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【広島商人】知られざる戦後復興の立役者(3)灰燼のわが家へ

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3 灰燼かいじんのわが家へ

 何はともあれ、我が家へと足がむいた。
家族の安否を一刻も早くと心はいらだつが、通路にはたくさんの人が焼け死んでいる。
そのしかばねをふみこえ、ふみこえ、煙の中をむせびながら歩くのだから、危いことかぎりない。
突然、一人の男が私のよろめく足をとらえた。
 
 「どうぞ、うちへつれていってくれえ」
 
 むざんな形相ぎょうそうで、はや死にそうだ。
 
 「すこしおまち、そのうち救護班がくるから」

 「待っとります。どうかつれて帰ってえ」
 
 私はよろめく足もとで歩いたとたん、どすんところんだ。

他の人が倒れていた。
はっと思って立った。
この負傷者も足をとらえて、
 
 「どうか私をつれて帰ってえ」

 「待ちんさいよ。救護班をつれて来ますよ」

 「わしゃあ、えっと財産があるんじゃよ、お礼はなんぼでもあげるけん」
 
 と言葉は絶え入りそうだ。
木の葉のようにふるえながら、何度もたのんでつよくとらえる。
 
 「そいじゃあ、どうぞ待ちんさいよ」

 「待っておりますけえの、たのむよ」

 「気の毒なこと じゃある」
 
  と、私は人々の苦悶に心をうごかされた。

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5,829字
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この文章は昭和31年11月に発行された「広島商人」(久保辰雄著)の冒頭です。(原文のまま、改行を適宜挿入) 広島は原爆が投下された約一か…

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