【広島商人】知られざる戦後復興の立役者(11)再度の懇請を引受ける
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11 再度の懇請を引受ける
広島に帰ってから十日ばかりたったある日、私はふたたび県庁仮宿舎におもむいた。
「ご苦労ですが、もう一つ久保さんに頼まなけゃあならんのです。
どうか引受けてもらいたいのです」
と、藤島課長は大きな机の上に両手をおいて、
真剣な顔つきで言うのである。
私は煙草を吸わないので、右手を課長の机の上におき、左手は自分のひざの上において、椅子にかけたまま、課長のいわれる言葉をいぶかしそうに、
「へえ、そりゃあ何の用件でしょう」
「実は、罹災者に対する簡易畳の製作と配給を
引受けてもらいたいのです」
私は、さすがにためらった。
「しかし、まだ叺の輸送も終っておらんようなぐあいで、
現在のところちょっと無理ですから、まあ組合の者とも連絡を
とってご返事いたすことにしましょう」
と答えた。
現在、家族の先行きなどを考えると、いかにすべきか見当がつかない。
まずわが家のことを何とかしないと、とても他人の仕事までは身の動きがつかない。
しかし、課長は私の考えを顧みず、つづけた。
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この文章は昭和31年11月に発行された「広島商人」(久保辰雄著)の冒頭です。(原文のまま、改行を適宜挿入) 広島は原爆が投下された約一か…
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