神の不可知性と位格の理解、及び神と被造物の関係性

神の不可知性

不可知である神は οὐσίᾱ(本質)として実体、本質をもち、三位格としてあらわれるためには ὑπόστασις(基体) として父、子、精霊のかたちをとる。οὐσίᾱ は「在る」けれども捉えることは出来ず、ὑπόστασις としては捉えることができる。οὐσίᾱ は ὑπόστασις の根源。

φύσις(自然)は神の本質的な性質を指し、三位格は神が具体的にどのようにあらわれるのかを示す。「三位格としての役割」はοὐσίᾱ の φύσις としての側面、「神の本質的な秩序」からそういう面を捉えて形成したもの。捉えられない οὐσίᾱ のものを、経験的な観察から φύσις と捉え、規定したもののうちの一つと言える。

「神の本質は完全に理解することはできない、「不可知」である」(グレゴリオス)。これは、神が人間と同じような存在ではなく、人間の知性を超越した存在であるため。

神の本質を直接的に理解することはできないが、神の働きや被造物を通して、οὐσίᾱ の περι(周囲)から間接的に理解することはできる。一例としての「επινοια(思考・概念)」と「δύναμις(力)・ἐνέργεια(働き)」という概念を用いた説明。

επινοια は、人間が理性によって神の本質を概念化しようとするもの。しかし επινοια によって理解できるのはその全体ではなく、神の本質の一部に限られる。

δύναμις は、神の内に秘められた力。ἐνέργεια は、その力によって行われる働き。多様な世界の創造は、神の δύναμις と ἐνέργεια によってのみ説明される。

δύναμις と ἐνέργεια は密接に関連した概念であり、切り離しては考えられない。δύναμις は ἐνέργεια を通して現れ、ἐνέργεια は δύναμις によって支えられる。

神の δύναμις は無限、その ἐνέργεια により多様な世界が創造される。しかし神の δύναμις と ἐνέργεια はあくまでも οὐσίᾱ  から派生したもので、神の本質そのものではない。


οὐσίᾱ の二通りの説明

他の基体・主語の述語にならない το υποκείμενον ἔσχατον(究極的な基体)という捉え方と、そうした基体の内に在る τόδε τι(このもの)、χωριστός(分離可能な)、 μορφή(形態)や είδος(形相)。(アリストテレス)

アリストテレスは οὐσίᾱ を多様な定義・用法のもとに使っていた。οὐσίᾱ がラテン語で substantia と essentia という二語に分けて訳されるようになったのも、そうしたアリストテレスの用法が由来。

アウグスティヌス位格理解「神の essentia は常に同一」では、この το υποκείμενον ἔσχατον としての、substantia 的ニュアンスのもので「論理的、不変性、永遠性」を強調するのに対し、οὐσίᾱ は「存在的、唯一性、源泉性」を強調する。


位格理解

アウグスティヌスの三位一体の persona(位格)の γένος(類)と εἶδος(種)という二つの概念を用いた説明。γένος は共通の性質を持つもののグループを指し、三位一体の神性という共通の性質を持つ父、子、聖霊は、γένος の関係にある。

εἶδος は特定の性質を持つ類のサブカテゴリーを指す。三位一体の父、子、聖霊はそれぞれ異なる存在契機を持つため εἶδος の関係にはなく、εἶδος とはしない。

πρόσωπον は一般的には ὑπόστασις を具体的に表す概念。ὑπόστασις は唯一の神の本質から派生した存在であり、πρόσωπον はその存在を具体的に表すための概念。

εἶδος(種、形態)。普遍的な本質や理想的な形態を表す。西方の三位一体論においては、神の本質である「神性」を指す言葉として用いられる。

πρόσωπον (顔、人物)。具体的な現れや個別のアイデンティティを表す。三位一体論においては、父、子、聖霊という三位一体の個々の人格を指す言葉として用いられる。

ὑπόστασις(位格、実体)。具体的な存在や実在を表す。三位一体論においては、父、子、聖霊という三位一体の具体的な位格を指す言葉として用いられる。

εἶδος は三位一体の神の普遍的な本質である「神性」の強調、πρόσωπονは父、子、聖霊という三位一体の個々の人格が焦点、ὑπόστασις は父、子、聖霊という三位一体の具体的な位格と実在性を強調する。


神と被造物の在り方

οὐσίᾱ は神の本質、実体。神は唯一かつ永遠の存在であり、変化することはなく、神の不変性、超越性、絶対性を表す。

ὑπόστασις は位格、個体。οὐσίᾱ に基づいて個性を持った個別の存在が生まれ、個々の存在の固有性、独自性を表す。

人間や被造物は神から生まれ、神の一部が象られたと考えられる。しかし神とは異なりοὐσίᾱ は有限であり、変化し、消滅もする。

人間や被造物は、それぞれ固有の ὑπόστασις を持つ。個々の人間はそれぞれ異なる人格と個性を持ち、個々の被造物は、それぞれ異なる性質と役割を持つ。

人間や被造物が死ぬこと、あるいは実体が無くなることは οὐσίᾱ の変化ではなく、ὑπόστασις の変化として理解することができる。人間や被造物の死はὑπόστασις が神に帰るということ。それにより個々の人格や個性は消滅するも、οὐσίᾱ は神に帰る。神の本質である οὐσίᾱ は変化することはなく、人間や被造物の死は οὐσίᾱ の変化ではない。

以上、神の不可知性の観点から見た位格理解と、神と被造物の在り方と関係性を一例として示した。



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