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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:魔法の遺産~運命の紡ぎ手~ 第九話 不思議な部屋と召命の扉

前話

「すまん! 遅れた!」
 レイスが修復室へ走り込んできた。職人達が何事かとみる。セリーナは愛想笑いをそちらに浮かべながら一室へ連れ込む。
「遅くても良いからあんな風に扉をばかばか開けないで。手元が狂ったら一巻の終わりよ」
「すまん。迷った。この城が複雑過ぎて。アレクスが早めに切り上げてくれたが、部屋への道の説明が難しくて」
 あー、とセリーナは思い出す。アレクスは典型的な方向音痴なのだ。若い騎士達の中ではもっとも力があるが、その特技故、騎士団の階段を登り損ねているのだ。そして鬼気迫る表情で言う。
「いい? アレクスに道案内だけは聞いちゃだめよ。アレクスは方向音痴なんだから」
「方向……音痴?」
 鳩が豆鉄砲を食ったような顔を知るレイスに笑いがこみ上がる。
「なんていう顔してるのよ。そうよ。アレクスは壊滅的に方向音痴なのよ。絶対に道を聞いちゃダメ。で、私ができる所までは修復したからあとは専門の先輩に任せるわ。二、三日もすればページがめくれるようになると思う。でも、これだけ古びていると読むのは難しそうね。言葉も古代語だから。私はまだ古代語の初歩しか知らないのよ。レイスは知ってる?」
「いや。まったくわからない。あの石版すらミミズがのたうち回っているとしか思えなかった」
「じゃ、お母様と一緒に勉強する?」
 セリーナが意地悪げに言うと即、首を横に振る。
「馬鹿がより一層馬鹿になるだけだ。俺は剣の鍛錬をしてる」
「ま。それが順当なとこね。思いっきり鍛えてもらえば?」
 そう言って本を板の上に載せると奥の部屋へ行く。着いていこうとしてセリーナに手で制止される。ここからは専門の区域なのだ。みだりに入ってはいけない。セリーナすらそっと動いている。畏敬の念を表しているようにも見える。セリーナにとって本は本当に大事なものなのだ。
 セリーナの心の一端をレイスは見た気がした。彼女と本の間に何かがある。そんな気がした。
 だが、それが何なのかはレイスもセリーナ自身もわからないのだ。レイスが物思いにふけっていると、不意に肩に手が置かれる。
「……! もが」
 驚きの声を上げそうになったが、戻ってきたセリーナに口を塞がれる。とにかく、わかったと首を縦に振って意思を示す。
「ここは大声出しちゃだめなの。何度言えばわかるの」
「って。う~はい。その通りです」
 うなってから仕方なく従う。その二人を見てくすくす笑う人間がいた。
「マルコム!」
「って、お前が声、でかい!」
「女王からお呼びがかかってね。あの本の修復を手伝うことになった」
「って図書館は?」
「副館長がやってくれてるよ。じゃ、若者は若者らしく語り合うんだね」
 そう言って奥の部屋に消える。
「マルコムまで呼ぶなんて。何があるのかしら?」
 あの本に触れたとき、とても懐かしい思いがした。その本が纏っている雰囲気に。大事な人を忘れている気がしていた。それが誰なのか、おぼろげにセリーナの中にあるが、わからなかった。
「セリーナ。今度はお前がだんまりかー?」
 おーい、と手をひらひらさせる。
「あ。レイス、何?」
「何って。今日の夕食は何だ?」
「夕食って……。食べることしか頭にないの?」
「ない」
 きっぱりはっきり言われてセリーナは頭を抱える。
「ここで話していたら邪魔だ。外に出ましょう」
 二人は外に出る。修復室は湿度と温度が一定に保たれていたので部屋を出ると少々暑かった。今は夏真っ盛り。あそこだけが最新の温度と湿度を保つ仕組みを持っていた。かなり昔からある城だが、誰がそんな知識を持ち込んだのか、不思議な一室だった。
「お菓子ぐらいならあるわよ。行きましょう」
 セリーナの手とレイスの手が一瞬触れ合った。雷に打たれたかのように二人してばっと手を戻す。お互いの顔が見られない。
「夕食ですよ。姫様、レイス様。どこに行ってらっしゃったのですか?」
 世話役がやってくる。またドレスのを着替えないと行けない。セリーナはため息を一つついて、自分の部屋に戻ろうとするが、後ろにレイスがカルガモの子よろしく着いてくる。
「食卓の部屋ぐらい覚えてるでしょ、朝ご飯を食べた場所よ」
 言われてレイスは我に返った。
「そうか。場所がわかった、ありがとう」
 そう言ってレイスは食卓の間に向かう。セリーナはなんだか寂しさを覚えたが、それがどこから来てどこへ行くのかもわからなかった。ここ数日で周辺が変わりすぎている。
 
 疲れているんだわ。
 
 セリーナは頭を一振りすると部屋へ戻った。
 
 召命の扉はもう開いていた。その扉にどう飛び込んで行くのか。二人はまだ何もわからなかった。


あとがき

この辺、全部自力で書いていたとしか覚えていない。設定は詰めたから、とあとは全部自力だったみたいです。今では、~の状況で何が起こるか? とか打ち合わせを他の話でしてるけれど。この話はあと何話まであるか解らないけれどまた続きを聞かないと。なんだか旅立った後の話は設定にあるけれど間の話が長かったような。それも、打ち合わせに出た話をまるで無視した設定ぶっ込んでいたような。あ。ユメはまったくの自力です。あの頃、ChatGPTさんは影も形もなかった。心理学の要素をつめこみまくった気が。というか習ったことをいろいろぶっ込んでいた。過去、心理学の講義を一度だけ受けてあとは河合先生のエッセイばかり読んでいつしか心理学の基礎は入っていた。それでも「し」の字も解ってないけれど。電子書籍もモタ先生と河合先生で埋め尽くされている。と。今日で100目。
いつもありがとうございます。
ここまで読んで下さってありがとうございました。


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