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【再掲載小説】ファンタジー恋愛小説:最後の眠り姫(22)

前話

 どこをどう走ったのか。いつしか何度かクルト達とピクニックに来た森に来ていた。胸元に持ち歩いている小刀がカン、と小さく鳴った。いざというときに使いなさいと言われて渡されたもの。
 母が眠りに着くときに持たされ、それを私がまた引き継いだ。この小刀はあの魔皇帝に切れた母が首元にあてて首に切り傷を与えたという曰く付きのものだ。
 首・・・。
 これで死ねるのかしら?
 手元の小刀をじっと見る。そこへ男の声がかかった。
「やめな。そんな綺麗なお嬢さんには似合わないぜ。一緒に来ないか?」
「って、どこへ?」
「ああ。やっぱりエミーリエ様だな。その言葉は。今の言葉で言ってくれ」
「あ・・・」
 自然と古代語が出ていたらしい。男も古代語ができるらしい。
「ごめんなさい。どこへ行くの?」
「保護者が来るまでの一時的な預かり所だ」
「クルトの元なんて帰らないわよ!」
「まぁ、いきり立たないで穏やかにお茶でも飲もう」
 悠然とした態度で男は言った。
「俺はアヒム。さぁ、我がねぐらへご案内しよう」
 男に手を捕まれてつかつか歩く。次第に森の樹がなくなり、一軒の家があった。私の眠っていた館とは違うけど、そんな雰囲気のある館だった。
 入ると、男がうじゃうじゃいた。
「親方! その女どこで?」
 男達がにやにやと見る。
「いい加減なこと吹き込むな。この姫はお館様の兄上の婚約者だ。手を出すな」
 ぞっとするような殺気を一瞬出してアヒムは言うと、奥の部屋に私を連れて行く。
「お館様って・・・もしかして・・・」
「アヒム!」
「ヴィー!」
 クルトに背負われてやって来たのはヴィルヘルムだった。クルトもいる。
「よく、女の子の足でここまで・・・」
 触れようとするクルトの手をさっと私は払いのける。
「さっさとイルザの所へ帰れば?」
「違うんだ。エミーリエ。イルザは別の王子の婚約者だ。だけど、妙に俺を気に入ってこちらにしょっちゅう来るんだ」
「で、抱きしめていた、と?」
「あれも誤解だ。イルザが抱きついてきて離そうとした途端に扉が開いたんだ」
「あれは女の目よ。イルザはあなたに恋をしてるの。熨斗つけてあげるわ!
 さぁ。アヒム。お茶でも出してくれるんでしょ?」
 クルトを無視してアヒムに向かい合った私はアヒムにくるりとまた回されてクルトと向かい合った。
「夫婦のケンカは犬も食わない。そのもめ事は二人で解決するんだな。お館様。冗談がきつすぎます。行方不明になった姫を確保しろ、とは」
 アヒムがヴィルヘルムに言う。
「ヴィーがお館様?」
「常に伏兵は持っておかねば、な」
 そこには紛れもなく魔皇帝として君臨していたおじい様がそこにいた。
「エミーリエ!」
「カロリーネお姉様・・・」
「もう、心配かけないで。イルザにはとっとと婚約者の王子に押しつけてきたわ。もう。宮殿の外にでるなんて。心臓が止まるかと思ったわ」
 ぎゅぅ、と抱きしめられる。ヴィルヘルムはクルトに言って同じ高さにまで抱っこされると肩に手を置いてくれる。
「エミーリエ。ごめん。そんなに傷つくなんて思いもしなかった。気をつけるよ。俺が大好きなのはエミーリエだけだ。あの館に幼い頃から出入りしてずっとあの姫と結婚するんだ、って夢見てた。その夢を壊す気は無いよ」
「クルト!」
 クルトに抱きつくと、私はわっと泣きだしたのだった。その見物客をヴィルヘルムが蹴散らしていた。ここではいい子じゃないらしい。それがおかしくて、泣きながら笑ってクルトが大いに困った。
「エミーリエ。泣くのか笑うのかどっちかにしてくれ」
「恋人を傷つけた罰よ」
 そう言って、私はもう離すまいとクルトを抱きしめた。


あとがき
ヴィルエヘルムの別の顔が出てきました。王位はクルトですがその後はヴィルエヘルムのやりたい放題なんですよ。どうせ年の差がありますから。魔皇帝の血筋をどうするかはまだ解決できていない事なのでその内考えることになるとおもいます。ヴィーの想い人はクルト達の子供ではないのでね。これからいろいろ出てきます。名前も苦労するわ。これも使ったあれも使ったと探し回りましたからね。今は簡単に丸投げできますが。それでも逆に雪の意味を入れた名前にしてくれとか条件をつけることが多くなりました。あとはあらすじを出すときに名前を入れて設定すると異世界転移にならずに済むのでそういう方法も使います。この間作った話は星の姫が二つできあがってしまったので、前に書きたかった方は没にしました。今の方がメリハリがあったので。そんないろいろ作っては消えていくあらすじの多いこと。名前が重なるで三回変えた名前もあります。しかしレオポルトはフランス語? ドイツ語? 決めてからまた迷っている名前でもあります。
「煌星の使命と運命」はストックが尽きたので過去掲載作「ユメと言う名の姫君の物語」に差し替わります。お楽しみに。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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