見出し画像

【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(113)完結

前話

 教会の鐘が鳴る。この国にはまだ、神殿があるけれど、そちらでの婚礼は済ませているのでメインの教会での婚礼の儀式のみだ。戴冠式は一週間前に終わった。すぐに婚礼と行きたいところだけど、子育て中というのもあって日を改めたのだった。
 私はあれからクルトと一緒に赤ちゃんの成長を見守り、教えられた胎教というものをしていた。そしてつい先日、「エヴァンジェリン・リーゼ・ヴァルツァー」、「ディートハルト・カール・ヴァルツァー」を産んだ。
 お姉様はそれより早く「エミリア・ソフィア・ライゼン」「イザベラ・マリア・ライゼン」をお産みになっっていた。エヴィーとディーと私たちは娘と息子の愛称を呼んで育てていた。今日はお母様とお父様に抱っこしていただいて式に参列している。私は、この婚礼でやっと正式なウェディングドレスを着られてほっとしていた。着られなかったら国家財産が無駄だわ。また、そういう、とクルトの思考が流れてきたけれど、それは無視。それにこの奇麗なウェディングドレスをどれだけ着たかったかとやっとうっとりと見つめながら式についていた。
 だけど、どこかで赤子のむずかる声がする。まさか……。ディーとエヴィー? 恐る恐る後ろをちらりと見るとそうだった。待ってー。今、いいところなのよ。おとなしく寝ていてー。願いもむなしく、泣き出す。そっちに行かないといけないの? と思っているとお母様が合図して前をお向きなさいと言ってきた。大丈夫かしら、と思っているとぴたり、と赤子の声は止まった。お母様があやすと一度で涙の天使も朗らかに笑うようになる。新米ママの力量ではそこまではいかない。さすがはお母様。考えているとクルトに肘をつつかれる。はっとして前を向く。今、どこ?
「誓いのキスだよ」
 クルトがにこやかにそう言って予告なしちゅーをしかけてくる。一瞬よけようとしてああ、これは式のなかでするキスだったと思いなおして瞼をつむる。柔らかい感触の後いつものクルトのキスを受ける。

「ここに、国王陛下、クルト・ディートハルト・ヴァルツァーと王妃殿下、エミーリエ・エヴァンジェリン・オットーを正式な夫婦と認めると宣言する」

 教皇クレメンス七世様の宣言でわっと声があがる。結婚式が終わった合図だった。私は振り向くと、花嫁のブーケをフリーデに向けて投げた。危ういところで地におちかけたブーケをヴィルヘルムがとってフリーデに渡す。フリーデの目に涙が浮かんでいた。それを、また、背の伸びたヴィルヘルムが拭う。もう、すっかりお似合いの二人ね。
「奥さん。俺たちは?」
 にっこりしながらクルトが聞いてくる。
「もちろん世界で一番幸せな夫婦よ」 
 そう言ってなじみとなった頬へのちゅーをする。クルトが輝かんばかりの笑顔となって愛情のこもったキスを返してくれる。くらくらしながら目をあけると愛おしい夫と子供たちが目の前にいた。お母様達が近寄ってくれていた。
「おめでとう。エミーリエ。これでちゃんとした私の娘ね。覚悟して。お人形さんごっこを親子でしますからね」
「え。エヴィーだけじゃないんですか?」
「何を言うの一番きれいな新妻の時を逃すなんてするわけないでしょう?」
 お母様が逃さないわよ、と目で言ってくる。恐ろしい。
「お姉様も新婚ですが」
「もちろん。カロリーネもいますよ。私たちのエミーリエですもの」
「あ。私には子育てが……」
「そんなもの、クルトが代わってくれますよ」
「母上! 新米パパはそこまでできません!」
「クルト! 大声出しちゃダメ」
 一気に、赤子の泣き声合唱がはじまる。お姉様の双子姫もシンクロしてる。
「ああ……。これどーやっておさめるの」
「大丈夫ですよ。エヴィー、ばぁばとパレード見ましょうねぇー」
 よいよい、とあやすとエヴィーがぱっと泣き止む。次々とお母様の手で泣き止む。すごい。すごい技の持ち主だわ。
「だてに三人育てていませんよ。さぁ、パレードにお行きなさい」
「はい」

 私とクルトは表に出て用意された黒い車に乗る。車の周りは警護されていたけれど、大勢の人が集まってくれていた。この結婚式には同盟を密かに組む国々の方も来ている。結婚式の名目で。東とはあの時から絶縁状態で危機感がつのっているから組む必要があった。その会合も計画されているけれどクルトはまずは、この素敵な成婚の儀式を味わって、と何度も言っていた。私が頭を悩ますことではないのだろう。新米ママはあかちゃんに翻弄される運命なのね。ボーっと考えながら乗っていると名前が飛んでくる。私とクルトは窓から手を振る。大勢の人が本当に来てくれていた。どこにこんな人数が? と思うほどに。

 二千四百年後に目覚めた最後の眠り姫はようやく幸せを手に入れたのだった。いえ、初めてクルトに出会った時からこの幸せは続いていたんだわ。これからもそれは続く。
「旦那様。姫は何人欲しいの?」
 少し艶っぽく言ってクルトを誘惑する。クルトは最初、ぽかん、としていたけれどすぐに笑顔になって予告なしのちゅーをくれた。車の中でラブシーンを最後までするわけにはいかないので、この続きはあの子たちが眠ってから。
 いつか、眠り姫が生まれた時のために本を書いておこうとふと、思った。未来の眠り姫へ、と。幸せが待っているわよ、と。きっとそれは真実になるわ。

 幸せな眠り姫へ。最後の眠り姫から愛をこめて。本の出だしを考え始めた私だった。

 最後の眠り姫 完


あとがき
完結いたしました。無事。しかし、訳ありが脱線しまくっている。同棲まで入ってきた。ちょいまちーと思いつつ頭が止まらない。最後の眠り姫の影響もあっていちゃいちゃしてるし。エミーリエのスピンオフストーリーは少々お時間をいただきます。しかし、乳幼児を出すと子育てコーナーの子供の発達といった項目とにらめっこになる。訳ありはもうぐっちゃんぐっちゃん。また、時間の経過とか考えて月齢決めないと。しかし、最後の眠り姫は国名とかいろいろ決めたなぁ。訳あり放置。名前だけが決まっている。通貨なんてほぼ放置。国名と諸外国はまた決めます。最後の眠り姫を読んでいただいた方々には感謝します。またどこかでエミーリエとクルトの幸せストーリをお届けするかもしれません。その時はよろしくお願いします。ここまで読んでくださってありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?