華』を幼稚園で覚えて歌っていた。
『紅蓮華』と比較すると、大の大人でも楽曲のテンポが速過ぎて、『ドンブラザーズ』の主題歌は何を歌っているのか聴き取るのが難しい。
 大体日本のヒット曲と云うのは『恋するフォーチュンクッキー』にしても『猫』にしても『紅蓮華』にしても、素人にも歌詞が聴き取れるものだ。
 だから、『ドンブラザーズ』を視聴するような幼いお子さんがこのOPを覚えて歌えるのか? と云った素朴な疑問が浮かんでしまう。歌えなくても良いだろと反論する人達は、本来の視聴者層である子供達に対する配慮があまりに欠けていると言わざるを得ない。
『アンパンマン』のテーマほどテンポを遅くする必要は無いと思うが、もう少し小さなお子さんに配慮した楽曲を創って欲しいとも思う。
 勿論、家庭によって「うちの子供は好きですよ」などと云った意見も出てくるだろうが。

イエローの女の子を主人公にする展開が面白い

 さて、筆者が感心したのはイエローの女の子メンバーを中心に物語を展開させた点にある。
 すぐに井上敏樹先生が手掛けた『鳥人戦隊ジェットマン』の第1話を思い出したが、『ジェットマン』の場合あくまでレッドたる天童竜を中心にして第1話を進めていったため、漫画家志望のイエローの女子高生に重きを置いて話を創ると云うのは非常に珍しい試みで新鮮だった。
『ジェットマン』で云えば女性メンバーの鹿鳴館香や早坂アコを、第1話の中心に置いたと云うわけだから、画期的で面白かった。
 これはTwitterの知人同士も言っていたが、この構成は年間を通して守って欲しいと思った。1話や2話こっきりの展開だと少し残念だ。
 筆者が『ドンブラザーズ』で一番好きなところである。

 イエローは一人だけ、桃太郎軍団ではない鬼がモチーフとなっている。
 その意味でかなり挑戦的な設定であり、番組が終わった後、「振り返ればドンブラザーズは鬼頭はるかの成長物語だったよね」と視聴者全員に共通の認識が出来るような、魅力的なキャラクターに仕上げて頂きたい。

 レッドの子は意外にも登場が少なかったが、配達員と云う設定は桃が川を流れてくる設定と関連付けられていて、良い設定に思えた。
 一方、ピンクの男は今回出てこなかった方が良かったのではないかと思うほど出番が少なく、少し可哀想な気がした。
 また尺的に巨大戦は無いのかなぁと予想して視聴していたら、巨大戦までしっかりあったので、話にボリュームを感じることは出来た。

 総じて、僕は楽しめた。

謎で引っ張る展開は白倉伸一郎氏の作風だが……

 第1話では、色々な謎が出てくる展開であり、これは井上敏樹先生と云うよりは、プロデューサーの白倉伸一郎氏が得意とする作風である。
 筆者は『謎で引っ張る病』と呼んでいるが、白倉プロデューサーは『五星戦隊ダイレンジャー』や『仮面ライダーアギト・龍騎・555』にしても、作品内に多くの謎を創って、視聴者を引き付けようとする作風である。

『謎で引っ張る病』は公式用語では『クリフハンガー』と呼ばれる作劇で、これが上手く行った例は、最近だと日本テレビで放送された『あなたの番です』が該当する。
 マンション内で謎の殺人事件が次々と発生して、視聴者は「一体誰が犯人なのか」「誰が次に殺されるのか」と云った謎解きを当時楽しむ方が多く、筆者が丁度テレビドラマ批評を行っていた頃、Youtubeでは次の展開を予測する視聴者達が数多くの動画を上げていた。
『あなたの番です』は2クール分の長期放送だったことも功を奏して、視聴率も凄く高かった。
 実際、白倉氏がプロデュースした『仮面ライダーアギト』もリアルタイム視聴率は、前番組で記念すべき第一作として非常に評価の高い『クウガ』よりも高かったが、『アギト』でも多数の謎が提出されて、「次回はどうなるのか?」「どんな謎が解き明かされるのか?」と云った展開が視聴者の興味を惹き付けて、現在でも平成ライダーシリーズの最高視聴率を記録しているヒット番組となっている。

 しかし筆者が『クリフハンガー』と云う公式用語ではなく『謎で引っ張る病』と称して、わざわざ「病気」と揶揄しているのかと云うと、このように「謎」を提示して引っ張ろうとするテレビドラマは総じて視聴者の満足度が低い傾向があるからだ。要するに、つまらないことが多い。
 例えば上記の『あなたの番です』は視聴率はとても高かったが、視聴者はかなり辛口に評価している。別にその時の視聴率は良かったのだから構わないと感じられるだろうが、筆者は1話でつまらないと判断したので見なかったものの、『謎で引っ張る病』に引っ掛かってしまった視聴者達は真面目に番組を追い続けて、真剣に考察して、長い時間を無駄にしてしまったわけである。そして、番組に対する不満を蓄積させて、日本テレビは視聴者からの信用を失った。実際、日本テレビのドラマ枠は固定客を獲得するに至らず、その後は低視聴率番組を次々と出している始末だ。
 筆者も1年間テレビドラマ評論を行って、全放送局のテレビドラマを視聴したが、日本テレビのドラマ部門が一番信用できないと思っている

『仮面ライダーアギト』も放映当時の視聴率は高かったが、NHKで放送された『発表!全仮面ライダー大投票』では、同時期に放送されていた『クウガ』『龍騎』『555』などと比べると、かなり低い評価に終わっていることが分かっている。これは要するにリアルタイムの視聴者ではなく、DVDや動画配信などで視聴したファンからの支持が得られていないことを意味する。
『謎で引っ張る病』の問題点は「全体の謎解き」が主眼に置かれているため1話ごとの満足度が低い傾向があることである。
 また、筆者が『ウィザード』以降の仮面ライダーシリーズをあまり視聴しなくなったのも、『謎で引っ張る病』にいい加減疲れて、「番組の謎なんて別にどうでもいいよ」と嫌気が差したからでもある。
 白倉氏がプロデュースした『五星戦隊ダイレンジャー』も『超光戦士シャンゼリオン』も『仮面ライダーアギト』も最終回は賛否両論になりがちだ。
 ドラマや映画は時間表現である都合上、途中がどんなに面白くても最後にコケるとそれまでの印象が非常に悪くなる。
 筆者の場合、『ダイレンジャー』の悪ノリは嫌いではないが、『シャンゼリオン』はちゃんと物語を完結していないと思っているし、井上敏樹先生が手掛けた『アギト』も終盤のグダグダっぷりは目に余るものであった。
 井上敏樹先生が手掛けた『鳥人戦隊ジェットマン』はまさに不朽の名作と呼べる素晴らしい最終回を迎えたが、果たして『ドンブラザーズ』も上手く着地してくれるだろうか?

 視聴率を稼ぐために『謎で引っ張る病』を使うのは結構だが、視聴者達の満足度を無視すれば、番組自体の信用や信頼を失いかねない点には、細心の注意を払って欲しいと願うばかりだ。
「謎で引っ張れば視聴者は随いてきてくれる」と思っているのだとしたら、視聴者をバカにし過ぎである。

複雑な世界設定は武部直美氏の作風か?

 ドンブラザーズの第1話に話を戻すと、漫画家を志す女子高校生・鬼頭はるか(志田こはく)が謎のサングラスをかけると、異次元空間が見えるようになり、人間になりすまして世界に潜んでいた戦闘員“アノーニ”に見つかってしまうことで、物語が展開していく。

 初代『仮面ライダー』の第1話もショッカーの活動を興味本位で目撃してしまったばっかりに、本郷猛は改造人間にされてしまったのだが、Twitterの知人らと話し合っている時に、「平成ライダーっぽい」って感想を聴いた。白倉氏は平成ライダーをプロデュースしてきたのだから仕方ないと思う。

 しかし、謎のサングラスをかけて、異次元空間が見えるようになる展開に筆者は『特命戦隊ゴーバスターズ』を想起した。
『ゴーバスターズ』本編には、サングラスをかけたら異次元空間が見えるようになったと云った展開は無い。
 しかし、サングラスを重要なアイテムとして強調し、通常の世界とは別の亜空間からバグラスと云う敵が攻めてくると云った設定があった。
 これらは、同番組をプロデュースした武部直美氏の作風の影響を感じ取ることが出来る。
『ドンブラザーズ』でも名を連ねる武部直美氏がプロデュースする作品は、総じて異空間を扱うモノが多い。

 武部氏が初めてチーフプロデューサーを務めた『仮面ライダーキバ』では過去(1986年)と現在(2009年)を行ったり来たりする設定でありこの作品にも井上敏樹先生は関わっている。
 先述した『特命戦隊ゴーバスターズ』では亜空間を登場させ、『仮面ライダーオーズ/OOO』では、最終的に全ての伏線や謎の当事者を全てブラックホールに吸い込ませて消滅させた「小林ブラックホール」と呼ばれる展開を行わせている。
 そうなると、今回の異次元空間が見えるようになった展開を加味すると、武部氏はキャスティングだけでなく、世界設定の構築においてもかなり強い影響力を有していることは否めない。
 勿論、白倉氏が関わった『仮面ライダー龍騎』にはミラーワールドが出て来たし、『仮面ライダーディケイド』も『各ライダーの世界』を冒険すると云った展開が行われており、『ドンブラザーズ』の設定が果たしてどちらのプロデューサーのアイディアなのか判別し難い。
 Wikipediaの武部氏の解説では「特撮テレビドラマでは先輩プロデューサーである白倉伸一郎と組むことが多く、その場合主にキャスティングに回ることが多い」と書かれているが、キャスティングだけを担当しているわけではないと思われる。

『バックトゥザフューチャー2』では過去や未来に行ったり来たりするが、これを物語が複雑になって楽しめなくなったと批判する人は多い。
 その意味では、白倉氏や武部氏の作風は、一般視聴者にとっては難易度が高いような気がする。
 設定が複雑になる原因は、そのままでは設定がシンプル過ぎて視聴者から支持されるかどうか不安になるからであり、複雑に手を加えた方が作り手が安心出来るからである。実際、映画などではクオリティが低い場合そのまま提供すると作品の粗が丸分かりになってしまうため、監督はわざと複雑怪奇に編集して出来の悪さを誤魔化そうとする。洋画ならば『地獄の黙示録』、邦画なら『少林少女』『秘密 THE TOP SECRET』などがこれに該当する。
 誰の意志でこのような世界観になったのかは作品を見ただけでは判別しづらいが、映像のクオリティは十分なのだから、ドッシリ構えて欲しいと叱咤激励したい。

総評

 批判する人も結構見かけましたが、僕は楽しめました。
 スーパー戦隊シリーズも何十作品も見てきて、面白い作品も、つまらない作品もたくさん経験してきましたが、視聴には耐え得る作品だったかと僕は思います。
 評価は、★★+。
 ゴチャゴチャしていたけれど、このゴチャゴチャした世界観にイエローの女の子が巻き込まれていく形なので、技術的な高さは感じられました。

 キャスト、スタッフは、くれぐれもお身体に気を付けて、我々視聴者に面白い作品を提供してくれることを願うばかりです。

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