「N」を読んだ

梅雨という梅雨を感じている三連休。この連休は外に出るタイミングがあり、暑すぎたのでハンディファンというものを購入することにした。外の生ぬるい風が来るだけじゃないか、と斜に構えていたけれど、案外涼しくてびっくりした。ここ数年で使っている若者をよく見かけていて、若い人が使うものだとばかり思っていたが、よく考えれば人類皆同じ気温の中で過ごしているじゃないかと気が付いた。私が思っている夏は、今来ている夏よりももっと生ぬるいもので、現実問題この暑さに対抗する術は活用しなければならない。そう思いながら外用で購入したのだが、あまりの便利さに家の中でもハンディファンを使っている今である。


昨日の夜、道尾秀介の「N」を読んだ。この本は6章からなっていて、各章の冒頭だけが書かれているところを見て、好きな順番で読んでいくというもの。読む順番で世界が変わるそうだ。

本屋さんのポップで興味をもち、購入した。前知識なく衝動のような感じで本を買ったのは久しぶりだったので、過度の期待をしてしまった。個人的に一番の敗因はストーリーのジャンルを全く知らなかった点。ミステリーなのか、サスペンスなのか、はたまたヒューマンドラマ的なものなのか。
帯を見るとミステリーと書かれていたが見落としていた。「物語のかたちは720通り」というところに目を奪われていたようだ。
読み終わった時、正直ミステリー要素はかなり薄い気がしたが、この本の構成と自分の思考力・想像力・妄想力によってその範囲はかなり広められるし、深められる気がした。読み終わって12時間が経った今、ジワジワと来ている気がする。

私は以下の順番で読んだ。
眠らない刑事と犬
名のない毒液と花
笑わない少女の死
消えない硝子の星
飛べない雄蜂の嘘
落ちない魔球と鳥

私はこの順番で読んでよかったと思う。読み終わった後、ネットでレビューなどを見てみた。どの順番で読んでみたとか、初めて読む人へのお勧めの順番などが紹介されていたが、正直みんな違う順番だった。確かにお勧めの順番というのはありそうだけれども、正解はなさそうだ。たくさんのレビューブログでは、各々自分が読んだ順番に満足していたから。
ただ内容については、どの順番で読んでも同じだとか、話自体は変わらない短編集とか言われていて、まぁ所感としては同意のところもあるけれど、この本の良さは内容以外の部分にもあるんだろうなと思った。
私が短編集を読むのに慣れていなかったり、著者について知らなかったり、過度な期待をしていたのは反省点。今までとは違う出会い方で、出会ったこのない初めてのもので、多分戸惑いの方が大きかったのだと思う。素直に面白かった。というより楽しかった、というのが近い気がする。

私がこの本で一番楽しめたこと。
この「N」は章ごとに登場人物や場所・事象などがリンクする部分がある。それが繋がっていくとき、私の脳内で作成されたそれぞれの静止画の解像度が上がっていく過程。
私は小説を読むと頭の中で映像化が行われる。映画ほどヌルヌルとした場面展開ではないが、静止画のようなものが断片的に出来上がる。本を書く人はすごい。過不足ない文字でその状態を表現できるのだから。
静止画は鮮明だけれども、ある程度はぼんやりしている。そのぼんやりしている部分は、本から読み取れない部分だったり、あえてぼんやりさせていたりする。そこはあまり重要ではない。だがしかし、あまり重要ではないからこそ、ぼんやりしていた部分の解像度が勝手に上がるときがくる。この瞬間が不意を突かれたような、よく分からない感覚で興奮する。
登場人物のぼんやりしていた顔がハッキリする瞬間は堪らない。先ほどモブとしてぼんやりと描かれていた部分が、次の章で意図しないところで不意に解像度が挙げられる。その解像度が上がるたび「ほほぉ」となるのだが、それと同時に体がゾワっとする。これがミステリー感なのだろうか。その人の表情までもが鮮明に描かれるような瞬間。それを絵に描けと言われるとぼんやりしていて無理なのだが、頭の中でははっきりとしている、謎な感じ。
これは犯人が最後に明かされる小説、最後にどんでん返しがある小説、そういったものと似ている興奮かもしれない。でもそれが自分が意図しない部分でランダムに、半ば強引に感じさせられるのでそこが新鮮で良かったように思う。

ただ個人的に不満を言うとすると、章ごとに本を上下逆転させないと読めないようになっている。1章から順番に読もうとすると章ごとに本を逆さまに持たないといけない。この仕様は購入時には私のワクワクを掻き立てたのだが、実際読み終わった後に「あの部分を読み返そう」と思ってもすぐに見つからなくて諦めた。なので今は完全に脳内の記憶から辿って物語を反芻している。本を読み終わった時、精神的エネルギーがかなり充電されている反面、どこか頭は疲れているような感じがする。
読み返したい部分はパラパラめくりながらページを戻る。それが嗜好の時間。逆に目次でページ数を確認し、その数字が出てくるまでパラパラめくるのは何故かかなりしんどい。そういった部分で個人的にこの本は読んだ後の読みなおし作業が大変だと思った。(できなかった)

いまは「凍りのくじら」を読んでいる。今のところ好きな感じである。中心人物の頭の中が丁寧に書かれている感じがするので、とても興味深い。
ジャンルは分からない。SF(すこしファンタジー)なのかな、と冒頭の部分から推測している。違ってもいいね、面白いし。
今日は3連休の最終日。外は雨が降っているので最高の読書日和である。あまり没頭しすぎず、今日の残りの時間を大切に過ごしていきたい。

p.s.5本指ソックスがあったので履いてみたがかなり快適である。

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