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猪口才な彼女

いつもとかわらない流れで
車から降りると
少し待っていてくれと女に無愛想に言い放ち
自分は中腰でいそいそと喫煙所に向かう
どこへ行くにも何かやる前にはニコチンを摂取する
これがないと病気にかかってしまう
そんな気さえする
医者は人々の病を治す為に有る
しかし病にならなければちっとも私の具合を診てはくれない
とてもとても困った存在である
私はそんなくだらないことを考えながら自動ドアの前に立つ
中を確認すると
部屋には20歳くらいだろうか
1人だけ大学生らしき青年がいた
最近は密を避けるために喫煙所は3人までしか入れない
私は安堵して中に入った

タバコに火をつけて一服する
女は今頃自分の欲しい物を適当に見ているだろう
私との付き合いに慣れている彼女はこの時間を有効活用しようと必死である
付き合い始めて間もない頃にはタバコをやめてほしいと私に言うこともあったが
タバコを吸うのを我慢している方が病人に見える私を見て彼女はすっかり心を入れ替えてくれた
簡単な女である

タバコの匂いがしていますね

奇妙な声にゾッとした
冷や汗が背中から噴き出してくるのを感じる
こんな風に感じるのは久しい
ふと横を見ると先の少年が突っ立っている
タバコも吸わずに興味津々にこちらをずっと見ている
これに私は気づかないはずはないのだが
今はそんなことを考えている暇はない

なんと言いましたか

ききかえしてみる

タバコの匂いがしますね

少年は確かにそう言った
頭がクラクラする
当たり前である
ここは喫煙所なのであるから
少し会釈をしてその場を立ち去ろうとする
しかし何故だろう
足が動かない
大体なんでこんな若造に俺は会釈などをしようとしているのかもわからない
こいつはやばい
いち早くこの場から立ち去りたいがしかし、
この少年に吸い寄せられるように
この場に魂がいなければならないと私の体に告げられている
恐る恐る口を開く

タバコ吸いますか

私は自分の持っていたセブンスターを少年に渡した
手が震えてしまっているのを気づかれてしまっただろうか

なんですかこれはもしかしてタバコですか?

そうです
あなたはタバコを吸うためにここにいるのではないですか

そうだ!!!
そうだった!!
すごい!あなたはすごい人だ!!
ありがとう!
いつかこのお礼は必ず!!

そう言い放って少年はタバコをむしゃむしゃと食べ始めた
私は絶句していた
少年は満足げな表情でそそくさとその場を去った

なんだったんだろう

いつのまにか手から落としてしまっていたタバコの火を
慌てて靴の裏でズリズリと消して灰皿に捨てる
一連のよくわからない現実を目の当たりにして私は動揺していた
私は残り一つのタバコに火をつけた
この時のタバコは普段とは違う味がしたんだ
-
-
-
確認できたよ
大丈夫 問題ない
ありがとう
ショッピングセンターの屋上にはフレンチコートを着た美しい女性が1人立っていた
私のせいじゃないも〜ん
世界なんて知らんも〜ん
女なんて男なんて知らんも〜ん
いいかい◯◯ちゃん!!
世界は厳しいの!
そんな甘くないの!
だ〜か〜ら〜
ぼこぼこのくちゃくちゃにしようかな?
それともずぶずぶのひたひたにしちゃおっかな??
ま、どっちでもいいのか〜な〜!!
私はまだまだ子供だも〜ん
人のものは俺のものぉお〜!
えい!やー!!
いよいしょ!
うん!お腹が空いて力が出ない!
子宮が重いよ!
あーんダメ!そこだけはだめ!!
イタイ!痛い!いたい!!
そうでもしないといけないのでーす!
よっしゃ!!
いっちょ!クライマックスやでぇえ!!!!!
とぉおっ!!

と言うと彼女は地上に降り立ったのである
着地にはもちろん
失敗している
2人は翌日には
ニュースやネット、新聞などで有名人になった
彼女の小さな頃からの有名人になりたいという夢は
このようにして叶えられた

ただそれだけである

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