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ブラッドリー・クーパー - マエストロ その音楽と愛と(2023) Maestro

1945年から1980年にいたる高名な音楽家・指揮者レナード・バーンスタインとフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインの生涯を描いたブラッドリー・クーパーの監督作2作目。キャリー・マリガンのフィルモグラフィがどんどんと豊富になっていくね。『17歳の肖像』でウブな女子学生を演じた日から10年以上、『マエストロ』でのフェリシアのその複雑性にひれ伏した!

冒頭、まっくらな部屋のなかで電話を受けたレニーが、おもいっきりカーテンを開けるとふりそそぐ太陽の光は、これからのレニーの未来を想起させる。1946年、指揮者として代理ながら大成功を収める前夜。光(スポットライト、ひとびとの視線)をたくさん浴びるようになる人生。こどものように喜びを表現する(いっしょに寝ていた男性のおしりを叩くとか)。まるでミュージカルのなかの人生のように省略、軽快なテンポ。じっさいの体感もこんな感じだったのかもしれない。と思わざるをえないスピード感。このスピード感を保った年代が第一章とするとして(モノクロ、スタンダードの画面)、第二章は、結婚して子を産み、うなぎのぼりに人気を獲得していくレニーのかたわらで、そんなレニーの人生を後押しできなくなっていくフェリシアの葛藤を中心にしていたのかもしれない(カラー、スタンダードの画面)。実際、物語の展開のスピードは落ち、じっとりとした人間ドラマのような語り口に変化する。同性を愛するモノポリアック的なレニーにウンザリするフェリシアの葛藤、別居、赦しと復縁、からのフェリシアの病気と闘病、死。そして、最後に残されたレニーが、学生と楽しむランデヴー、それでも心にいるフェリシアの存在(カラー、ヴィスタ)。社会的、とりわけクラシック音楽界の同性愛に対する差別と偏見、タブー視されてきたセクシャリティをもつレニーと、それでもそんな彼と生きていくと選択したフェリシア(「あなたには私が必要よ」といえる強気)は、どうしても影の存在にならざるをえないながら、覚悟していた未来に耐え難くなることもまた人生という感じがある。ただ、公然と同性との関係を続けていたレナードと、その傍らで“良き妻”“良き家庭”を続けようとしたフェリシアの苦悩は観ていてつらいものがあった。婚姻関係を結ぶのであれば、互いに納得した関係のあり方を模索する必要性を感じてしまって、レニーの行動はあまりにも自己中心的なものにも思えてしまう。『マエストロ その音楽と愛と』というタイトルよりも『マエストロとフェリシア その愛と(ちょっと)音楽』のほうがよかったのでは。

  • Maestro
    PG12、2023年、アメリカ、129分 監督:ブラッドリー・クーパー 出演:キャリー・マリガン、ブラッドリー・クーパー、マット・ボマー、マヤ・ホーク

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