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大人も楽しめる童話集

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大人も楽しめる哲学的な童話
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#創作童話

【大人も楽しめる童話】おじいちゃんは名カメラマン

待ちに待った鼓笛隊パレードの朝、 香菜がはりきって家を出ようとすると、 おじいちゃんが玄関まで出て来て言った。 「香菜、じいちゃん、カメラ持って  香菜が通るの待ってるからな。頑張れよ」 「うん。でも太鼓とか鉄琴とか  目立つ楽器じゃなくて、  私、その他大勢のリコーダーだからさ。  おじいちゃん、私のこと見つけられるかな」 「なーに、大丈夫だよ。香菜を見つけられない  わけがないさ、はっはっは」 おじいちゃんは笑いながら、 手に持っていたカメラを見せた。 先月テレビの通信

【大人も楽しめる童話】紫陽花の浴衣

「長崎のおばあちゃんから、浴衣が届いたわよ。  おばあちゃんの手づくりだって。  …うふふ、おばあちゃんたらまた冗談言って。  着ている人の気分によって花の色が変わる、  ですって。今度のお祭り、これ着て行ったら?」 お母さんが小包を開けて、 おばあちゃんの手紙を読みながら言いました。 「どんな浴衣? 本当に色が変わるの?」 妹のさやかが駆け寄って来ました。 「まさか。おばあちゃんったら、ふざけてるのよ」 「なんだー、つまんないの。  わー、かわいい。さやか、こっちがいいな」

【掌編小説】小さな親友

ルカは、脳の病気をわずらっていた。 眠ると、それまでの記憶が消えてしまうのだ。 ルカの毎日は、朝、 前夜に書いた枕元の日記帳を見て、 すべてを確認することから始まる。 「名前はルカ、フランス、  パリ在住、年齢三十五歳、  勤め先はブルージュ不動産…」 ある日の昼休み、ルカはカフェ、ル・ロスタンで、 いつものようにコーヒーを飲みながら、 自分の日記帳をめくっていた。 「あ、クリストフじゃないか!」 店に入って来た自分より少し若い男が、 嬉しそうに肩をたたきながら言った。