正直な高い評価




これは、2011年8月19日のニューヨーク・タイムズ紙に載った記事を読んで、むかし、書いたものである。

Ferreting Out Fake Reviews Online - The New York Times (nytimes.com)

英国は、風光明媚なコーンウォール地方にある、海沿いの某高級ホテル。宿泊者から、どのように評価されているのか「旅の助言者」を覗いてみると、最高から最低まで順に、25、7、5、5、1。

実に半数以上の人が、このホテルに最高点を与えている。「正直な高い評価」を先のウェブサイトに寄稿してくれたら、次の宿泊時に1割、料金を引いてくれるという甘い誘いに応じた結果である。

平均点を寄越したある家族連れは、「はしゃぎすぎの高評価にがっかり」と正直な感想を述べている。いずれも偽装評価だと気づいたのではあるまいか。

生後3ヶ月の赤ん坊が一緒なので、電子レンジと洗濯機のついた眺めのいい離れを希望したけれど、叶わなかったと不満を漏らしている。

洗濯ものを受付に持ち込むたびに、いやな顔をされ、ルームサービスの食器は24時間たっても回収されず、浴室の排水口からは悪臭が漂ってきたと記している。

最悪なのは、真夜中にベイビー・ベッドが、いきなり壊れたこと。幸い、わが子にケガはなかったものの、絶対にオススメしませんと結んでいる。

たいてい、苦情の書き込みのあとには、ホテルの責任者から弁解や謝罪の言葉があるのだが、上の「正直な低評価」には、何の弁明もない。もう二度とここに宿泊することはあるまいと踏んでのことであろう。

割引と引換えに、高い評価を寄せることを宿泊者に依頼していたことが新聞記事になったからには、この高級ホテルは、いずれ廃業することになるのではないか。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、あまりに高い評価ばかりになると、そのホテルには赤い旗をつけて、利用者に注意を促すと記しているが、記事が掲載されて、およそ1ヶ月半たった現在、この赤い旗は見当たらない。

きっと、「旅の助言者」までが賄賂に絡め取られたのではないか。こうなると、このウェブサイトまでが疑惑の目で見られることになるであろう。

このサイトは11年前に開設され、はじめは悪口のオンパレードになるのではないかと心配したそうだが、5000万件の平均点は5点満点の3.7という。不満をぶつけるならともかく、わざわざ寄稿してくれる宿泊者がいるだろうかと創業者は思ったと記事は伝えている。

筆者もたった一度だけ、宿泊したホテルの感想を国内の某サイトに寄せたことがある。はじめに、よく掃除が行き届いていること、掃除した人の名前が記されているのに感心したことを述べた。

それから、改善すべき点をいくつか記した。エレベーター内にベタベタ広告を貼っているのは見苦しいこと。廊下に自動販売機を置くのは、やめてほしいこと。深夜、ビールなどを買いに来られると、品物が取り出し口に落ちてくる音で、思わず目を覚ます客がいるかもしれないからである。

それから、各部屋にはケーブルテレビが引かれているのに、見たいと楽しみにしていた映画が何のタタリか、見られなかったことなど、ウップンをぶちまけた。すべては、これからの宿泊者のことを考えての改善案といってもいいだろう。

どうしてホテルの評価を記すことにしたのか考えてみると、受付での応対が良かったので、もっと快適なホテルになる可能性があると思ったからである。そうでなければ、倒産するがいいと見放して、ネットに寄稿することはなかったに違いない。

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