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もうこれ以上は踏み込めない、ぎりぎりのところで一人のひとの「生」を垣間見てしまう瞬間 小森はるか(映像作家)

佐藤真さんが探求し続けた「日常と隣りあわせにあるもうひとつの世界」。佐藤さんの映画でしか感じられないその世界が、確かに在るのです。それが映像に残るのは怖いことだと気付かされもしますが、心の深いところで感情が揺さぶられた一瞬を、あれは何だったのだろうと引きずってしまう気持ちにも正直になっていきました。もうこれ以上は踏み込めない、ぎりぎりのところで一人のひとの「生」を垣間見てしまう瞬間。なぜ人の暮らしにカメラを向けたい欲望が湧き上がるのかを考えさせられます。
 
そもそも「日常」なんて、映らないかもしれない。映画にならないかもしれない。最初の監督作となった『阿賀に生きる』を作っていく、佐藤さん自身の葛藤の軌跡が映画や著書のなかに刻まれています。被害ではなく、阿賀に生きた人々の誇りを描きたいと、悩みながらも「日常」を撮ることを貫き続けた姿勢に、とても励まされました。そうでなければ「もうひとつの世界」は現れないものだと知りました。お会いすることは叶いませんでしたが、その軌跡を辿る度に、私はいまの場所で悩み続ける根拠を教えてもらっているように感じています。
 
きっと佐藤真作品にこれから出会う人たちにも、もう一度出会いたいと思う人たちにも、右往左往しながらでいいと、他者と他者に魅せられる世界へ、関わりたいと思う勇気を与えてくれるのではないかと思います。
 
小森はるか(映像作家)

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