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TRPG プレイヤーレベルでのテキストセッションのテクニック

この記事はテーブルトークRPG(TRPG)を遊ぶ形式のひとつであるオンライン環境上で行われるセッション(オンラインセッション、オンセ)、その中でも主にテキストチャットを利用して進行させるテキストセッション、通称テキセをスムーズに、そしてスマートに進行させるために、プレイヤー(PL)はどんなことを準備しておくのかといったテクニックについて、yu-jinが4年ほどテキセ専門で遊んだ中で聞いたり工夫したりしたことについて述べたものです。

テキセの良さを引き出すために

テキセは究極のところ、音声によるボイスセッション、いわゆるボイセに比べて時間がかかる。どうやったって発声にキーボード入力は敵わないからだ。
「○○していい?」「いいよ」
音声なら2秒かからないこのやりとりですら10秒程度かかることも、ざらだ。スピードでは、圧倒的にダメだ。

だがテキセにはいいところもある。やりとりが文章=ログとして残っていくのは大きな喜びだし、もっと言えば即興の、口頭で紡がれるよりもずっと整理された会話をすることや、誰かが漏らした大切な言葉を"覚えている"こと、そして時には、物語のすべてを打ち抜くような言葉を発することもできる。適切なテクニックと、準備さえあれば。

「あなた」を作っておく

TRPGにおけるあなたの分身である「あなた」とは何だろう。
これは究極的な話「語の塊」だ。数字もまた語の一種である。ステータスのような数値と、ルールによって支えられた取引、そしてそれらだけでは表現しきれない複雑な語たちが「あなた」なのだ。
これを、人間が自分の記憶だけで、時間もかけずに把握し、決定し、支え続けることは無理がある。そのために開発されたのが「キャラクターシート」というツールなわけであるが、テキセの準備はこれをより拡張し、書き出しておくことにある。ではどういった拡張が有効となるのだろうか。

「あなた」の「基本語」

まず、テキセはほぼ突発的には開催されない。ほとんどの場合、キャラクターを作成し、仲間と相談し、調整したうえでキャラクターシートをGMに提出するための時間を与えられる。人によってはこの与えられた時間の中でセッション中のキャラクターイメージを固めるためにイメージ図、いわゆる立ち絵を用意する人もいる。

まずはGMの案内に沿って、その世界観に沿ったキャラクターを想像するところから始める。どんな種族なのか、性別や一人称、絶対に許せないものは何なのか、他人に何を求めるのか、仲間をどう思っているのか、どんな食べ物が好きで、どんな社会的地位で、どんな服装を好むのか。世界観があまりわからなくても、種族や性別、一人称などはすぐ決定できる。そうしたことを手掛かりに大まかな「あなた」をつかむことはできるだろう。この作業が「あなた」の普段の受け答え、つまり「基本語」を作ることになる。

「あなた」の言葉を調べる

そうしたら次は調査の時間だ。そのキャラクターが普段どんな言葉に触れているか、ある程度目星をつけ、よさげな言葉をストックしておく必要がある。あなたや「あなた」がSNSをしているなら簡単だ。Twitterなどで、そのクラスタの、沼の住人を数人調べてみるといい。基本的な単語が出てくるだろう。その単語が「あなた」の普段の雰囲気を作るエッセンスとなる。片っ端からざっと調べておこう。そこで新たな沼にはまるなら、まあそれはそれで。

また、そこで代表的な著名人や作品名も出てくるだろう。わざわざそれをすべて読む必要はない。「その著名人 名言」やその作品についてwikiを調べて、それをストックし、ある程度意味を調べておく。メモパッドやWordなどにコピペし、ストックしておくと良いだろう。Wordだといちいち形式を指定しなければならない場合もあるのでyu-jin個人としてはメモパッドを使うことが多い。

自己紹介を書いてみる

ここまで出来たらキャラクターの自己紹介を書いてみよう。他のPLと遊ぶために過不足なくこれが書けるようなら、ストックが十分な証拠だ。足りない部分は調査が足りないし、長くなるようなら自分の中で理解というか「練り」が足りていない可能性がある。この自己紹介は実際のプレイでも使う可能性が高いので、ちゃんと保存しておくと良いだろう。
こうした「あなた」が出来上がったのならば、あとはテクニックの話だ。

テクニック的な話

ここからようやく準備の準備を終え、実際のセッションの中で役に立つテクニックの話になる。とはいってもこれもyu-jinがやっているだけのことで、他にももっと優れたテクニックを駆使する人たちもたくさんいるし、こんな小細工を必要とせずにすばらしいロールプレイを見せる人もいる。参考程度にとどめておいて欲しい。

チャットパレットのカスタム

オンラインセッションを行う際よくお世話になるのが「チャットパレット」の存在だ。これはたいていオンラインセッションを行うためのサイトが機能として備えているショートカット集だ。よく使う判定やステータスなどを登録しておいて、呼び出しながらプレイする。(これはありがたいことにキャラクターシートからこれをある程度作ってくれるサイトもある)ここに、ひと工夫を仕込むことが多い。

「あなた」口調の宣言文

例えば行動タイミングに攻撃判定を行えるとしよう。多分、(システムにもよるが)セッション中何度もお世話になる判定のはずだ。それならばまず「あなた」の口調で判定を宣言する文章を作っておくのだ。
「メジャーアクションで殴る」といちいち手作業で入力するのではなくて「メジャーアクションで攻撃を宣言しますね」「メジャーアクションで攻撃判定を行うことを宣言するぜ」といった、比較的丁寧な宣言文言を先に作っておくと手早いし、プレイにも雰囲気が出る。また、これによってそのチャットパレットがあなたに「あなた」をインストールしてくれる。いわゆるキャラブレが少なくなっていくのだ。

判定は事前に作っておく

宣言文が終わったら「判定(いわゆる「1D100≧」であったりとかそういうやつだ)」を作っておく。これも良く使うバリエーションがあればそれを足しておいても良いだろう。またシステムによってはこうした定型文の生成を補助してくれるサイトが存在することが多い。

「あなた」のロールプレイ文章

判定のための定型文が作り終わったなら、それとセットでロールプレイ文章を作っておくのもいいだろう。例えば剣を振るなら「鋭く剣を振り下ろします。『せいっ!!!』」みたいなのでもいい。魔法を使うなら「杖をかざし呪文を唱えようか。『人か獣か名を問えば、大鴉は応えた。《マジックミサイル》』」これを2パターンほど作っておけばいい。つねに攻撃するたびにロールプレイをはさむのは冗長になってしまう。初撃と、重要な局面でだけ呼び出して使えばいい。少しだけ、その場でアレンジするのも良いだろう。1から練るよりずっとずっと早いだろうし、「あなた」の純度が高い。

セリフと地の分を分ける

これも基本的なテクニックだが「あなた」がそのセッション中のロールプレイとして発話するなら、つまりセリフを言うなら「」をつけると良いだろう。それ以外の、いわゆる行動を表す地の文は「あなた」として宣言するにしてもそのまま打つようにする。そうした使い分けをすることで、メリハリがきちんとつくので、GMや他のPLも非常に拾いやすくなる。TRPGは複数人が相互に語と数の処理をやり取りし、反応性を楽しむ。反応性を高めるために投げやすい球を投げておくに越したことはない。

ロールプレイを整理する

ロールプレイはするのも、見るのも楽しい。ただし、きちんとするべきことが、整理されていれば、といった但し書きが付く。なんだかもにゃもにゃとはじまって、何を言いたいんだかわからず、介入させる糸口もなく、ただただ時間を浪費してしまうロールプレイはストレスフルだ。自分にも、周囲にも。この場で何をするのか、それを整理するためにもメモパッドは有効だ。自分の手番が来た時に何を伝え、どんな描写をするかを軽く箇条書きするだけでもロールプレイは格段にスッキリする。「もにゃもにゃしたい」ならば「何々ということを、なんだか歯切れ悪く(もしくは整理のついていない様子で)もにゃもにゃと話をあっちこっちに飛ばしながら誰々に伝えます」と表記してみたらいいのだ。それだけで「あなた」の純度は上がるし、周囲もストレスが少ない。

ロールプレイを終わらせる

当たり前だが、テキセでは、画面の向こうで誰が何をしているかはわからない。ある程度は(「誰々が入力中です」といった表示が出るなどの)補助的な機能を持つツールもあるが、それも限定的だ。なのでテキセではちゃんと、ここで私のロールプレイはいったんおしまいですよ、他の人がバッターボックスに立ってくださいね、というサインを決めておく必要がある。ロールプレイが一区切りついたら「@」などのわかりやすいサインを出すといったようなルールを参加者全体で共有しておくとスムーズだろう。
時間より貴重な宝石は存在しないと、アラビアの賢人は言った。急げ、という気はないが、ダラダラ浪費しないための工夫はいくつあっても良いだろう。

雑談タブを活用する

大抵のセッションではシナリオの表舞台や判定を処理するためのタブ(宣言をまとめたログ)の他に、PLやGMが雑談をするためのタブが設定されている。ここでの発言は卓そのものの雰囲気を大きく左右するたとえば「あなた」は悪い奴だがいちいちひとこと多い、みたいなキャラクターだった場合、雑談タブではそうした行動をとるたびに、『とか言いつつこう思ってます』とか『すみませんうちの子が』とか謝り倒していくのが良いだろう。音声では伝わる『ごめんなさい』の空気はテキセでは全く通じないものと思った方が良い。
また他のキャラクターやGMのロールプレイで少しでも琴線に触れるものがあったら『ここスキ』『1000億点あげたい』『可愛すぎる』『強すぎて吐きそう』などの感嘆(?)の言葉も気軽に、そして多めに投げておこう。これはむしろテキセでの強みだ。他の形式では雑音になってしまう。

作業台としてのメモパッド

セッション中、大きな武器になるのがメモパッドだ。事前に調べ、作っておいた言葉や名言、つまりため込んだ「あなた」の材料をコピペして下の方にぶち込み、サイズを調整して、折り返し表示を設定して起動させておく。

これがあなたの「王の蔵」となる。セッション中必要になったらここからコピペしたり、参照したりしながらセリフを作っていくことになるのだ。
人によってはセッションを行うサイトの入力欄は簡単な受け答え以外はほとんど使わず、このメモパッドでセリフや文章を作り、コピペすることの方が多いとも聞く。こちらの方が広く、入力しやすいというのは理解できる答えだ。

また、誰かの言った印象的なセリフをコピペしておくのも良い。それを覚えておくだけではなく、まったく違うニュアンスで使って見せることによって、「あなた」が、そのキャラクター(敵でも、味方でも)をよく観察し、解釈し、それを心のどこかに留めていることを示すことができる。それはシナリオへの大きな関係性だ。

作業台はいつ働くか

こうした作業は事前に行うだけではなく、セッション中の待ち時間にも同時並行的に行われる。なぜなら、最初にも述べたようにテキセでは小さな受け答えでも時間が発生する。他人の見せ場を邪魔せず、雑談で会話に参加しながら、機を見計らい、そうした時間を利用して蔵の中にしまわれた言葉を練り、その場に合わせた形にして放出していく。そして同時に、セッション中の言葉を「新たな宝」として収納していくのだ。セッション中、特にテキセ中に無駄な時間は、ほぼほぼ存在しない。

GMは、セッション中の語の密度が高いと感じたならこまめに休憩を取ろう。おそらく高速で作業をしているPLがいるはずだから。

最後に

とりとめのなく、まとまりのない話をダラダラと書いたが、言いたいことをまとめるなら
「準備を怠るな」
「自分と他人の時間を無駄にするな」
「メモパッドは便利だ」

くらいのものになる。
良いセッションは、おおかた次のセッションを呼んでくれるものだ。
良いセッション、良い時間を過ごすために、最後に森田 一義氏、通称タモリさんの言葉に結論を仮託しよう。

「仕事じゃないんだぞ!遊びなんだから真剣にやれ!」

森田 一義

テキストセッションが、TRPGがあなたによい時間をもたらしてくれることを願っている。

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