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読書会

 遅い夏休みでブルターニュ地方に行ってきた。コロナの影響で極力遠出はしないようにしていたとはいうものの、やはり家を離れて別天地に赴くというのは生活リズムと気分を切り替えるのには効果的なのです。というのも、ここ数ヶ月よく眠れなくなっていて、ついに薬まで飲むようになっていたのですよ。(といっても漢方薬のようなもので、睡眠薬ではないのであんまりこれといった効果があるのか、半月ほど服用していてもあまりわからないんだけど…)それが旅行に行った途端、初日は自然と眠気が襲ってきて、こんなにぐっすり眠ったのっていつ以来?というほど深い眠りにおちいることができました。それ以外の日は入眠にやはり時間がかかったりしているんだけど、旅行前に比べたら少し改善されているのは事実ですね。
 ここ数年は車で国内旅行が主になってきているので、飼い猫も常に一緒なのもまた楽しい。猫なので犬のようにどこまでも散歩で連れて行くというわけにはいかないし、普段がアパート猫なので庭に連れ出しても怯えてしまうので、猫にとっては単なる苦痛になっているのかもしれないけれど、ここは勝手に猫もいつもと違う場所と空気を満喫していると思うことにしましょう。
 今回の旅の目的の一つはわたしの相方が長年参加している読書会に参加するというのもありまして、普段は読書自体には参加せず、集まって一緒にご飯を食べるっていうのには何度かご一緒しているので顔なじみのおばさま、おじさまと土地の名産をいただき、楽しいひと時を過ごしました。
 今回の課題図書はWatership Downというウサギが主人公の物語。原文が英語なのと、以前から読んでみたいと思っていたので思い切って参加したというわけです。わたしはフランスに住んでいるのにフランス語が苦手で、英語の方が得意ではあるけれど、外国語を知れば知るほど言葉の大海の広さに圧倒され、年々英語も仏語も衰えてきているように感じてしまう種類の人なので、英語の本を読むのも一苦労なのです。はっきりいって、歴史に名を残す名著であればあるほど、言葉は流麗に美しい分、読解もS級クラスに難しいのです。でも、本を読まなければ知ることのない言葉に出会えません。それこそが本当の面白さで、読めば読むほどに無限に学習することができるという、とんでもない知識欲が芽生えるという仕組みなのですね。
 自分の例に置き換えると、日本語ではそれがよくわかります。小さい頃は難しいと思って、何をいっているのかわからなかった文章など、歳を取ったからこそ?わかる面白さにあふれかえっています。谷崎潤一郎の細雪の、特に何も起こらないのに読み進んでしまうあの魔法はなんなのだろう?っていうのをつい去年知ったばかりです。そして最近芥川龍之介を読み返したりして、簡潔なのに無駄なく美しい日本語の素晴らしさに感動したりもします。(そして日本の本屋さんが恋しくなります。)
 さて、Watership Downは英国版のぽんぽこたぬき合戦みたいな物語でした。冒頭の数ページを読んで真っ先にわたしの頭に浮かんだのが、あ、ぽんぽこみたいだ、だったのです。でも、ぽんぽこを観たのもかなり前だったので、Watership Downを読んだ後映画を観直し、あ、日本版Watership Downだ、と思ったのでした。土地は誰のものでもないはずなのに、人間にとっては誰かのもので、そこに元々住んでいた動物からみた世界の物語。突然すみかを失ったウサギたちが様々なウサギと出会い、誰にも邪魔されない新天地を目指す。イギリスの田園風景を知っている人にとっては、美しい素朴でなだらかな丘の連なりや四季の描写に心を馳せることができるのではないかと思います。そして、都会育ちのわたしにも思い描くことのできる田園風景というのは、多分いろんな人に共通しているなと思ったのが、ぽんぽこを観返して思ったことなのでした。冒頭に出てくるいわゆる田舎の景色を観て、わたしの相方が「イングランドみたいじゃないか」といった一言が全てを物語っているようでした。
 都会育ちで虫嫌いなので、実際に生活したらいろいろ大変なのだろうけれど、玄関を開けたら田園風景とかっていいなぁと、またしみじみ思うのでした。

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