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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(87)

前話

「こちらです。エミーリエ姫。おっと、階段にお気をつけてください」
 段下で枢機卿が手を差し伸べる。触りたくもなかったけれど、クルトもいない今はやりきるしかなかった。そっと手を触れるか触れないように置く。
「可愛らしいお方だ」
 にや、と笑って私をみる。蛇のような絡みつく視線に悪寒がする。それが顔に出ないように笑顔を張り付けながら階段を下りる。
 庭園は見事だった。これは嘘じゃなかった。色とりどりの花が咲き乱れる。見たことのない花が多い。思わず、感嘆のため息がでる。
「お気に召しましたか? この庭をご自分の物にしたくはありませんか?」
「この庭を? どうやって」
「こうやってですよ!!」
 強く腕をつかまれたかと思うと茂みの中で押し倒されていた。
「もう。貞操はない。俺と交わっても証拠は残らない。好都合だ。ついでに子も産んでもらえるとありがたいよ。幻の血よ」
「いやっ。やめて!!」
 ものすごい力で押しつぶされそうになる。力いっぱい抵抗する。枢機卿の顔に爪を立ててひっかく。
 汚れた手が私のドレスを引き裂き、同じように傷を作られた。その時、クルトの声が聞こえた。
「クルト! 助けて!!」
 大声を張り上げる。ばさ、と音がしたかと思うと枢機卿が跳ね飛ばされ、次の瞬間私はクルトの腕の中にいた。
「怖かった。クルト」
 震えた声でクルトにしがみつく。
「ごめん。来るのが遅くて。教皇ごと企んでたようだね。枢機卿。このことが公になれば、どうなるでしょうね。一度釣るんだとしても、教皇はお立場上、お助けにはなりませんよ」
「くそっ。そんな大したこともない女のどこがいいんだ。どうせ、血筋だけ欲しいんだろ」
「残念でした。私は幼少のころからこの姫を愛していましたよ。姫も自ら愛を告白してくださった。あなたがたのようなよこしまな思惑にとらわれたことはありません! これで帝都から出ていかせていただきます」
 突然、カロリーネお姉様とヴィルヘルムの声が聞こえた。
「お姉様! ヴィー!!」
 声をあげるとみんなが来てクルトから私を保護する。クルトはそのまま枢機卿とにらみ合っている。そこにヴィルヘルムが参戦する。ものすごい殺気が立ち上る。
「よくも、姉上を!」
「ヴィー!! ダメ!!」
 魔の力で制裁を加えようとしたヴィルヘルムを止める。
「どうして!!」
「その力はここでつかうものじゃないわ。もう、大丈夫。このまま帝都を出ましょう。クルト、行きましょう」
 まだ対峙していた二人に声をかける。殺気が漂っていた。
「わかった。これに懲りて二度とうちの姫に手を出されぬよう心してください。ほら。さっさと御父上のもとへ帰ってはどうですか?」
「くそ!」
 枢機卿はよろけながら庭園を出て行った。
「まぁ。胸元のドレスが……」
 フリーデが爪を立てられた傷に消毒して手当てをする。少ししみたけれど、一番の心配事から抜けられてほっとした私の目から涙がこぼれてきた。
「エミーリエ。怖かったね。泣いていい。みんなにすがって泣け。我慢しなくていい」
「クルトー!!」
 私はクルトの胸にすがって泣く。東の思惑は見事断ち切られた。これでもう東におびえる必要はなくなった。こちらがゆすれる種をもらったのだから。火種を。火消しにやっきになるだろう。火種を燃やせば。私たちはそのまま帝都をでて、さらに東へと向かったのだった。


あとがき
ラスボスと当時思っていて簡単に片付いたなぁとか思ってたら、ほんとのラスボスがいた! これもあっけなく説得できるのだろうかと思いつつ、まだ先の事なので行き当たりばったりいきます。目下、97話で止まってます。お願いだから100超えないでと思ったのに超しちゃう。訳ありついでの長さ。まぁ、1200字程度を続けているからだけど。まえは2000字20話という青写真があった。今回なし。どこまでも書けるだけ書くになってる。起承転結どころか伏線回収も神がかった回収ぶり。ここでそうなるのか、と思いつつ進むのでした。明日更新しても誰も読まないよね。今、序盤から読んでる方がいるのでそれで報われるけれど。リアルで読んでる人はいない。長いって罪ね。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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