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【再掲載小説】ファンタジー恋愛小説:最後の眠り姫 (8)

前話

 夕食は豪華だった。眠る前でもこんなに大量の食事は無かった。それをカロリーネお姉様が次々と平らげていく。
「お姉様、お腹壊しますよ?」
 心配して言うといや~ん、と返事が返ってきた。
「もう。エミーリエったら姉の心配もしてくれるのね」
 抱きつきそうな勢いをクルトが止める。ヴィルヘルムはフリーデと仲睦まじく食べている。お姉さんと弟という所かしら。でも時々、とてもいい雰囲気になるのを見てまさか、と思う。やはりおじい様とおばあ様じゃないかと。じっと見ているとヴィルヘルムが微笑んで小さく肯く。
 やっぱり! この恋は実るわ。嬉しくてにこにこする。そんな私をクルトが不思議そうに見る。
「フリーデ達がどうかしたのかい?」
「いいえ」
 即、否定する。ここで芽を摘むわけにはいかない。知らない振りをしないと。
「姉と弟って感じで微笑ましく思ったのよ」
「それはそうだな。フリーデはヴィルヘルムと仲がいいから」
「そう。そのカモの香草焼き取ってくれる?」
「いいよ」
 クルトはなんなく取り分けると皿を目の前に持ってくる。
「豆のスープの次に目がないのよ」
「かといって今度も泣かないで」
「わかってるわ。豆のスープは母の味なのよ。母はおばあさまの味だったと言っていたけれど。おばあさまにもおじい様にも会えないまま西に来たらしいから、私は会ったことがないけれど」
「一度も?」
「ええ。その時は母のお腹の中だったの。だから、見も知らぬ孫の眠りから覚める時を予知するだなんておじい様はよほど先が見えていたのね。それは大変な事だったと思うわ。知り合いだって裏切るし、人も殺さなくてはならなかった。祖父はともて孤独な人だったのよ。それを叔母達やその孫が癒やしていた、と母は話していた。私も会いたかったわ。おじい様とおばあ様に」
 少し目が潤んだその私の手に小さな手が重なった。
「ヴィーがいるから」
 幼い義理の弟の中に祖父の面影がみえる。会ったこともないのに祖父だと打ち明けられているから見えるのかもしれない。だけど、その幼い表情の奥に苦しみを見た。
「お・・・ヴィー」
 ヴィルヘルムは口元に指をそっと立てる。私は軽く肯いた。
「ちょっと。夫は俺なんだけど」
「そうね。この国の王子で適齢期なのはあなただけなの?」
「ヴィルヘルムと、カロリーネ姉上は正妃の子だけど他に側室の王子はいるよ。でもまだ、適齢期じゃない。一番、年齢が近いのは俺だけ。カロリーネ姉上が強奪しそうだけど」
「ちょっと。私にその気はないわ。可愛い妹が欲しかっただけよ。エミーリエ、またドレスの試着に手伝ってね」
「は・・・はい」
 この王室の地獄はエンドレスだわ。思わず、壁画の描かれた天井を見上げていた。


あとがき
一応保険で予約配信しておきます。風響と星彩は様子見ての投稿です。星彩の方が話が煮詰まっているので書きやすいのですが、風響をすすめているため、まだ両方一度にとはいきません。毎日片方を続けています。

仕事との兼ね合いや持病との兼ね合いも在り、最近、富にパワフルに動けなくなっています。
ので、のんびり掲載をお許しください。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

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