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haruka nakamura / Grace

 青森出身の音楽家haruka nakamuraの1stアルバムにして大傑作。彼の作品には、一貫してノスタルジーな雰囲気が漂っているわけだけれど、この作品は特にその匂いが強い。

haruka nakamuraは、1st~3rdで過去/現在/未来を表現した。『Grace』は3部作の始まりである「過去」にあたる作品だ。
 故郷の淡い風景を描いた『Grace』では、美しいアンサンブルだけでなく、まるで記憶の中だけに存在する公園で遊ぶ子供たちが奏でているようなはしゃぎ声や、今はもう無い映画館で観た映画のワンシーンを想い出すようなサウンドエフェクトが、凝り固まった過去を甦らせてくれる。また、ボーカル入りの楽曲も数曲あり、一曲目のEvery Dayなんかは最後に語られる”Every Day All I Love”が印象的だ。

 アルバムを通して感じられたのは、何気ない日常の美しさ、それが通り過ぎた時の虚無感。
 過去へのコンプレックスが激しいことに定評がある私は、このアルバムを夜に聴くことに対して抵抗がある。それは、夜にもう戻ってこない時に想いを馳せると憂鬱な気分になるからだ。
 優しい世界を表現した温かいアルバムだからこそ、私のような聴き手を心憂い状態にさせることもある。

 できるなら夕暮れ時に聴きたいものだ。1日の終わりにベンチに座りながら、1人で音の世界に入ってゆく。音楽好きになら共感して頂けるはず。

 また、トータル再生時間1時間を超えるアルバムを作りがちなharuka nakamuraだけれど、『Grace』は通しても50分で終わり、飽きることもなく、物足りなさも感じない、文字通りの名盤であると言える。 過去を想い、センチメンタルな気分に浸りたい方にオススメだ。 



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