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傷ついた君に

——そんなに泣いて、何か辛いことでもあった?

——そうか、それは大変だね。人ごとの様に聞こえたかもしれないが、許してほしい。僕にはその困難を自分のことのように語ることはできない。その権利がないんだ。だから、冷たく聞こえてしまったとしても、許してほしい。君は今、人生の困難さ、辛さを味わっているんだね。これ以上にないくらいに。だからそんなにも辛いんだね。苦しいんだね。その気持ちはよくわかるよ。僕も人生の困難さを前に何回立ち尽くし、そして、もうこれ以上進めない、と思ったか知れない。でも、今こうやって生きている。だから、老婆心ながら、わずかでも、今の君の力になれることを願って、お節介を言わせてほしい。

——今の君は、さまざまな感情が嵐のように吹き荒れていて、自分ではどうすることもできないんだと思う。そんなときは、紙でもパソコンでもいいから、今のその吹き荒れる気持ちを書き出してみよう。体裁はなんでもいい。箇条書きでもいいし、書き殴るのでもいいし、文章でなくていい。吹き荒れる嵐の一瞬を捉えて、言葉にしていく。それは長いかも知れないし、短いかも知れない。僕のメモを抜粋してみよう。

挫折、人生の辛さ、辛酸、阻害、拒絶、徒労、空費、空費、空費、
虚無、不条理、無意味、無意味、無意味、

いつかの僕のメモ(抜粋)

——意味はわからないね、でもこれでいいんだ。これを続けている間に、涙が溢れてしまうかも知れない。それが大事なんだ。いっぱい書いて、いっぱい泣こう。

——この過程の目的は、感情の吐露にある。自分が今、なぜ泣いているのか、それは嵐の最中にいる自分ではわからない。風で目を開けることすらままならないだろうからね。だから、感情の整理の前段階として、瞬間、瞬間の感情を外部に吐き出すんだ。するとどうだろう、完全とはいかないまでも、嵐のミニアチュアが、パソコンなり紙に現れることだろう。書き終わったと思ったら、そのメモを眺めてみよう。もしまだ涙が出てくるようなら、まだ感情が残されている。その感情を綴ろう。涙が出てこなくなるまで、綴ろう。君は晴れて、嵐の観測者になれるだろう。

——次は、感情の俯瞰だ。そのメモを前にして、嵐の観測者である君はなにを思うか?さっきあげた"いつかの僕のメモ(抜粋)"を見て僕が思うのは、大変だなぁ、ということ。いつの間にか、僕の苦しみは相対化され、"そうか、それは大変だね。"なんて思っている。自分はもはや、被災者ではなく、嵐の観測者であり、束の間かも知れないが、その苦しみは自分とは切り離されて、メモの上に存在している。落ち着いた気持ちでメモを見返すことができれば、これに成功していると言っていい。

——あとは君の理性の出番だ。今回はここまでにしよう。感情の渦から抜け、理性の力が働くようになれば、しめたものだからね。ほら、雨も上がったようだよ。

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