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【デジタル庁 x ALGO ARTIS】DX推進のカギは「手抜き」と「勿体ない精神」?!物流2024年問題をDXの最大の好機に。

2024年5月10日、神谷町トラストタワー23Fで開催された『未来を創るDX人材:社会基盤を最適化するDX人材戦略』イベントで基調講演を終えた、デジタル庁参事官 兼 経済産業省情報経済課長 須賀千鶴氏と株式会社ALGO ARTIS 代表取締役社長 永田健太郎氏による対談が行われた。
当日のレポートをお送りします。

須賀 千鶴氏 プロフィール

永田 健太郎氏 プロフィール

インタビュアー: 株式会社ALGO ARTIS マーケティング責任者 澤 明理


澤: DXを加速するために、企業は何から始めるべきだと思いますか?

須賀: 少しご質問とはズレますが、そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)のポイントは徹底した手抜きですよね。日本人はきつくても歯を食いしばって頑張ってしまう傾向があり、それは平時には美徳であるのですが、DXの局面ではそれではいけません。
無理に現場の頑張りでその場を乗り切ろうとするのではなく、思い切ってデジタル技術、AIを導入し、非連続で抜本的な対処をしようという姿勢が求められます。従来のオペレーションをできるだけ変えずに維持しようとすると、かえって困難な道を進むことになりかねません。

現在、たとえば物流業界は2024年問題という大きな課題に直面しています。この機会を自社改革に大いに活用するべきです。変革には必ず理由が必要であり、非連続に変わろうとする際には誰しも社内外に対する説明責任を果たす必要があります。「2024年問題への対処が必要ですから」というひとことで社会的文脈を瞬時に共有できますと、説明コストを大幅に圧縮できるため、絶好の機会だと思います。

永田: 言い訳にできますよね。社内説明は時間がかかりますから。

須賀: 2024年問題を変革のチャンスとして活用しないのは非常にもったいないことです。

永田: そうですね。その観点から、*モーダルシフトなどこれまでにないアイデアを取り入れて進める企業もあれば、劇的な変化を実現できていない企業もあり、二極化が進んでいると感じます。

須賀: 物流業界にはまだまだ多くのDXによる効率化の余地が存在するように見えます。非効率の放置には社会的コストもかかっているわけですから、自社の生き残りのためだけでなく、社会全体のためにも、効率化を進めていただけたらと思います。

永田: 例えば『*荷待ち問題』もありますよね。

須賀: そうですね。手作業でマッチングしようとしても限界がありますが、デジタル技術を活用すればそれが可能になる。競合他社と機微情報を共有することなくマッチングすることも、賢くデータ連携基盤を構築すれば可能でしょう。

永田: 確かに。顧客と物流業者の間で適切に情報を共有すればできそうですね。

須賀: お互いに心地良い範囲内で情報を共有し、出したくない情報は出さない形でのデータ共有は、技術的には既に可能です。

永田: DXまでいかなくても、デジタル技術を活用できる範囲はまだ多く存在するはずですね。

須賀: 日本の市場は豊かだったので、立派な大企業が各業界に複数存在しています。これらの強大な企業が存在し、体力の続く限りライバル関係を続けてしまいますと、本来は非競争領域として協力可能な範囲があるにもかかわらず、国内競争で過度に消耗してしまう。

非競争領域を広く取ることは弱者の戦略であり、弱い立場の企業ほど競争領域を絞り込むことで初めて勝機が見えてきます。しかし、強い企業は体力があるために、他社と競わなくても良い分野まで競争してしまう。これは非常に大きな社会的コストです。このままでは、日本国内では強いかもしれませんが、グローバルな視点で見ると日本勢が全体として負けることになってしまいかねません。

澤: このような課題を解決するために、行政と民間が協力して推進することは可能でしょうか?

須賀: 日本以外においても、公的なものの役割は拡大していると言われています。デジタル文脈では、非競争領域を戦略的に切り出し、共通のインフラとして成立させるという重要な役割を政府が果たしていく必要があります。プラットフォームとなりうるインフラを皆で共有し、多目的に活用して稼働率を上げていくためには、旗振り役が必要です。

実行は企業に委ねられますが、「このレイヤーは切り出して共通化できる余地がありませんか?」といった提案を行い、競合する企業の知恵を結集させる『アレンジャー』機能を行政が果たすことが重要になってくると考えています。

永田: 確かに、いち民間企業が先行すると、競合他社からは牽制されますね。

須賀: 直接の話し合いが難しい局面もありますし、担当者同士は良好な関係であっても、企業全体としての意思決定が難しくなることもありますね。そんな時に「パブリックグッド(公共の利益)のための国策ですから、どうかお付き合いください」といった説明があっても良いのではないでしょうか。行政がその役割を果たすことが増えると予想されます。

澤: 行政が旗振り役を果たすことは、民間企業にとって非常にポジティブな影響を与えますね。具体的なプロジェクトは進行中ですか?

須賀: 現在、我々は*デジタルライフライン全国総合整備計画を進めているのですが、どんなに大きな企業でも、無人の自動運転車が公道をびゅんびゅん走る、ドローンが街の上空をバンバン飛ぶ、自動建機が24時間ノンストップで工事する、などの未来を実現したいと考えても、自社だけでは決してできない。

これらを実現するには官民の多くのプレイヤーが足並みそろえて協力することが必要です。そのために、全体の設計図やto be像を示し、協力が欠かせないプレイヤーにそれぞれお願いし、タスクの分担や協力体制を構築していくアレンジャーの役割をこの計画が果たせればと思っています。

永田: 自社の技術だけでは明らかに不十分ですよね。様々なデジタル技術を持つ人々をうまく集積することが必要ですよね。

須賀: デジタルライフライン全国総合整備計画の中では、例えば、先行的に取り組むアーリーハーベストプロジェクトのひとつとして、地下の配管工事のための3Dマップを共通化する取り組みが行われています。ガス、水道、電気、通信などの配管が地下に埋まっており、これらの点検やメンテナンスのために各事業者が毎回バラバラに道路を掘り起こしているのが現状ですが、これらの配管情報を共有することで工事の効率が大幅に向上する可能性があります。

現在、このプロジェクトに参加しているのは大手インフラ企業が主ですが、実際にはベンチャー企業の持つセンシング技術を活用して3Dの地下マップを作成するなどの取り組みも可能なはずです。

永田: それぞれが持つ情報をデジタル化し、統合し、共有することで、同じ作業を重複して行うことを防げますね。

須賀: そうです。今こそ、日本人の「もったいない」精神を生かすべきです。特にこのDX時代には、その精神が重要です。

永田: 確かに、それは興味深い視点ですね。

澤: 須賀さんが設立から関与されているデジタル臨時行政調査会の役割が非常に重要であり、行政内のDXもかなりスピードアップしていると感じていますが、須賀さんが目指しているゴールに対してどのくらい進んでいると思いますか?


須賀: 日本は人口が減ってきていることをずっと最大の社会問題として悩んできている国ですよね。世界で最も早く少子高齢化が進み、日本は「詰んだ」と世界では思われている。

これから国が老いて小さくなっていく中で、起死回生の一手はデジタル技術です。他国では雇用を脅かすとされるデジタル技術が、日本では人手不足の救世主と見なされています。生成AIが登場したことで世界中が脅威を感じている中で、日本はむしろこの技術を歓迎している。日本にとって、生成AIはゲームチェンジャーとなる可能性があります。この技術が社会に浸透し、人手不足による社会の行き詰まりを解消する効果を発揮しはじめたときが、私が良かったと思う瞬間であり、デジタル政策に取り組む中で究極的に目指しているところです。

永田: それはまさに起死回生ですね。

須賀: そのためには、さらにDXのアクセルを踏む必要があります。人口が減り、生活必需品が全国津々浦々には届かなくなって、地域の豊かなコミュニティが崩壊してしまう前に、今すぐDXを進めなければなりません。

永田: 確かに、必要になってからでは遅いということですね。

須賀: DXには一定の体力が必要です。トランスフォーメーションにはエネルギーが求められます。体力があるうちに未来を見据えて取り組むことができる今が、最後のチャンスだと思っています。

永田: それは確かに。民間のエコノミクスを待っていると手遅れになりかねないですね。

須賀: 政府としては、少し前のめり過ぎるかもしれないと思われるくらいで進めています。例えば自動運転車についても、「まだそんなに台数がない」と言われても、「それでも必要だからやるんだ!」という気持ちで進めています。

永田: そこは確かに国の使命かもしれないですね。

須賀: 我々としては、皆さんに協力をお願いしたい、この大きな社会問題の解決に共に取り組んでくださいと祈るような気持ちなんです。

澤: 確かにお話を伺うと、現在取り組まれていることが非常に関連していると感じます。経済が縮小してからでは手遅れですよね。今の慣性を保っている間に進めた方がいいですよね。
そういった中で、民間企業に期待することはありますか?我々もDXを推進する企業として、協力できることがあればと考えています。

須賀: 民間企業には大いに期待しています。特に御社のメンバーのように若い人たちが意思決定の中心に出てくることが重要です。若いというのは年齢ではなく気持ち、振る舞いです。例えば生成AIが世に出てきた時、検索する前に部下に「生成AIって何なんだ」と聞くようではいけない。ネットにいくらでも情報があるのだから、基本的な知識は自分で必死で学ぶべきです。そのような若さや積極性を持った人材が意思決定の中心に出てこないと、DXの推進は難しいと感じています。勉強しない人に質の高い判断をしてもらうのは大変だからです。

永田: 現在の社会インフラを支えているのは、いわゆる日本の大企業、伝統的な企業です。我々はスタートアップとして若い企業ですが、社会の主役ではありません。我々はエンパワーメントの役割を担う立場として変革を目指していますが、非常に難しい。政府からもマインドセットを変えていくような取り組みがあれば、非常に助かります。

須賀: マインドセットを変えるために重要なのは、成功事例を作ることだと思います。若い才能が意思決定の中心に引き込まれている企業が成功する、そういった事例を一つでも二つでも作ることが重要です。若さだけが重要というわけではありませんが。永田: 志のある優秀な人材ということですね。須賀: そのような人材がまさにDX人材だと思います。永田: 現在、若手を積極的に抜擢する企業もあれば、何も変わらない企業もあり、数年後にはDXの推進速度により差が出てくるかもしれませんね。須賀: 「抜擢」という言葉も上から目線ですよね。「あなたの才能を貸してほしい」「頼りにしている」「助けてほしい」といった姿勢で臨む経営者がどれだけ大企業で増えるかが重要です。永田: その変化を見守りたいですね。そういった企業には、私たちもお手伝いができます。本気で取り組んでいる企業とは話が進みます。

澤: 最後に、物流問題やAIの問題に取り組んでいる中で、メディアや世論として注意しなければならないことはありますか?


須賀: この問題に取り組み始めて感じたのは、「やってるふり」をしている企業がとても多いということです。私達は切実な社会問題を解決するために、本当にやる気がある企業を見極めて一緒に取り組みたいと思っているのですが、「政府とコラボしている」と言いたいだけの企業も多かったりして、我々はこの人たちに賭けても良いのだろうか?と常に考える必要があるように感じています。

永田: 本物と偽物を見極められるように、社会全体でリテラシーを高めることが必要そうですね。

<まとめ>

『物流業界の2024年問題』をDX推進のチャンスと語る須賀氏。一方でまだまだアクセルを踏まなければ手遅れになるとも語る。手遅れになる前に、DX人材をフル活用して世界競争力を上げていかなければならない。日本の起死回生はDXにあり。

*1) モーダルシフト:トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することをいいます。
*2) 荷待ち問題:荷積み・荷下ろしのために荷主や物流センターなどの都合で生じる待機時間が発生し問題視されている。

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