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舞台のハシゴを可能にするシステム

 パリ2区にジャズクラブが連なった細い通りがある。そこには何軒かのライブを割引きでハシゴできるシステムがあった。素晴らしいアイデアではないか。普通ならお客を取り合い、争い、憎しみ合いそうなものなのに、お互いに協力して双方の店を盛り上げようとしている。

 パリの9月、10月は催しが多く、開催日が重なることが多い。時間帯もほぼ同じだからどれかに行けばどれかに行けない。そういう時、どうして時間帯をずらして舞台を幾つかハシゴできるシステムを作らないのかと思う。

 ダンス公演の上演時間なんて一時間くらいだし、パリ市内は狭いからすぐに移動できる。19:30-20:30 >移動>21:00-22:00で、幾つか内容を選択できるようにし、会場から会場をへとスムーズに移動できるような案内も居れば尚良い。2つ観る場合は、少し割引すれば更に良心的。合間や待ち時間にお茶やアペロを一杯やれれば完璧だ。観客の方にしてみれば、とっておきの外出日にひとつしか観られないのも勿体無い。ハシゴが出来れば行きたい公演が重なったので行けなかった、ということがなくなる。

  パリの郊外でこういうのに観客として参加したことがある。郊外のフェスティバルはパリ市内よりも予算がおりやすいし立派なホールも建てられている。しかし市内より観客動員が難しい。商業的な舞台ではなくディスカバー的なもの、アーティスティックな作品で単独では見つけにくいものを観るために人々を郊外まで足を運ばせるには知恵が要る。作戦が要る。そういう理由から、ハシゴシステムを実施したのだと思う。 
 サングリアが振る舞われ、会場から皆で見慣れぬ町を(パリから来た観客にとって郊外は見慣れぬ町だ)地元のスタッフとお喋りしながらてくてく移動するのは愉快であり、充実した宵が過ごせたという印象が残る。

 劇場同士だけではなく、カフェやレストランともコラボできないものか、郊外や地方の催しに行くと、公演が終わった頃には周囲の店は全部閉まっていて歓談も出来ないということがある。催しの終わる時間帯だけ特別に開けていてもらってドリンク券を劇場で渡す、などいろいろ工夫の余地はある。

 同じ会場でのジョイントライブは音楽でもダンスでも多々行われる。一方、ハシゴのオーガナイズをやりにくい原因は、劇場同士、オーガナイザー同士のコミュニケーションが容易でないこと、収入のおちる懐が同じでないところや、経費の分配の煩雑さ。そういうのがブレーキを掛けているのだと思う。

 ハシゴシステムがオーガナイザーにとって好都合なところは、観客動員が少ないカンパニーと多いカンパニーを抱き合わせることによって両方に観客が入るところである。それは音楽のコンサートの前座システムにも言えることである。ところで、ダンスの公演では何故に前座システムがないのか?

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なぜダンスの公演には前座システムがないのか?

有科珠々

Photo : Juju Alishina セーヌ川に浮かんだ船の劇場。中には舞台、客席、楽屋、バーが作られている。(本文の中にある会場ではない)観客が船中のShowをハシゴ、テントのスタンドを回覧できる催し。


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