見出し画像

【コラム】心はどこにあるのか?

 心理学は、その名の通り、心のことを考える学問です。しかし、心は目に見えません。さて、心はどこにあるのでしょうか。

 「心のことを考える」といいながら、その在処(ありか)さえはっきりしないなんて、なんとも頼りないと思うかもしれませんね。しかし、これまでたくさんの人がこの問題を考えてきましたが、結論は出ていません。そして、もっと言えば、それを考え続け、考えの幅を広げていくことこそが重要なのです。

 いくつかの考え方を紹介しましょう。

(1)心は心臓にある
 心は「heart」と言いますが、「heart」は心臓のことでもあります。日本語の「心臓」にも「心」という文字が入っています。確かに、緊張すると心臓がバクバクしますね。これは古代では有力な考え方でした。

(2)心は脳にある
 この考えに賛成する人は多いのではないでしょうか。脳の中には感情を司る部位があることが明らかになっていますし、考えたり判断したりする機能を担う部位もあります。もし脳が止まってしまったら、心も止まってしまう気がしますね。

 この二つは、心の座が人の内側にあるという点で共通しています。それと違う考え方を紹介しましょう。

(3)心は人と人の間にある
 あなたの心は、あなたと誰かの間に位置しているということです。 「自分の心なのに、自分の体の外にあるの!?」と意外に思うかもしれませんね。
 しかし、わたしたちの心は相手に左右されます。たとえば、家族といるとき、密かに好意をもっている異性といるとき、学校の先生といるとき、警察官といるとき・・・一緒にいる相手が誰であるかによって、私たちの気持ちは大きくかわります。話す時の言葉も、何をどこまで話すかさえもかわってきます。つまり、私たちの心は、体の中に閉じ込められているというより、相手との関係に開かれているということができます。

 このような考え方の違いは、心の問題(不安や緊張、気分の浮き沈み等)への取り組み方の違いを生み出します。

 「心は体の内側にある」という考え方では、体の病気と同じように、心の問題の原因がどこにあるかを突き止めて、それを解決するという視点が導かれます。
 それに対して、「心は人と人との間にある」という考え方では、心の問題に苦しむ人と心理専門職(カウンセラーなど。臨床心理士や公認心理師)との関わり合いによってどんな経験が展開していくのかという視点が重要になってきます。

 どちらの考え方が正しいかとか、どちらが優れているかということではありません。その答えはこの先もでないかもしれません。しかし、それを考えていくことの面白さが、「学問」にはあるのです。

(心理学コース 教授 渡辺 亘)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?