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【再掲載小説】ファンタジー恋愛小説:最後の眠り姫(16)

前話

 私が来た異国はもう秋を過ぎ冬の最中だった。そんな雪がちらつく中、私はクルトの宮殿と繋いでいる回廊を走っていた。もう、ヴィルヘルムやカロリーネお姉様も出入りしているから専用通路ではないけれど、その回廊からクルトの宮殿に飛び込んだ。
「クルト!」
 クルトの執務室の扉をノックもせず、勢いよく開けた。
「クルト! やっと出来たわ!」
 浮かれている私にクルトは不思議そうにする。
「何が出来たんだ?」
「だから、出来ているのよ! 言葉が!」
「言葉? どういうこと?」
「だから、あなたの国の言葉を覚えたのよ! まだ、読書は辞書を引かないといけないけれど。今話しているのはこの時代のこの国の言葉なのよ!」
 大声で主張してもクルトはぴん、ときていない。
「古代語じゃないってこと?」
「そうよ。今、同じ言葉を話しているの! やったわ。やっと地獄の語学勉強を卒業よ!」
 嬉しさがはち切れんばかりの私と比べてクルトはあまり嬉しそうではない。
「嬉しくないの? 同じ時代の、同じ国の人間になったのに」
「そうして、俺を置いて宮殿を出て行くの?」
「クルト?」
「君は言った。出来る事ならこの宮殿を出たいと。その辺で一人で生きていきたいとうるさく言っていたじゃないか。俺を置いていくの?」
 私はぽかん、とした。そんな言葉いつ言ったのかしら。
「最初に来て言葉が通じないから出て行けないよ、って俺が言ったんだ。そうしたら君は辛そうだった」
「そりゃ、見も知らぬ相手に嫁げと言われて納得できる女性がいると思う? 自分の好みの相手と結婚したいわよ」
「じゃ、俺は好みじゃないわけだ」
「何、すねてるの? 私が嬉しいのはクルトともっと言葉でこの国の事を知ることが出来るからよ。私は、クルトを好みじゃないって言ってないわ。始めは何もかもが進みすぎて怖かったのよ。でも、私はクルトの亊好きよ。この気持ちがなんなのかはまだ見えていないけれど。聞いてるの? 私はクルトが好きなのよ。ちょっとは嬉しいとかないの?」
「あ。いや、捨てられるんだ、って思ってて・・・」
「捨てて欲しいの?」
「あ。いや、そうじゃなくて・・・もう! ちゅー」
 そう言って迫ってくる。この国の言葉でも「ちゅー」はおかしい。笑いがこみ上げる。
「もう。真剣なときに笑わせないでよ!」
「いいんだ。エミーリエが笑ってくれれば。ほら。こちょこちょ」
 何時ものちょっかいが始まると私は笑い転げる。それを満足そうに見るクルト。その眼差しにどきり、とする。クルトと本当に結婚するのかしら? でも、ここを出て行っても行く当てもないし、クルトは優しくて面白い。少しは、考えてみようかしら・・・。ちらり、とそんな考えがよぎったのだった。


あとがき
この重要なシーンがここで来ているのにまだ続いてるって……。何があるの?という己の指に文句を言いたい。恋と愛は違う、ってやつね。愛にかわるのはいつ? とんでもなく長そうな気がする。あと更新は星彩ね。とっと終わらせてゆっくりしよう。どうも調子が狂う。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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